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師匠お願いします

 何処で手に入れたのかよくわからないトカゲのポケットマネーのおかげで、無事に終わらない道場工事を依頼できた俺は、素振りを見るだけの日常に戻っていた。


 弟子達に「死ぬほど素振りせよ。大国二つと戦争で勝てるようになるまで素振りせよ」と念を送る毎日。


 これほど真剣に素振りを見るのは初めてだ。

 相変わらず魔王の素振りは人智を超えている。これを全員できるようになれば、勝てる……か?


 どうすれば、弟子全員を魔王にできるのか考えていたある日、沈んだ様子の魔王が俺に話しかけてきた。


「師匠、暇をいただきたく……」


「…ふむ」


 いつもなら喜んで許可した。


 だが、何故今なのか。

 延命したとはいえ、俺は命を狙われているのだ。最高戦力の魔王が俺の側から離れるのは困る。


「魔界で我は勇者とやらに敗北し、死んだとされていたのです…… 昨日、道場の追加工事の為に城へ財宝を漁りに行った時には、それはもう驚かれました……」


 でしょうね。


 魔王が魔界とやらに帰っているところを俺は見たことがない。


 俺が見ていない時に帰っているのかと思っていたが、放置してしたのか。魔王……それでは立派な魔王になれないんじゃないかな。


「現在は我の側近であった者が魔王を名乗り、我の弔い合戦の準備を始めていたのです」


「…ふむ」


「そやつは我と初めて会った謁見の場で粗相を……我にびびって漏らしてからは、周りに侮られ落ちぶれていたので拾い上げたのです。 その、あまりにも哀れで」


 魔王がお漏らしキャラ製造機なのは新人達の件で知っていたが、今も昔も変わらず、お漏らしキャラ製造機だったのか。


「その件を義理に感じているのか、そやつは何としても我の仇を取るつもりだったそうなのです。 お漏らし魔王と罵られながらも我の仇を取るために魔族を纏め上げようとする、そやつの姿を見て、流石に我も反省しましたぞ……」


 そ、そうだな。早く帰ってあげなさい。

 部下を放ってこんな所で素振りなんかしてないで。


 っ!だめだ、流されて許可したら俺が死ぬ。


「一言ぐらい……何か言ってから、道場へ入門すればよかった……」


 そ、そうか。入門するのは確定事項だったんだな。


 うちの道場の何が、そこまで魔王を惹きつけるのだろうか。

 説明されても俺では理解できないんだろうなぁ……俺の道場なのに。

 

「そのような事になっていたと知ってしまった我は、その……どうすればいいのか分からず隠れていたのですが、予想外の事態に動揺していたせいか、ステラ……お漏らし魔王に見つかってしまい「もう何処にもいかないで……」と泣きながら懇願された次第でして……」


 俺にわかりやすいように言い直すな。

 ステラさんが可哀想だろうが。


「苦労させてしまいましたし、ステラが落ち着くまでは魔界で大人しくしようと思い……しばらく暇をいただきとうございます」


 ステラさんの為にも許可してあげたい。

 だが、今の状況で戦力の分散は……


 トカゲとシードちゃんはどの程度強いんだ?クソ雑魚な俺には、我が道場の戦力がどの程度強いのかすら理解できていない。


 不安だ。

 照れ屋なトカゲと幼女なシードちゃんだぞ。

 普段の様子からは強さなんて微塵も感じない。


 一番強そうな魔王に離れてほしくないなぁ。

 俺はまだ、死にたくないし。


「魔界ってどんなところですかぁ?」


「むぅ、なんと言うのが適切かはわからぬが、非常に豊かな土地ではあるな……」


 クロエの質問に答えた魔王。


 豊かな土地?魔界が?俺の想像では地獄の一歩手前だったけど、豊かな土地なのか。


 俺はその言葉を聞いて閃いた。


 豊かな土地を支配する魔王。その魔王についていけば楽に暮らしていける!


 魔王の問題も解決でき、俺の問題も解決できる。

 完璧だ!それでいこう。


 ついでに弟子達も魔界とやらに連れて行くか。

 ここにいたら危ないかもしれないし。


「魔王よ、我ら全員で魔界に赴くことは可能か?」


「む、むぅ、 クロエはともかくとして、新入り達もですか?」


 魔王は渋っているようだが、俺には魔王に『はい』と言わせる魔法の言葉がある。


「魔王よ、試練だ」


「……っ! 新入り達にはまだ早いと思いますが」


「困難が人を成長させるのだ。 魔王よ、頼む」


 頼むから養ってください。俺たち全員を。


「承知しました」


 よっしゃ!これで魔王のヒモとして末長く生きていけるぞ!


 魔界について説明すると言って、弟子達を集めた魔王。


「魔界とは、非常に魔力が豊かな土地だ。 故に魔に高い適性がある我ら魔族以外は生きづらい土地でもある」


 …ふむ。


「それに、濃厚な魔力を常に吸収しながらも生きながらえ、環境に適合した魔物達がいるのだ。 これが非常に強力だ。 人間界に住んでいる魔物などやつらに比べれば羽虫同然よ」


 地獄じゃねーか!

 魔王に詐欺師の素質があるなんて聞いてないぞ!


「地獄です……でも、それがどうしたです?」


 可愛らしく首を傾げているルナはまだ気づいていない。

 俺たち、今からそこへ行くんだぜ……


「全員で魔界に行くのだ! これは、試練である」


「そ、そんなの無理よ!」


「無茶すぎるです!死ぬです!」


「でっけぇカブトムシはいるのか!?」


 カブトムシで頭がいっぱいな馬鹿は放っておくとして、俺も二人の意見に同意である。


 魔王ですら、俺が頼まなければ乗り気ではなかったのだから。

 全部俺のせいかぁ……


 だが、今更後悔したところで、試練スイッチが入った魔王は止まらない。


 魔界ではずっとシードちゃんと手を繋いでおこう。

 

「困難が人を成長させるのだ!! この試練乗り越えてみせよ!! さすれば……」


 さすれば……俺の口癖真似てんじゃねーよ。


「師匠お願いします」


 ッ!?

 無茶振りが酷いぞ魔王。


「ゆ、勇者よりも強くなれるであろう」


「勇者って、あの勇者です?」


「う、うむ」


「……やるです」


「……私もやるわ!乗り越えてみせる!」


「俺もやってやるぜ! 勇者より強くなれるなんて夢見たいな話だしな!」


 そ、そうか。

 じゃあ、夢を叶えに地獄に行くとするか……





 

 

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