寿命を買いに行こうぞ!
謎の空間で自称女神達に、訳もわからないまま彼女達のご遊戯に強制参加させられた俺は……
今のところ害がないので忘れることにした。
ご遊戯の詳細が不明なうえに、誘ってきた本人達が激怒しているのだ。
関わらないに限る。
何か言ってきたら、今度こそ魔王を盾にする。
何事もない平和な毎日が過ぎ、自称女神達のことを忘れそうになっていたある日、ぼーっと素振りを眺めていた俺に無情な知らせが舞い込んだ。
「剣神様!大変ですぞ!」
最近竜騎士と呼ばれているらしい騎士団長を従え、この街の領主が俺を訪ねてきた。
「…………ふむ」
お願い、帰って!
詐欺師の前に街一番の権力者が立つな!
心臓発作で死ぬぞ、俺が。
慌てた様子の領主様。
慌てる気持ちを抑えつけている詐欺師。
お互い物凄くドキドキしている。
それはまるで恋の始まりのように甘酸っぱく……は無かった。
苦い。まるでピーマンのようだ。
俺はピーマンしたくないが、相手はピーマンしにわざわざやってきたのだ。
ピーマンするまで帰ってはくれないだろう。
ならば、さっさとピーマンせよ。
そして帰れ!二度と顔を見せないでください、お願いします。
「長年戦争状態だった帝国と聖国が休戦条約を結んだのはご存知で?」
「…ふむ」
帝国に聖国。
年がら年中ドンぱちやってる自称女神達の駒か。
仲直りしたのか?
その調子で俺とも仲直りしてほしい。
「その両国が、剣神様……あなたの道場に宣戦布告しました……」
俺は領主様の言葉をすぐには理解できなかった。
国vs道場
どう戦うのかすら想像できない。自称女神達は、うちのクロエさんより頭おかしいんじゃないのか?
「い、如何なさいますか?」
「…ふむ」
どうにもなりません……
領主様は何故俺に選択肢が存在すると思っているのだろうか。
俺の選択肢は座して死を待つことのみである。
「主ぃ、道場の完成はまだ先だぞぅ?」
「…ふむ」
「道場の中心に灯台と時計台を合体させた塔を建てるんだよ!それはもう……ロマンの塊だぜ」
時計を見ようと目を向けたら、回ってきた灯台の光に目がやられる高度な罠を仕掛ける気か?
それがロマンというなら好きにしろ。
だが、何故わざわざ道場にぶっ刺した。
うちのカスタム道場は今どんな風になっているのだろうか。
面倒になって、トカゲや弟子達の好きにさせたのはまずかったかもしれない。
「道場がない? では、この戦争どうなるのですか?」
「…ふむ」
「待ってもらうしかねぇな!」
それだ、トカゲ!それでいこう。
「待ってもらうしかないですな」
「つ、通用しますかな?」
「多分」
普通に考えたら無理だ。
だが、自称女神達はプライドが高そうだった。
そのプライドを上手く刺激してやれば良い。
考えろ、俺。命が懸かっているぞ……
「道場の完成を待てぬなら、拙者が一人で相手をすると伝えてもらえますかな?」
「一人でですか!?」
「これでハンデは十分か?羽虫共! と付け加えておいてくだされ」
「大国を羽虫扱いですか!?」
俺が羽虫扱いしたいのは裏で操っているであろう女神達だ。
やつらのプライドを刺激して、完成まで自主的に待つよう仕向ける。
……凄く不安だ。
相手の感情任せの作戦である。
戸惑った様子の領主様だったが、俺が態度を変えないと悟ったのか「伝えます……」と言い残し、疲れた様子で帰っていった。
すみません。それ以外、まともな作戦が思いつきません……
「トカゲよ。 完成までどれぐらいかかりそうだ?」
「あと一年ぐらいって言ってたぞぅ」
完成まで、まだ一年と考えれば長いが、自身の寿命だと思えば短い。
ここは、もう一押ししておくべきだ。
「時計台と灯台を合体……なるほどロマンだ」
「だろぅ? さすが主は話がわかるぜ!」
「だが、物足りんな、何故だかわかるか?」
「な、なんでだ!? これ以上に極まった建物なんてないぞ!!」
トカゲの趣味は知らないが、こっちは『工期=寿命』なのだ。
適当な理由をつけて、時計灯台の完成を遅れさせる……だって俺、まだ死にたくないもの。
「バランスが悪いのだ。 道場の中心だけでなく、敷地の角全てに時計灯台を建てよ」
「な、な」
時計灯台が合計五つ。
近隣から眩しいし煩いと苦情がきそうだ。
許せ、近隣住民!俺は近隣の平和より自分の命をとるぞ!
「その一つ一つに、トカゲを模した刻印と剣を模した刻印を彫らせる」
「ま、まじかよ……」
「そして、橋をかけるのだ!」
「はッ! すげぇ、すげぇよ主ぃ! オイラ感動したぜ」
これだけ追加すれば、しばらくは大丈夫だろう。
トカゲが気に入ってくれてよかった。
でなければ、ウンコ漏らしの件で脅して、無理やり『はい』と言わせるしかなかった。
「いくぞ、トカゲ! いざ、建築ギルドへ!」
「おうよ!」
建築ギルドへ寿命を買いに行こうぞ!




