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ウンコビジネス

 新人達に黙々と素振りをさせ続けて、早一ヶ月。


 道場の設計、見積もりが終わり、工事が始まった。


 そろそろやつらを働かせないと金払えねぇなぁと考えていたある日、思いもよらぬ金策が俺の前に降って出た。


 

「ご、ごめんよぉ。 腹が痛くてよぉ……」


「…ふむ」


「オイラのウンコはめちゃくちゃ硬いから、人間のトイレでやったら詰まると思うわけよ。 だから腹が痛くなったら街の外に行ってウンコしてたんだけど…… 我慢できませんでしたぁ……」


 消え入りそうな声で弁明するトカゲを他所に俺は別のことを考えていた。


 トカゲのウンコ……物凄くきれいなのだ。

 まるで、宝石のように。


「ペットの下の世話は飼い主の義務だ。 気付いてやれんですまんな、トカゲよ」


「ぐすっ。 オイラが悪いんだよ! まさかこの年で漏らすなんて……」


「気軽に便所に行けなかったのだ、仕方あるまい。 すぐに用意させよう」


 トカゲのウンコは無臭だが、金になる匂いがぷんぷんしてくる。


「今までのウンコはどこにあるのだ?」


「街の外で適当にしてたからわかんねぇぇ」


「なんと!」


 間違いなく金になるであろうウンコ。

 そのウンコが街の外に適当に転がっているというのだ。


 ウンコビジネスの第一人者として、捨て置けない状況である。


「新人達を集めよ!!」


「き、急に、どうしたんだよぅ?」


「ペットの排泄物の処理は飼い主の義務……これが落ち着いていられるか」


「やべぇの?」


「義務を放棄した人間の末路など、語るまでもない」


「わ、わかった! 呼んでくるぜ!」


 そうだ、早くしろ。

 拾われたら大問題だ。儲けが減る。


「で、でもよぅ……」


「む?」


「自分のウンコが拾われるって恥ずかしいし、それに……」


 トカゲの羞恥心など心底どうでもいい。


 だが、気持ちよくウンコをしてもらうためには、その点に注意を払わなければならないのも確かだ。


「漏らしたのバレたくないよぅ……」


「トカゲよ。 拙者に任せよ。 なんとかする」


「恩に着るぜ主〜。 オイラにできることならなんでも言ってくれよーーー!!」


 ならば、たくさん食べてたくさんウンコせよ。

 俺がトカゲに求めることはそれだけだ。


 トカゲが部屋から出るのを見送った俺は、受付に手袋を借りに行った。


 素手では触りたくないからね。




###




 俺が受付から戻る頃には、俺が借りている部屋に新人三人とトカゲがすでに集まっていた。


「師匠、どうしたです? コッコちゃんから集まれと言われたです」


 新人の一人、ですですといつもうるさいルナが新人を代表して俺に話しかけてくる。


 新人達は俺の言うことに逆らわなくなった。

 魔王より強い(笑)俺にびびっているのもあると思うが、一番の理由は別にある。



 ————俺が養っているのだ。



 痩せ細っている体で鍛錬と称した素振りをひたすらさせ、その足で依頼に向かわせるのは流石に忍びなかった。


 だが、指導しないと追い出される俺は素振りをやめろとは言えない。


 仕方なく、素振りをさせていたのだが、後から依頼に行く体力を残すために新人達は手を抜いていたのだ。


 依頼をこなすための当然の判断。


 だが、その当然が通じない相手がいた。




 魔王である。


 魔王に「剣を舐めているのかぁぁあ!!」とブチギレられた新人達は二度目のお漏らしを経験することになる。


 生活を舐めている魔王に剣を舐めている新人達。


 どちらも譲れない思いがある。


 これを丸く治めるには、俺が新人達を養い、体力など気にしないでいい生活を送らせてやるしかなかったのだ。


 だからこそ、今日、ウンコ拾いで自立してもらいたい。

 新人達は自立でき、俺は支出が減る。みんながハッピーな最高のウンコビジネスである。


「これが何かわかるか?」


 俺は手袋をした手でトカゲのウンコを手に取り、新人達の前に突き出した。


「あ、主ぃ……」


 トカゲが顔を真っ赤にしているが気にしない。


「宝石かしら?」


「宝石なんて見た事ねぇけど、それが宝石なのか?」


「そうだ」


「え?」


 新人達が目を輝かせている。

 トカゲは目を点にしている。


「これが街の外に……トカゲ、何個ある?」


「み、三つ」


「三つ街の外に隠してきた。 このドラゴンの秘宝をお主らで見つけ出すのが此度の試練」


「入門試練、です? これが兄弟子達が言っていた」

 

「それだ」


 よく言ったルナ、それでいこう。

 入門試練である。


「竜の宝玉を見つけ出すことができれば、その宝玉、お主らにやろう」


「「「え?」」」


「宝石を売った金を元手に自立せよ。 生活の上で金銭感覚は重要なものだ。 それは剣を志すのに重要な感覚だが……今のお主らでは養えぬ」


 金銭感覚は剣を志すうえで重要な感覚。


 流石にめちゃくちゃすぎたか?


「今の養って貰ってる俺たちじゃダメってことだな!」


「確かに……自立してない人間が立派な剣士になれるとは思えないわね」


「師匠の話はいつも真理を突いてるです」


 何故俺の周りの人間は疑うことを知らないのだろうか。


「宝石を見つけ出し、自立せよ。 さすれば……」


「「「さすれば……」」」


「お主らの入門を認める」


 とりあえず支出を減らしたい。

 俺の狙いはそれだけである。

 

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