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我が介錯してやる

 冒険者ギルドに寮を一時借りたいとギルドと交渉した俺たちは、新人への指導を条件に道場ができるまで寮に住めることになった。


 今も昔も、冒険者は花形の職業。

 だが、同時に底辺の職業でもあった。


 誰だってなれるうえに、常に命の危険がつきまとう。


 自身の命を賭け、人生の一発逆転を狙おうと意気揚々と冒険者になった新人達は、およそ半数が最初の討伐依頼で挫折、もしくは死亡するそうだ。



 命の取り合いに心が折れ、冒険者を諦めた新人達は新たな職を探す事になるが、これが上手くいかない。


 まともな職業に就けないから冒険者で一発逆転を狙った者がほとんどなのだ。

 そこで無能の烙印を押された者の未来が明るいはずがない。


 もちろん例外はある。


 だが、多くの者が犯罪に手を染め、騎士団……場合によっては元同僚である冒険者に捕まってしまう。


 冒険者ギルドからすれば、非常に頭が痛い問題だそうだ。


 そして、その問題の解決策として、



 頭のおかしい最強受付嬢を育てた俺に白羽の矢がたった。


「…ふむ」


「素振りなんかしてなんになるんだよ!!」


「「ああ?」」


「…………」


 まともな教育を受けてこなかった者達なのだ。そりゃあ素行が悪い。


 大変遺憾ではあるが、人類最強認定されてしまっている俺にも噛み付いてくる怖いもの知らずだ。


 その度に見た目ホラーな魔王とギルド最強の受付嬢が黙らせ、素振りをさせる。


 もう俺いらないんじゃないかな。

 多分新人君達のほうが強いし。


「なぜ、お主らが弱いかわかるか?」


「弱くねぇよ」


「私だってチャンスさえあればもっと上にいける!」


「お前のほうが弱そうです」


「貴様らぁぁあ!!!! 師匠の言葉を遮るだけには飽き足らず、師匠が弱いだとぉ!? 師匠は我ですら未だ影すら見えぬ武人。 その師匠に師事できる幸運を理解できぬなら……死ね。我が介錯してやる」


 最近、力の制御が上手くなったやらなんやらで、あまり相手を怯えさせなくなった魔王がブチギレた。


 新人達からすれば、突然の魔王襲来だろう。


 クロエですら少しきつそうな表情をしているし、俺達の様子を見ていた中堅、ベテラン冒険者達は我先にと逃げだした。



 新人達三人は股間のあたりを濡らしている。


 かわいそうに……

 うちの魔王さん、女子供であろうと容赦がないから。


「よい、魔王よ」


「しかし……こやつらは剣を、師匠を舐めておりまする」


「よいといった。 くどいぞ、魔王」


「……御意」


 漏らすほど怯えてるんだから、もう許してやれよ。


 魔王が力を抑えたのか、三人の新人達の顔に生気が戻る。


「な、なんであんたは平気そうなんだ?」


「…ふむ。 魔王が怒り狂おうが拙者はどうにもならん」


 魔王がニコニコしてようが、怒り狂っていようが、ワンパンで死ぬのは変わりないのだ。


 怯えたところで仕方がない。

 怯えようにも、魔王の力を理解できる能力が俺にはないし。


「す、すげぇ……」


「少しは認めてあげても良いかしら……」


「人類最強……本物だったです」


 良い感じに新人達が大人しくなった。

 魔王グッジョブである。


「…ふむ」


「「「…………」」」


「お主ら、着替えはあるか? 着替えないと鍛錬に集中できぬだろう。 話はそれからだ」


「着替え、です?」


 自分達が漏らしている事に気づいていないのか?

 

 俺は新人達の下半身を指さした。


「きゃー!」


「もうお嫁さんにいけないです……」


「こ、これは、汗だ!!」


 顔を真っ赤にして、しゃがみ込んだ新人達。


「はぁ……クロエ」


「はい!」


「着替え買ってきてあげてよ。 お金渡すから」


「了解しました!」


 面倒くさい。


 家賃代わりとはいえ、なんで俺がこんな奴らに指導しないといけないのだ。


 というか、素人が素人に指導して強くなるわけがないだろう。魔王が異常なのだ。クロエは……知らん。


「主〜。 酒飲みに行こうぜぇ!」


「…ふむ」


「んなやつらほっときゃいいんだよ。 何ならオイラが跡形も無く消しとばしてやろうか?」


「やめよ……」


 呑気な事を言って場を和ませた後に、物騒な事を言って新人達を怯えさせるトカゲ。


 俺たち五人と一匹の空気は最悪である。


 いや、一人と一匹は気にした様子はない。

 魔王は素振りしてるし、トカゲは寝たし。


「…ふむ」


「「「…………」」」


 空気が重い。

 新人達は借りてきた猫のようになっている。


 早く、早く帰ってきてクロエ……



 しばらく気不味い時間が流れた。


 待ちに待ったクロエが服を買って帰ってきた頃には、誰も音を立てない謎の空間が出来上がっていた。


 新人達は礼を言い、服を着替え、何故か俺の前で無言で正座している。


 もう、訳がわからない。

 

「貴様らが何故弱いかだが」


 ごくりと新人達が喉を鳴らした。

 随分態度が変わったなぁ。


「己を知らんのだ。 己の才も力量も何も知らん。 戦士としては赤子のようなものよ」


「赤子……」


「何も知らぬから怖いものなどなく、だが実際に困難に直面すれば赤子ゆえに乗り越えられぬ。 魔王やクロエと共に鍛錬をし、何も感じ取れなかったのが良い証拠よ」


 とりあえずやばい人達相手には下手に出ることも学んでほしい。

 いつの時代だって蛮勇は身を滅ぼすのだから。


「ど、どうすればいいです?」


「無心で素振りせよ。 形などは今はよい」


「素振りだけで変われるの?」


「素振りは剣の基礎にして奥義。 基礎を疎かにするものが一端の剣士になれるはずもない。 まずは己の矮小さを素振りを通じて感じよ。 さすれば……」


「「「さすれば……」」」


「己が進むべき道が見えてこようぞ」


 とりあえず、やばい人に喧嘩を売るのをやめさせよう。


 俺にできる指導はそれだけだ。

 

 

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