立派な魔王になりたい
『楽して金を稼ぎたい』
誰だって一度は思うことだ。
そして諦める、決して叶わない夢。
だが、俺は諦めなかった。
最も古く、最も有名な剣の流派〈剣神流〉
その道場の師範に賄賂で取り入ろうとして、半殺しにされた時は無難に働こうかと決意が揺らいだものだ。
そこで折れなかったのが運命の分岐点だろう。
俺は師範の息子である、金の誘惑に弱そうな、名ばかりの師範代に賄賂を贈り、判子を盗ませ、免許皆伝書を偽造させることに成功した。
偽造だ。だが、押された判は本物。
誰も偽造を見破る事はできない。
俺は偽造してすぐに王都から逃げ、辺境の街へと移住した。
そして俺は、我が野望を成就させる為、小さな道場を建てた。
家から追放された時に渡された支度金をほぼ全て使ったが、後は待ちに徹するだけである。
剣神流の看板に釣られてやってきた馬鹿から搾り取れるだけ搾り取る楽な仕事だ。
形にするまでに苦労はしたが、後は適当に素振りでもさせておけば良い。
そして頃合いを見て突き放すのだ。
「君には才能がなかった」と。
もちろんそれまでの指導料は返さない。
だって———詐欺師だもの。
コンコン。と、玄関のドアをノックする音が聞こえる。
早速馬鹿が来たようだ。
できる限り厳かな声を作る。
「どうぞ」
俺の生贄第一号は……とても厳ついおっさんだった。
最初はもっと簡単な相手が良い。
だが、俺はもう後には引けないのだ。
この厳ついおっさんを生贄に夢を叶えるしか道はない。
「どうされましたか?」
「立派な魔王になりたいので、ご指導のほどよろしくお願いします」
……ふむ。
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我は魔王である。
魔界最強の戦士にして王だ。
だが、我は非常に求心力が低い。
理由はわかっている。
恐怖で支配してきた弊害だろう。
だが、だからと言ってそれが間違いだったとは思わない。
我を前にすれば、歴戦の猛将ですら怯え、醜態を晒すのだ。
どうしろと言うのだ。
我は別に脅してなどいない。
むしろ仲良くする為に笑顔で謁見に応じたのだ。
結果は———歴戦の猛将が漏らした。
それからは考えを改めて、恐怖を利用して支配している。
だが……正直辛い。
現状を打破しようと、人間が召喚したという勇者の討伐に自ら向かうことにした。
魔王は魔族の強さの象徴だ。
だからこそ、我は魔王に選ばれ、曲がりなりにも魔界を支配できている。
勇者とやらを生贄に強さを証明し、少しでも求心力に繋げたい。
早速行動に移した我は、魔界から一番近い人族の国に上陸した。
上陸し、勇者とやらの場所を聞き出す為、手頃な人間はいないかと、周囲を見渡していた我の目に、衝撃的な内容の看板が映る。
〈なりたい自分に出会えますby剣神〉
なんと心惹かれる看板だろうか。
剣神とは人の世界の神だろうか?
であれば、魔族の我は入門できないのだろうか……
考えても仕方がない、入門が可能か否かは、直接聞けば良い。
そう考えた我は、玄関のドアをノックする。
「どうぞ」
入れば怯えさせてしまうのではないか?と、不安が脳裏をよぎる。
……いや、仮にも神なのだ。漏らすまではしないだろう。
「どうされましたか?」
流石は神、全く怯えた様子がない。
我は思い上がっていたようだ。
神の前では魔王など自然体で対応できる程度のものなのだ。
久方ぶりの緊張感が懐かしく心地いい。
「立派な魔王になりたいので、ご指導のほどよろしくお願いします」
神の指導を受ければ、我も皆に好かれる立派な魔王になれるはずだ。
10pt
作者が貴方を意識する権
このリターン購入してくださった貴方の名前を
マジマジと見て、「ああ。〇〇さんが
支援してくださったんだぁ」と作者が
貴方のことを明らかに意識して、感謝し倒します。
そして、貴方が困った時は対面時に
本気で相談に乗ります!
全部嘘です!pt入れてくれても、作者は誰が入れてくれたのか確認する術がございませんんん!!