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恋愛蹴球  作者: ひろほ
70/72

トレーニングマッチ13

どれだけ苦しくても、楽しくても、ホイッスルが鳴るまで試合は続く。

大勢は決したと言えど、俺たちは容赦なく攻めた。

むしろ、これがトーナメント戦なら良かっただろう。

疲れを残さないように、適当に流す事もしたはずだ。

しかし、これはトレーニングマッチ。

勝利以上に求められるのは、出来る事を十分に行い、練度を高める為の試合。

監督の指示で、あえて攻めさせて守備の練度も確認する。

………………まぁ、ぶっちゃけ、舐めプである。

こんな指示をするという事は、監督も相当に御立腹のようだ。

完膚なきまでに叩きのめし、戦術も連携も個人としても上だと示すかのように、選手達は躍動した。

個人で打開する事が出来るのは、スピードに乗った7番くらいなもの。

それもあくまで、可能性があるってだけの話だが。

龍という規格外の存在に慣れている俺ーーーいや、俺達にとっては、少しスパイスが足りない。

ふと、龍の存在を思う。


「喜んだだろうなー……」


実を言えば、龍はチームプレイが出来ないという訳ではない。

俺たちが追いついていけなかっただけの話である。

…………癪なので、普段はそう思う事すら自らに禁じているが。

龍のアイデアに、スピードに、今日の俺たちならば、駒として働けると感じた。

まぁ、奴が連携を乱しているというのもあるけれど。

さて、そろそろ試合の終わりも近い。

綺麗にフィニッシュを迎えようか。


「7(ナナ)マノン!!」


こちらに向いていたボランチに声をかける。

背後に猛スピードで迫る7番への注意を促した。

ならば、とボランチは簡単にボールを横のスペースへボールを流し、俺はそれに走り込む。


「ピピィーーッ!」


笛が鳴る。

は?

オフサイドも無い、ボールを競り合った訳でもない。

所在無く足元に収まったボールが、その虚無感と疑問をかき立てた。

周りを見渡せば、激痛に顔を歪め、身動ぎもせずに苦痛に耐えるボランチが居る。

おいおいおいおい、待てよ、どう考えても止められるタイミングじゃなかっただろ?

完璧にボールから離れていた脚に、スライディングをするなんて、有り得ない。

そんな判断も出来ない奴が、俺たちを壊すなんて、許される訳が無い。

そんな連中が、俺たちの相手になんか、なりはしない。


「ピピィーーーーッ!!」


再度、笛が鳴る。

あぁ?! さっきからうるせぇな?

一体、誰がまた反則をしたって言うんだ?

………………あぁ…………俺か。

右足のつま先に残る、ボールではない物の感触。

もんどり打って転げ回る7番を見るに、どうやら俺がやらかしたようだ。

うん、思い出した!

そういえば、鳩尾目掛けて、つま先を蹴りこんだわ!!

道理で俺が揉みくちゃにされているはずだわ。

俺に詰め寄る敵と、それを防ぐチームメイト。

いやいやいや、んだよ、お前らがやられたらそんな感じになるのかよ。

突き飛ばされたり、胸と胸をぶつけられるままにされているチームメイトを見て、疑問を感じずには居られなかった。

だって、そうだろう?

チームメイトは美しくスペクタクルなサッカーをしてきたアーティストだった。

それがどうだ? 相手ときたら狡がしこさすらなくひたすらにラフプレーだ。

アンチフットボールという言葉すら生ぬるい。

…………あぁ、そうか。

そんな冒涜的な事を最もしているのは、俺か。

赤いカードが提示され、俺の心に去来したのは『屈辱』という感情であった。

完膚なきまでに叩きのめして、レベルの違いをまざまざと分からせた。

そんな連中と同じ土俵に立つ。

いや、レッドカードを受けた以上、奴らよりも低い位置に堕ちたのだ。

これが屈辱と言わず何と呼ぶのか?

鳩尾蹴っておいて、理不尽だとは思うが蹴った罪悪感よりも勿体なさが上回っている。

今も残る右足の感覚が、まるで犬のフンでも踏んづけたかのように汚いと思った。

素直にベンチへ下がるのは、反省しているからでも、詰め寄る輩が怖いからでもなく、恥ずかしくさとサッカーを汚した絶望感からだった。


「磐田、後でちょっとツラ貸せなー」


出迎えた監督からの指示に、こくりと頷くだけで応えたのは、声がきっと震えてしまうから。

タオルを頭から被り、ベンチにかける。

チームメイトがよそよそしいのを、肌で感じた。

と、その時、後頭部に衝撃。


「いってぇ!」


つい声が漏れる。


「テメー、面白いサッカーやってると思ったら、何してやがんだよ」

「龍!? 」


氷嚢をテーピングで巻付けた足ではあるが、しっかりと立っている龍に安堵する。


「任せたって言ったのになぁ……いやー笑っちゃったよ、脇腹痛てぇのに」


龍の背後の松本の姿を確認すると、涙が堰を切ったように流れ出した。

安堵、喜び、悔しさ、後悔、罪悪感、色んな感情をない混ぜにした涙はしばらく止まる事は無い。

さて、試合は交代枠を無視してベンチメンバーを全員出すという暴挙を、監督がシレッと行い。


「前に蹴るだけで良いからなー」


と同時に、舐めプにも程がある作戦を大きな声で言った。

こうなると、ユース選手とはいえまだまだクソガキのチームメイトたちは、誰が一番遠くからゴール出来るかのゲームを始める。

ロングボールを蹴りこんでくると分かっていれば、前線の選手の動き出しに注意を向けるものだ。

しかし、シュートとなると、多かれ少なかれ、こぼれ球のケアに意識が向く。

その上、心が折れている彼らにとって、自分の過失が無いように努める事が最重要で、DF達は特に、自分を無視してゴールへ向かうボールを眺め、自分は関係ないと安堵する様子すら見てとれた。

故に、うちの攻撃陣が動き出すのに気付かず、ロングシュート合戦に参加しづらい彼らの餌食となってしまう。

終わってみれば、9得点という圧勝だ。

それだけに、失点が悔やまれる。

…………まぁ、俺がしでかした事は悔やまれるどころの話ではないが―――。

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