トレーニングマッチ12
自分が全力疾走をしている時に、されて嫌な事はなんだろうか。
体をぶつけられたり、脚をひっかけられたり、とにかく体勢を崩されるのは嫌なものだ。
故に、それに備える。
相手が近付けば、踏ん張る準備をする。体を当てられる前に、かわそうとする。
誰もがやっている事だ。
きっと、この選手も何度となく対応経験している事だろう。
さて、肝心の弱点であるが、とてもシンプルである。
サッカーを経験した者なら、誰もが一度は味わう事だろう。
体を当てながら併走する。
流石に減速はしたが、気を抜けば置いていかれるだろうスピードだ。
しかし、ボールへ走るのは分かっているのだから、進路は分かっている。
別に完璧に防ぐ必要はない、相手を少しでも遠回りさせるだけで良かった。
狙うのは、ボールタッチの瞬間とその直後。
競り合いながら走っていると、ファーストタッチはどうしても飛ぶようになってしまう。
上手い選手なら、そのままボールを吸い付けて、コントロール下に収める事が出来るが、この選手の場合、そうはいかなかった。
蹴り出す角度も、一歩踏み出すタイミングも簡単なもので、ボールに触るくらいなら実に容易い。
ついでに相手と衝突するが、上背で勝る俺がぶっ飛ばしたように見えたことだろう。
タッチラインを割り、ボール奪取とはいかなかったが、この攻めは通じないと示すには十分だった。
その後のスローインの競り合いを経て、ボールを奪取するに至る。
さあ、ここからがSBとしての本領発揮だ。
内側に絞り、定位置へ。
絞りっぱなしでも良くないわけで、相手を釣り出すために外へも開く。
「さ、トドメと行こうかい」
スペースを見つけ、スルスルと侵入する。
ゆったりとしたボール回しのリズムに合わせるように、決して走らなかった。
俺にマークを付けさせる為である。
CBが後ろに下がるのを確認したところで、猛然と外へ開く。
ボールを保持しているアンカーからは、中央へのスペース、そして、俺へのパスコースが見えている事だろう。
その後、中央をケアする動きを見たのか、結局、俺へのパスをアンカーは選択した。
そのまま、ワイドに開いたMFへ縦パスを送って、俺も駆け上がる。
CFが反対側へ流れて行き、トップ下の選手がMFのフォローへ動いた。
俺はCFが居たスペースへと斜めに走り込み、センタリングに備える。
送られてきた低めのクロスは俺の背後に来てしまったが、相手を背負いながらも何とかキープした。
くそ、直接打ちたかったのに。
とにかく、出しどころを見つけないと。
と思っていたが、もはや体当たりやぶちかましに近い相手の守備に、怒りが湧き上がる。
ーーーーーーそうか、これにアイツはやられたのか。
…………潰す。
僅かに体を右へ傾ける。
相手の体当たりを逸らすと、そのまま背中で押し込んでやる。
すると、俺の背中から腰にかけてを転がるように、相手は倒れた。
そのまま、横ステップしながらターン。
おお、俺の足元には『ちょうど』相手の顔があるではないか。
ーーー軸足を踏み込んだ。
『運悪く』相手の鼻先にしか軸足を置くことしか出来ない。いやー困った困った。
相手の顔を見ながら、ボールを蹴り込んだ。
いやいや、まさかそんな、ぶつける事なんてしないって。
だからそんなビビった顔をするんじゃねぇよ。
キーパーの位置すらロクに分からないまま、放ったシュートはゴールの右角へ突き刺さる。
よもや入るとは思わなかったから、儲けたものだ。
さて、今回はボールではなく、倒れている相手に駆け寄り、手を貸して引き起こす。
「喧嘩売るなら相手を選べよ?」
言うだけ言って、チームメイトの祝福を受けながら、俺は自陣へと戻っていくのであった。




