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恋愛蹴球  作者: ひろほ
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トレーニングマッチ11

さて、サッカーが楽しいと思える時とは、どういう時だろう?

試合に勝った時? シュートを決めた時?

まぁ、ボールを蹴っているだけで楽しいって奴も居るけれど……連携がハマった時もその一つだ。

流れるように人とボールが動いて、一人のプレーに他の選手が呼応し、それがまた繋がっていく。

サッカーに限らず、チームスポーツの醍醐味とも言えるかもしれない。

ロングシュートと長いパスを立て続けに撃ち込んだせいか、俺にボールが入れば、コースを切る事に注力しており、気分良くボールを散らす事が出来た。

俺を楔に戦場が右へ左へと切り替わる。卓越したテクニックや攻撃力を持たないものの、スピードは目を見張るものがある元・SBが走り込む素振りを見せれば、それについていこうと守備ブロックが間延びする。そのDFとMFの間をうちの選手が駆け巡る。SBとCBの位置がいつの間にか入れ替わっている。

これだけのプレーが関わっていると、ただボールを散らすだけでも、十分な破壊力を持っていた。


「楽しいなぁ……」


ボールが繋がる事に、選手がスペースに走り込む事に、喜びを感じる程だった。

…………おや?

どうしたんだ?

そんな苦しそうな顔をして?

走り疲れたのか?

いやいや、さっきからたいして走ってないじゃないか。右往左往するばかりで。

俺たちのほうが遥かに走り回っているし、汗をかいているじゃないか。

こんなに楽しいというのに、お前らときたら。

仕方あるまい。


「楽にしてやる」


ワントップ、斜めに攻め上がったSB、そしてボランチへとボールが流れる。

しかし、ボランチはスルーを選択した。

その先に居るのは俺。


「喰らえ……」


ゴールへの距離、おおよそ25メートルほど。

全力で放たれたシュートは、一度ポストに当たったものの、ゴールネットを揺らすのであった。

未だに響く鈍い金属音を追いかけて、得点を認めるホイッスルが鳴る。

またもすぐさまボールを掴み、センターアークにセットした。

すると、うちのベンチが何やら慌ただしい事に気付く。

どうやら交代するようだ。

龍と松本の二人の枠を使っており、そんなに余裕がある訳でもないし、苦境という訳でもない。

しかし、何か意図があるのは確かで、相手陣地の奥深くでタッチラインを割らせた。


「右のSBは磐田だってよ」


交代で入ってきた選手が俺にそう告げる。

この選手はCB、ボランチ、アンカーの守備的なポジションの選手で、右のMFとの交代であった。

ポジションは流動的に、右のSBはそのまま上に、その後ろに俺。

アンカーの位置に入って来たこの選手となった。

何だか久しぶりの気もするポジションだが、あの時とは戦術も人員も違う。

それでも、成長出来たか、前よりも上手くやれるだろうか、と思わずには居られなかった。

とにかく、守備からしっかりとリズムを作ろう。

謙虚に慎重に。

マッチアップの相手が変わるなら、新たに『属性優位の後出し』を発揮出来るように、観察していく事も忘れてはならない。

さて、サイドプレーヤーは足が速い、ドリブルが上手い、クロスが上手いといった特徴の選手が多い。

反対にありがちな欠点を挙げるとすれば、守備が下手、身長が低い事だろうか?

もちろん、例外はあるけれど。

それらを踏まえながら、選手を観察する。

背は低め、大きく盛り上がった大腿四頭筋から見るにストップ&ゴーなんかが得意かもしれないし、身体を寄せても踏ん張れそうだ。

後は精神面はどうだろうか?

押しに押されて耐え続け、ついには得点までされた直後、心が折れていてもおかしくない。

偽SBという戦術に、一番振り回されている人間でもある。

しかし、内に絞り、外に開き、と懸命に動いているところを見ると、とりあえず戦う意思はありそうだった。

俺も釣られないように、距離感とスペースのケアは意識していこう。

さて、その動きを観察していると、方向転換の際には、必ず停止してから方向を変えている事が分かる。

敢えてなのか、癖なのか、そのタイミングとリズムは頭の中に入れていて損は無いだろう。

それに、逆に体を振る事もしない。

まさか、フェイントの布石だったりはしないだろうな?

後半からずっと苦しい展開を続けていた相手にそんな余裕は無いと考えても良いけれど。


「いや、探すのは駆け引きの材料じゃないっての」


本質から離れていた思考に気付く。

弱点を見つけなけりゃならんのだ。

もしくは、自分が勝っているポイントを。

やるべき事が出来ると、不思議なもので怒りと憎しみが自然と収まっていた。

このまま冷静に、相手を観察する。

よく動き回る選手だ。スピードもある。

そして、距離を常に空けてくる。

下がる事も厭わないようなので、それに釣られて背後にスペースを空けすぎないようにしようと、再度自身に言い聞かせて、ふと気付いた。


「足元……下手なんじゃねぇ?」


相手が着いた状態でボールを受けるのを嫌そうにしているのは間違いない。


「ちょっと試してみるか……」


下がる相手を追い掛けず、どフリーにさせてみる。

内側に絞って、サイドを攻撃出来るようにもしてみた。

前を向いた相手は望み通りドリブルでサイドを攻め上がってきた。

やはり、なかなかのスピードだ。

そのまま俺との一体一だが、特にフェイントやドリブルスキルを仕掛けるでもなく、スピードで振り切ろうとしてくる。

体を寄せて対応すると、急停止。

ストップ&ゴーだ。

さて、ここからどうしてくる?

と思えば、少し大きめにボールを蹴り出し、またもスピード勝負。

これが龍なら、泉なら……このスピードと共に吸い付くようなタッチのドリブルで攻撃してくるだろう。

さぁ、お前の弱点、突かせてもらおう。

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