トレーニングマッチ11
仕切り直しだ。
といっても、相手の攻撃は及び腰で、頼りの7番へのパスも容易にカット出来た。
即座に守備ブロックを形成されるが……いや、させておいて、一旦GKまでボールを戻す。
先ほど見せたのは、サイドへ偏りを敢えて作った上での奇襲である。
真骨頂はここからだ。
俺はCBの高さに下がり、両SBが中に絞っていく。
既にサイドハーフの両翼はめいっぱい横に開いていた。
右のCBにボールが入り、ボランチ、SBへのパスコースは完璧に空いている。
何故か?
守備ブロックを綺麗に八人で作るとなると、ボールへのチェックを含めれば、残りは一人しか居なくなる。
そう、そもそもここでも人数が足りていないのだ。
ラインを上げてコンパクトにしない限り、ドン引きブロックでは対応が出来ないだろう。
そして、両翼が開いた事により、中央のスペースも大きくなる。
故に、中に絞ったSBにもボランチにもパスコースが空くのである。
と、とても良い事づくめの戦術に思えるが、欠点だらけでもある。
内側にSBが居るとなれば、サイドはガラ空きになる。
もちろん、ボランチが下りたり、CBが開いてケアするけれど、空いている事は空いているのだ。
つまり、サイドからのカウンター……コレはどうにもならないほど弱かったりする。
攻撃面での弱点で言うと、先ほどの通り、縦にコンパクトにされると実はキツイ。
スペースが狭いというのに、中央に人数が居るとなれば、それはもう渋滞してしまうのだ。
そういった場合、破壊力のあるサイドプレイヤーが輝くのではあるが……うちのサイドハーフもとい、SBだった選手にそこまでの破壊力が無い。
それに、まだまだ未熟で俺を含め、中盤の動きのバリエーションが少ない。
と、チーム事情的な弱点も相まって、実戦投入は今回が初めてだった。
とはいえ、指揮官がやれと言う以上、不安でもやる他ない。
そして、出来ると思ったから課したのだ。
無謀や理想、妄想を俺たちに強いるほど、俺たちの指揮官は無能ではない。
さて、一度俺へボールが戻り、プレスをかけに来た選手をかわす。
そのまま、三人でボールを回し続けた。
「はい、そこ」
機を見て、斜め前にパスを入れる。
それを受けるのはCBだ。
俺たちのSBが中に絞って出来たサイドのスペースに、じわじわと展開していたのである。
そのままドリブルで相手を十分に引き付けた後、開いたMFに縦パス一閃。
無人のサイドを駆け抜け、多数の味方がひしめく中央へとセンタリングを行った。
ミートしきれなかったヘディングは、キーパーの正面。
得点にはならなかったが、相手がベンチをチラチラと見ているのを見逃さなかった。
どうする?
何か攻略法は思い付くか?
いっそ、もっとドン引きした方が、得点は防げるだろうけど。
このまま何も変わらずに過ごすというのなら、蹂躙させてもらおうではないか。
攻守が変わり、俺たちの守備は、相手と同じく引いた状態からスタートした。
プレスも果敢に仕掛ける訳でもなく、後ろで回すのなら回せと言わんばかりである。
七番への対応、本職ではないSB、そして、組み立てからの攻めが出来るとなれば、ハイプレス・ハイラインを無理に行う事もない。
外へ外へと押し出され、サイドでつまらない攻防を繰り広げていた。
苦し紛れに仕掛けてくるものの、タッチラインを割り、こちらのスローイン。
貴重な攻めを終わらせてしまったようだ。
GKへスローインでボールが渡される。
足元で受けたGKは、そのままゆっくりと前へドリブルを開始。
それを機に先ほどと同じように俺は下がり、所定の位置に選手が配置されるのと同時に、ボールが来た。
さて、バックラインへボールが入った事で、守備のスイッチが入る人間は少ないように思える。
どうせ後ろで何度か回すんだろ? と、テレビなんかでサッカーを見てて、俺もそう考える事は少なくない。
「はい、ドーン」
目まぐるしいポジションチェンジも、サイドへの展開も、一切無視するように、フィールドの中央を一本のパスが切り裂く。
横に間延びした相手のDFライン、マークのズレ、分断された前線、そして、相手の気の緩み。
それが折り重なって、中央の危険地帯に居るFWがフリーになっていた。
俺たちDFラインは、仕方なしにボールを回されている訳ではなく、攻めのスイッチなのだ。
サイドからガリガリ来ると思ったか?
それともパスワークで崩しにかかると思ったか?
はたまたジワジワとラインを押し上げて行くと思ったか?
まぁ、全部やるけどな。
サッカーの可能性を、全ての要素をもってして、サッカーの魅力を、存分に発揮させながら、お前らをサンドバッグにさせてもらう。




