トレーニングマッチ10
さて、監督同士でどのようなやり取りがあったかは、まっっっったく知らないが、とにかく後半のスタートである。
やはり、引いてカウンター狙いで、守備ブロックを綺麗に作っていた。
さて、そのブロックを偽SBの戦術は崩すのに適したものかと言われれば、どちらでもない、と答えるしかない。
兎にも角にも守備の乱れ、偏りやスペースを作り出さなければ話は始まらないのだ。
そして、その意図はどの戦術でも当てはまる。
前線の選手がどれだけ敵を引き付け、釣り出せるか。
現代様々な戦術があれど、つまるところはそこに集約される。
イレギュラーとして、個人頼りのサッカー……つまりは龍のような選手に依存するものがある。つーか、それって、戦術って言っても良いのか?
「っと、んな事考えてる場合じゃないな……スイッチを入れんと」
俺に来たボールをダイレクトで縦に送る。
攻撃もそうだが、俺自身も頭を切り替えなければ。
ハーフタイムで落ち着いた、先程の感情---いや、感覚と言うべきか。
怒りの感情を食い物に、冷酷な理性がどうするべきかを導き出した、あの感覚。
龍と松本を思い起こし、怒りを呼び覚ます。
ドクン、と体が脈打つ気がした。
奴らを蹂躙すべしと、残虐に思考する。
カチリ、とスイッチが入る気がした。
さぁ、始めよう。
前線に送ったボールは、右サイドを経由して、再び俺の元へ帰ってきた。
一度、右サイドのCBにボールを渡し、反対の左サイドを見る。
スペースは十分。
右寄りになってきた証拠だ。
此処が仕掛けどころと見て、戻ってきたボールを前へと送る。
と、同時に左SBが駆け上がっていった。
トップ下から一度ボールを下げ、ボランチを経由してから加速十分のSBへボールが渡る。
俺もそれを眺めるばかりではない、ボランチがフォローに寄っていって出来たスペースに走り込んだ。
右から左へ振られ、もはやブロックとは言えない敵の陣形は、突如現れた俺に反応するので精一杯。
ポッカリと空いたバイタルエリアのスペースで、トップ下から俺へと繋がれた。
「打たねぇよ」
前半のイメージが効いているのだろう、無理に飛び込まず、シュートコースを切ってくる。まぁ、まだ遠いから穴はあるが。
それを嘲笑うように、簡単に右45°ほどの角度でボール送った。
俺を経由してのサイドチェンジだと思われるだろう。
正解だ。
今までなら、な。
陣形が乱れれば、人に着くしか手段は無い。
なら、人が足りていなければ?
飛び込んでくるのは右SB。
FWやトップ下が居るような敵陣深くだというのに、誰もチェックに行けない。
そりゃそうだ。
人が足りていないものな。
フリーでボールを受け、そのままミドルシュートをキッチリ決めてくれた。
狙い通り、戦術通り事が運んで、つい笑顔がこぼれてしまう。
しかし、この戦術の恐ろしいところはこれだけではない。
崩してからの攻め上がりだったが、崩す為にも使えるのだ。
さぁ、対応出来るか? この戦術に。
ほんの少しだけ気付けば出来るだろうけども。




