トレーニングマッチ9
酷く、冷めた気持ちだった。
ゴールを奪ったというのに。
勝ち越したというのに。
チームメイトの手荒い歓迎の中に龍は居ない。
遠くでニヤニヤしている松本も居ない。
ああ、そうか――――――まだ足りないのか。
相手ボールからのスタート。
よく見てみれば、基本的なパス回しを無理やり身体能力で活性化させているだけだ。
パスが速い、良く走り込む。
だが、ただそれだけじゃないか。
周りの選手を良く眺めた。
指と視線で指示を送る。
要所を抑えてさえしまえば、パスの出しどころが無くなった。
シンプルな足元へのパスだけしか選択肢に無いだろう?
「舐めるなよ」
ラフプレーと身体能力に物を言わせた、偽物のサッカーを俺は認めない。
認めてはいけない。
俺は―――俺達は、選ばれた存在なのだから。
ジュニアから含め、常に競争を強いられ、生き残ってきた人間だ。
ここに居るチームメイトよりも遥かに多くの人間が、落とされてきた。
さぁ、始めよう。
本当のサッカーを。
ジワジワと相手を追い詰めていき、ミスを誘発させる。
スローインから、こちらのパス回しが始まった。
身振り手振り、そして声で選手を動かしていく。
俺も、ボールを受け、強く速いボールをスペースに蹴り込んだ。
「チンタラしたパスを出してんじゃねえよ……」
というメッセージを込めたパスのおかげか、途端にプレースピードが上がる。
ディフェンスラインでボールを回すにしても、強く速くは守られていた。
楔に縦横無尽に走り回り、指示も同じように飛ばしていく。
「なんだ、やればできるじゃないか」
以前見せた醜態とは打って変わって、チームメイトはちゃんとしたポゼッションサッカーを披露した。
ただパスを回すだけ、ボールを失わないだけがポゼッションサッカーではない、スペースを所持、占有する事が真のポゼッションサッカーだと、俺は考えている。
走れ、見つけろ。
自分にも味方にもそれを命じる。
敵を釣り出し、それに出来たスペースに走り込め。
相手の慌てる様が面白くて仕方がない。
こちらも強いボールでのパス回しは、簡単な事ではない。
しかし、それでもやるのだ。
これがサッカーだ、と相手に見せつける為に。
これが身体能力、スキル、インテリジェンス、全てを課され、乗り越えてきた俺達のサッカーだと。
決して龍のように派手なサッカーではない。
七番のように驚異的なスピードを使っている訳でもない。
しかし、それらをもってしても、このサッカーは崩せない。
決して届かない位置に在ると、心に刻め。
いつしか綺麗にしかれていた守備ブロックは、継ぎ接ぎだらけの模様になった。
ガタガタになった守備の最後は、ゴール前のスペースをポッカリ空けるというお間抜けな姿で、ドフリ―のシュートは容赦なくゴールに突き刺さる。
ゴールネットから、ボールを奪い去り、すぐさまセンターにボールを置く。
さぁ、来いよ。
今度はこっちが守備の番だ。
ボールを回すのは相手も同じ事だが、持たせてあげているのだ。
さっきも感じただろう? パスの出しどころが無いと。
いくらでもボールは持たせてやる。
支配率は五分五分だったと、ポゼッションサッカーを勘違いし続けていろ。
尚も俺の指示は止まらない。
スペースを潰し続け、最終ラインで回す事に終始させたところで、前半終了の笛が鳴った。




