表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛蹴球  作者: ひろほ
63/72

トレーニングマッチ8

ザワついたピッチ内外。

いつの間にか立ち上がっていた七番に詰め寄ろうとした。

ガシッと肩を掴まれ、歩みを止められる。


「落ち着け、千紘」


龍が俺の行動を先読みしたようだ。


「ああ? 落ち着いてられるかよ、これでアイツがサッカー出来なくなったらどうすんだよ」


トップチームに上がるかもしれない、と松本は言っていた。

そんな逸材を、こんな試合で壊されたと思うと、怒りは留まるところ知らなかった。


「頼む、落ち着け。お前も退場したら、いよいよ試合どころじゃなくなる」

「……」


懇願する龍。

その姿、行動は、とても珍しいもので、ついに言葉を失ってしまう。


「こんな荒っぽいチームに、負けたくねぇ。確かにそこそこの強豪校なのかもしれないけど、こいつら、勝たなきゃって気持ちが強すぎる。つーか、負けるのが怖いって感じで、サッカーを面白そうにしてねぇんだよな」

「どうした、一体?」


相手チームの心情なんて、考えた事もなかった。

それを龍がわざわざ言ってくるなんて、それも不可解だった。


「このゲーム……お前に託すぞ」

「監督に言ってくれ」

「ああ、そう伝えておく」


龍がその場に座り込み、頭上でバッテンを作る。


「は? 龍!?」

「あー……ダメだ、時間経って痛くなってきたわ」


フリーキックで俺に蹴らせて、そのこぼれ球を狙う。

そんな戦術も、強いボールを蹴れないから、少しでもゴールに近づきたかったんじゃないか?

さっきのコーナー際のドリブルとパスもそうだ。

トップスピードで切り込む事もせず、至極普通なパスも、痛めていたから出来なかったんじゃないか?

そう思うと、強い当たりに慣れていると、高を括っていた俺への怒りが込み上げる。

少し前まで中学生だった体が、頑丈である訳がないのだ。

そして、龍が俺に試合を託す、と願った。

様々な怒りは、情熱へと変貌を遂げ、同時に冷酷な感情も現れた。


「任せろ、龍」


担架とおんぶで二人の選手が―――いや、戦士が戦場を後にする。

ホッとしたような表情を浮かべる敵は、どんな思いからそうなったのだろう?

大事が無いようで安心した?

それとも、エースが二枚潰せて、負けは無いと安心した?

どちらにせよ、お前らの態度が気に食わない。


「磐田、お前がキャプテンだってよ。おーい! ポジションはそのままなー!」


交代で入った選手が、松本の代わりをしろと伝えてきた。

いいだろう。

キャプテンマークに袖を通すと、松本の魂まで流れ込んでくるように思える。


「―――――――っしゃあっ!」


短く吠えた。

体が震える程の興奮を、発散しなければ自分の体が壊れてしまいそうだった。

リスタートのフリーキックからのパスを呼び込み、しっかりと受け取る。

相変わらずドン引き状態で、前を向く事は容易に出来た。

もちろん、チェイスしてくる敵が居るが、関係無い。

思いきり踏み込み、思いきり右足を振り抜く。

ハーフウェイライン付近から、無謀とも言える距離。

俺なりの宣戦布告を受け取れ!

ロングシュートは枠内に入ったものの、キーパーに弾かれた。


「ちっ……」


苦し紛れでも何でもなく、得点を決めるつもりで放ったのが失敗に終わり、つい舌打ちをしてしまう。

そして、相手の攻撃だが相変わらず雑なロングボールの放り込みだ。

簡単にボールを奪うと、パス回しを始めている最中、再びボールを呼び込む。

またも俺はロングシュートを狙っていった。

二度目は無いだろうとでも思ったか?

何度だって狙ってやるよ。

二度目のシュートもゴールをゲットするには至らなかったが、虚を突かれた相手の顔が見れただけでも十分だ。


「こぼれ球狙ってけよー!」


さて、これで意識づけは出来ただろうか。

もちろん得点をする気ではあるが、狙いは別にある。

くっそつまらないサッカーを続ける輩達の単調な攻撃は、またも淡白に終わり、三度こちらのボール回し。

ゆるゆると俺は前線に上がっていく。

相手の守備ブロックの手前で、横に動き、ボールを要求した。

まあ、二回も同じ事をやれば、相手も気付くだろう。

それに、先ほどよりもゴールに近い。

当然、シュートコースに入るように、相手が飛び込んでくるが、それを簡単にいなす。

そして、ドリブルを開始した。

どうだ? 打ち気満々な人間をフリーにさせるのは怖いだろう?

飛び掛かるように当たってくる相手。

当たってくると分かってくるのならば、衝撃を逸らす事は容易い。

風太郎さんのトレーニングも相まって、大して態勢を崩される事なく済んだ。

そうそう、ついでに肘も当てておく。

いや、何もプロレスのようにエルボーパットをしたわけではない、ただ肘に相手が飛び込んできただけである。

次に相手が来るのが見えると、大きく振りかぶり、シュートの態勢に入る―――フリをする。

普段ならばかかりもしないだろうキックフェイントに、相手は上手い事飛び込んでくれた。

横にシンプルなステップでかわし、フォローに来た選手を視界に捉える。

俺がまたも大きく振りかぶると、その選手はフェイントにかかるまいと、勢いを弱めるのを見逃さなかった。

今度こそ思いきりシュートを打ち込む。

とはいえ、怒りや勢いに任せて、ではない。

必要な分の力で、必要な分の踏み込みで、必要な分だけの全力を込めて、自分でも恐ろしい程に冷静にボールをしかとミートした。

ゴールの右隅に糸を引いたように真っすぐと伸びたボールは、キーパーの指を吹っ飛ばしつつ、コースも逸れる事すらなく、突き刺さった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ