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恋愛蹴球  作者: ひろほ
62/72

トレーニングマッチ7

さて、同点となって、カウンターサッカーを止めるのかと期待していたが、今まで以上に引いてきた。


「ちょっと嫌な展開だな……」


新たな武器を持ったというのに、走り合いの勝負となれば使えない。

そして、攻める時にも俺達守備陣は、ある種のストレスを感じながら過ごす事になるのもいただけない。

気を抜けるところが無いのはじわりじわりと精神を消耗させていく。

前半でこうされると、終盤、大事なところでポカをやらかしそうだ。

と、今後の展開に嫌気がさしているところで、こちらの攻撃はボールをひたすら回すという消極的なもの。

龍へのパスコースはキッチリ塞がれていた。

焦ることは無い。

あちらがカウンターを狙っている事で、俺達にストレスを感じさせるのと同じように、そっちは体力を消耗するし、耐える事で産まれるストレスもなかなかなものだろう。

最終ラインで右へ左へボールを回す。

楔として俺もボールを循環させた。


「にしても、崩れやしないな……」


単純なボール回し、走り込みでは、守備の陣形が乱れずにボールと人にチェックをかけてくる。

マークの受け渡しやスペースへの声掛けを見ていると、高い守備の練度を感じさせた。

一人でも抜くか、攻撃の人数を増やせば打開できるだろうけど、リスクがあまりにも高すぎる。

とりあえず、サイドからガリガリと攻めていくのが安牌か。

サイドバックのオーバーラップなら、フォローはしやすい。

とりあえず、右の方向へパスを供給すると、そのまま寄っていき、組み立てに参加する事にした。

思惑通り、右のMFまでつなぐ事が出来たので、サイドバックの上りを促すように後方右の位置に下がっていく。

そのままサイドバックが縦へドンドン切り込んでいった……いや、追い込まれたというか誘い込まれたというのが正解か。

コーナー付近までボールを運ぶ事が出来たものの、結局相手に背を向け、ボールを奪われないようにするので精一杯といったところ。

まあ、残酷なようだが、このまま踏ん張って時間を稼いでもらおうか。ちょっと一息つきたいし。

そしてあわよくばコーナーキックを貰ってくれ。


「つっても、仕事をサボる訳にはいかないよな……七番!」


指差しをして他の選手にマークを意識させた。

サイドバックのポジションに俺が居るので、受け渡しておかないとエライ目にあってしまう。

まだ俺達のボールだけど、奪われるのも時間の問題だ。

適当に相手に当てて、こちらボールのスローインでもコーナーでも貰ってはくれないだろうか?

と、未だ踏ん張っているサイドバックにフラフラダラダラと、ジョギングで近寄る影。

まぁ、龍である。

エンドラインから回り込み、ボールを預かると狭いタッチライン際から一人を抜き去った。

そのまま一気に加速すると、ピッチをほぼ真横に突き進んでいく。

シュートコースを切る為に、自然と半身のような状態で相手達は守備をしていくが、それではボールを奪えはしない。

龍は龍で、角度調整の為にゴールから離れるようにドリブルしていくから、余計に奪いづらいだろう。

この時、チームの誰もがこのままシュートまで持っていくと思っていた。

シュートで終われば、カウンターまでの時間は稼げるし、ゴールキックならその心配すら必要が無い。

と、緩んでいた。

しかし、龍が次に取った行動は、なんてことのないパスだった。

スペースに走り込ませるでも、ヒールやアウトサイドを使ったテクニカルなパスでもなく、インサイドでの簡単な相手の足元に収まるものだった。

歩幅が合わなそうに窮屈な姿勢でトラップした味方は、何とかシュートまで持っていくが、キーパーの真正面で受け止められてしまう。

素早くボールを投げて、相手のMF、そして七番へとパスが出された。

大きく浮かんだ滞空時間の長いボールは、駆け引きが発生しない追いかけっこを強いてくる。

こちらの方が距離は近いが、それでもあちらに有利な展開だ。

DFの後方に着弾が予想されるボール。

七番が抜け出し、絶好のチャンスになるかと思われた。

しかし、流石は松本である。

ゴールから離れ、ヘディングでのクリアを選択していた。

空中戦。

交錯する松本と七番。

身長で勝る我らが守護神が、サイドラインまでクリアしてくれた。

ホッとしたのも束の間、地面に墜落した松本が動かない。


「トレーニングマッチだろうが」


呪詛めいた言葉を口にしながら、不安と心配がない交ぜになった心で松本に駆け寄っていた。

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