トレーニングマッチ6
どてっぱらにめり込んだボールは、右にも左にも跳ねる事なく、力なくほぼその場に落ちる。
当然壁の一人がボールを蹴り出し、俺の頭上を大きく越えていった。
「マジかよ……あの野郎、適当な作戦考えやがって……って、マズイ!!!」
前線に居るのはエースの七番。
当然俺達の守備陣も残っているが、戻りながらのディフェンスは分が悪い。
全速力で戻っていくが、果たして間に合うだろうか?
少しでも攻撃を遅らせてくれれば御の字だが。
しかし、そんな願いをあざ笑うかのように、大きめに蹴り出すドリブルで、ゴールへの最短距離かつ高速で突き進んでいってしまう。
こうなったら、守護神松本に期待するしかあるまい。
こぼれ球のケアの為に、走っていかねば。
俺がハーフウェイラインを超えた辺りで、もう既にシュートに行ける距離に入っていた。
しかし、世代最強の名高い松本も、下手に飛び込む事はせず、絶妙な間合いを保ち、シュートコースを狭めてプレッシャーをかけていた。
こうなるとタイミングの駆け引きだ。
ボールに触れる前に飛び込みたい松本と、誘い出すか自分のタイミングでコースを狙いたい七番。
ゴールの広さを考えれば、どう考えても七番が有利だが、絶好の機会というのはとてもゴールが小さく見えるもの。
そういったプレッシャーを感じないタイプかもしれないが、松本の威圧感も負けていない。
一対一という状況でも、松本は何故か自信に満ちているように見えるのだ。
もしかしたら、こういった決定機を止めたら美味しいと思っている節を感じさせるほどである。
これ以上、距離を詰められない、といった間合いで七番は遂にシュートを放った。
インパクトの瞬間に、飛ぶ方向を決めていたかのような、抜群の反応で松本は左手をボールに当てる。
よし、こぼれ球は何としても拾わなくては!
松本が駆け引きを行ってくれたおかげで、ペナルティエリアまであとちょっとという地点だ。
あと少し、あと少しでボールに触れる!
当然、他の味方も駆け寄ってきているし、何とか決定機を防げた。
かと思うのも束の間。
俺があと少しというのなら、敵も近寄っているに決まっている!
先に触ったのは、敵の選手。
そのままガラ空きのゴールへボールを蹴り込まれ、同点に追い込まれてしまった。
「事故みたいなもん……って思うには、言い訳が足りねえよな……」
俺のミスキックもそうだが、相手からすれば作戦通りなんだから、これから何度でもこういった事を狙ってくる。
セットプレーのミスも、相手の深い所からのボールロストも気を付けなければならない。
同点となって、プレースタイルを変えてくるかもしれないけれど、七番のスピードはどんな時でも一撃必殺となり得ると心得なければ。
センターバック二人に視線を送ると、二人も同じように思っているようで、頷いた。
これなら、何とかなる……だろうか?




