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恋愛蹴球  作者: ひろほ
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トレーニングマッチ5

他人事のように鬼プレスをかけられているチームメイトの姿を眺めながら、相手チームに対する変な尊敬を抱いた。

だって、そうだろう?

これはあくまで練習試合。

勝ちにこだわる必要なんて一切無い。

しかし、それでも勝ちたいと、負けたくないと、恥も外聞もかなぐり捨てて、こんな作戦を取ったのだ。

エースである七番を一人残し、一人か二人は必ずボールホルダーにチェックをかけに行き、それ以外の選手はガッチリと下がっている。

まあ、カウンターの練習台として、そういった指示が来ているのかもしれないけれど。

とはいえ、前半からビハインドのチームがこんな作戦をするとは思わなかった。


「ただ、こういうのはウチの十八番なんだけどな」


なんちゃってポゼッションサッカーを課されていた俺達にとって、相手が引いてくれるのはとてもありがたい。

ボールを回せるので、ポゼッションを出来ている気になれるし。

柏戦以降、それに重きを置いてはいないが、馴染みのある展開というのは心地良いものではある。

さて、ボールが回ってきて、そんな風に他人事ではいられなくなった。

細かく繋ぐ? 戻す? それとも攻める?

相手が一番やられて嫌な事。

パスの速度を上げて、疲れさせる?

それとも、スペースに出して追いかけっこに持ち込む?

プレス役を抜けるのならば抜いても良いし。


「龍!」


と、いうわけで俺が取った行動は前線に張り付いている龍へのロングパス。

狙うは奴の足元。

そこまでの精度で蹴れはしないが、近くまで飛ばせば何とかしてくれるだろう。

落下点に選手が群がっていく中、いち早く抜け出していた龍はピタっとボールをトラップした。

いや、ありえんだろ。

自分で言うのもなんだが、汚い回転に決して弱くはない威力を持ったパスだった。

しかし、それを全く弾ませずにトラップするとか……。


「すげえ……」


素直に感嘆の声が漏れた。

しかし、その超絶技巧を披露した龍は、四人から襲い掛かられ、倒されてしまった。

もちろん、笛が吹かれ、絶好の位置でのフリーキックを獲得する。

相手のゴールから見て、左に45度、距離は20~25メートルといったところか。

キッカーはもちろん龍。

俺も前線に上がっていると、龍が手招きをしている。

また何かよからぬことを考えているんだろうな。


「どうした?」

「お前蹴れ!」

「は?」


一体全体、どういう事だろうか?

そもそも、キッカーは決まっているんだが。


「お前が蹴って、壁にブチ当てろ」

「ますますもって、意味が分からない」

「で、そのこぼれ球を俺か洋平君が蹴る」


洋平君と呼ばれた一つ年上の第二キッカーも龍と同じように親指を立てる。

いや、アンタも賛成派かい。


「何処に跳ねるか分かんないぞ?」

「だから二人で両サイドをケアするんだろうが」

「で、跳ねたボールはどうすんだよ、セットプレーも崩れてるんだぞ?」

「ん? ゴールに入れりゃいいだろうが?」

「お、おう?」

「よし、分かったな。壁のど真ん中だぞ?」


ああもう、なるようになれ。

とにかくボールに集中しよう。

壁の真ん中、壁の真ん中……。

こういう時、予感というか気配というか、何となくだが感じるものがある。

わざわざアイツを呼び出したという事は、トリックプレーなんじゃないか? と思われているんじゃないだろうか。

俺がセットしても、飛ぶ気配があまり感じられない。

さらにはじーっと俺を見つめながら、一人の選手が寄って来ていた。

つまりは、俺が蹴るふりをして駆け抜けてパスを受ける、と予想しているのだと思う。

すまん、トリックプレーだけど、そういうのじゃないんだ。

一番強く蹴り込めるスタンス、スピード、リズムで走り出す。

フリーキックってのはいいもんだな。

と感じながら、渾身の力でボールを蹴り込む。

我ながら弾丸の様だと思える勢いで、放たれたそれは、相手の壁の一人にめり込んだ。

…………跳ねないじゃねーか!?

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