横浜龍2
「―――じゃあ、結果は、後で電話するから」
「ウィッス。ありあとあしたー」
といいながら、コーチに一礼して練習場を後にする。
「千紘」
門の壁にもたれかかりながら、龍が話しかけてきた。
「おう」
「ん、お疲れ」
ペットボトルのスポーツドリンクを差し出す龍。
「サンキュ」
横に並び歩きながら受け取る。
「まぁ、あの感じなら受かったんじゃね?」
「どーだろな。どっかの馬鹿のせいで、逆に心象が悪くなったかもな」
「あぁ?」
チンピラのようにガンをつけてくる龍。サッカー選手はなんでこうもヤンキーみたいなやつが多いのだろう。
それでも、真理と同じ顔なもんだから、凄みなんて全くない。
「お前なぁ、あんだけ派手に俺にやられてたら、ワザとだと思われるだろうが」
龍は俺に吹っ飛ばされた後、守備に走り回り過ぎたせいで、途中から完全に足にキテいたみたようでプレーに精彩を欠いた。
とくに走りは最悪だった。追いつけない、抜かれる、当たり負けとバラエティ豊かであった。
俗に言う『チンチン』にされるというやつだ。
いやらしい意味ではない。
「ふん。慣れないことはするもんじゃないな」
「だな。龍はディフェンス苦手なんだしさ。まぁ、懐かしかったけどな、小学生ん時とかみたいで」
「あぁ、真理も一緒にやってて、サッカーじゃなくて、ボール追いかけてるだけだったけどな」
近所の公園で、暇さえあれば、ボールを蹴っていて、真理もなんとか混じって遊んでいた時を思い出す。
「なぁ、千紘。お前、もし駄目ならどうするんだ?」
「部活に入るだろ、そりゃ」
「そうだよな……。今、お前、告白したんだって?」
にやりと、悪い笑みを浮かべながら龍は尋ねてきた。
「―――ブッ!」
口にしていたドリンクをつい噴き出す。
「おま、それ誰に聞いた?」
「んー、山葉にー」
「あのヤロー……」
「あれはあれで心配してたんだぜ、ずっと。お前が交通事故にあってから、ボール蹴れるようになって、ちゃんとチームに復帰できるか、とか」
「あの姉がねぇ…」
正直、信じられん。
「そうだよ。さっきもどうだったかメールで聞いてきた」
「マジか……。つか、お前ら何時の間にそんな仲良くなった……」
「あー、お前が事故って、Jrユース居なくなったときかなー?」
「大分前から、そんなやりとりを……」
「で、今、付き合ってる」
「はぁっ!?」
待て待て、超絶ドSの姉と、気分屋で訳のわからん行動ばっかするヤンキーみたいなやつが付き合っているだと?
「ちなみに、何もしてないから安心しろ」
「そんな心配なんぞするか、気持ち悪い!」
肉親と知り合いのラブシーンなど、想像するだけで身の毛がよだつ。
「つーか、お前、あんなのの何処がいいんだ?」
「え、そーゆーの聞いちゃう? マジで?」
何ウキウキしてんだ、このバカ。
「怖いもの見たさでな」
「優しいし、美人じゃん?」
「び、美人? まぁ、そういう見方もあるのやもしれんが……」
「俺にとっては美人なの」
「はぁ、そうか……。にしても、あいつはもっとゴツイ男が好きなんだと思っていたわ。男ってより漢って感じの……」
「なんかちっこいのが良いんだって、年下のが良いってもあるらしい」
「あー……」
龍は背が低い。せいぜい160前半ってところだ。
それを本人も気にしていた。サッカープレイヤーとしても、いち男としても。
ユースに上がる際、体格を理由に落とされるやつも多い。
見た目は真理と同じ顔をしているだけあって、中性的な可愛らしい顔でモテそうだとは思うのだが、告白されただの、彼女がどうのと聞かされたことはない。
まぁ、中身が口の悪いヤンキーだしな。
「正直、俺も信じられないけど、世の中ちっこい男が好きな女性もいるらしい」
「ほぅ」
「俺はお前が羨ましいけどな、そんなガタイ。ほんとフザケんな」
「ん?」
龍がジトッとした目で睨みつけてくる。
「身長180超えたか?」
「まさか、まだ175超えたくらいだ」
「でも、お前のお母さんデカイもんな。どこの人だっけ?」
「あー、イギリス」
そう、俺は俗に言うハーフである。もちろん山葉も。親父の血が濃いのか、全く英国人の要素はない。純然たる和風顔である。
ちなみに英語なんてまったく喋れない。
あと、ハーフだからモテるというのも、幻想である。でなければ、俺も山葉も彼氏や彼女の一人や二人、家に連れてきているはずだ。
「イギリス人って不細工っていうけど、山葉は美人だよなー」
「……おぇ」
幼馴染のノロケなんかに寒気を感じていると、ケイタイが鳴る。
相手は―――依子さん!
『やっほー♪
元気かな?忙しくて連絡できなくてごめんね?
日本にやっと帰ってきたよ!
まだ少し忙しくて、一緒にサッカー出来ないけど……
紹介したい人がいるから、明日、いつもの時間に来れる?』
との内容だが、何だ紹介したい人って……?
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