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恋愛蹴球  作者: ひろほ
58/72

トレーニングマッチ3

点を取られたのなら、攻めなくてはという気持ちが強くなる。

それが焦りなのか、モチベーションなのかは違いがあるとして、チームにしても個人にしても変化が起こる事は確かなのだ。

守備に重きを置く、カウンター主体のチームだとしても。

とにかくボールを奪われないように慎重になるだろうし、これまで以上に龍への注意を払うだろう。

そんな状況で俺―――アンカーの役割と言えば、相手の攻撃へのけん制だ。

動きで、ポジショニングで、声掛けでとにかく自由にさせない。

が、それだけではダメだ。

ボールを奪う事が守備の目的なのだから。


「焦らない焦らない……と」


自分に言い聞かせながら、相手の自由にさせない事に注力する。

相手が焦れてしまうまで、こちらから仕掛ける必要はない。

どうしたら良いか分からない時に、ふと隙が見えれば、途端に食いつくことだろう。

罠を仕掛けるのは、何も攻撃側だけではないのだ。


「さて、そろそろいけるか?」


相手がボールを保持して二分ほどは経っている。

電光石火のカウンター攻撃であれば、軽く四回は行える時間だ。まぁ、それと比べるのもおかしな話ではあるけれど。

とにかく、じっくり時間をかけてといえば聞こえが良いが、停滞していると感じるくらいには時間を使ってしまっている。

俺のマーク対象である七番は、献身的に上下動を繰り返す事を厭わないタイプで、ボールを受けによく走っていた。

いやはや、龍もこんくらいしてほしいものだ。

さて、そんなチームプレイに優れる七番から、視線を切る。

その隙を見逃さず、動き出し、七番はボールを呼び込んだ。


「残念でした」


何もみすみす視線を切ったわけではない。

相手のボールホルダーが、こちらの選手にチェックを受けている最中にやった事だ。

その結果、七番がフリーになったとしても直ぐにパスは出せず、僅かな時間遅れてしまう。

何より、パスコースが分かりやすくなるのだ。

スピードに不利があろうと、出しどころに最短距離で走り込めば、そうそう負けるものではない。

幸い、分かりやすい罠に引っ掛かってくれたおかげで、予想通りボールを奪う事に成功する。

さて、このままボールを龍や他の選手に預けても良いが、パスカットしたので余裕はある。

ならば少し、持ち上がるとしようか。

色々試したい事もあるし。

と、ドリブルを開始すると、七番が必死に追いかけてくる。

素晴らしいスピードで、一気に距離は詰められた。

ああ、分かっているさ、スピードでは勝てないだろう。

『追いつかれそうになったら、ストップ&ゴーかパスを出してくるだろう』と思っているだろう?

そして、ついに七番は並んできた。

それでいい。

備えるんだろう? 俺の仕掛けに。

安心しているんだろう? 追いつけた事に。

ホッとしているんだろう? スプリントしなくてもよくなると。

だが甘い。

このまま並走してもらう!

少しだけ虚を突かれたような息が漏れるのが聞こえた。

――――――今だ!

急停止し、相手との距離を空ける。

初見じゃ見抜けはしないだろう、依子式ストップ&ゴーを食らうが良い!

相手の重心、態勢を良く見定め、進む方向を決める。

観察する力の向上は、これにも作用しているようだ。

スピードで勝っているのは、相手が一番分かっている。

ならば、余計にその場に止まるだろう、と予想していた通り、七番は体勢を整える事に注力した。

しかし、俺は勢いを殺し切っておらず、勢いをやや保ちながら、七番の横を抜けていく。


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