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恋愛蹴球  作者: ひろほ
57/72

トレーニングマッチ2

落ち着け、弱点を突く。

それは変わりない。

フィジカルが弱いならフィジカルで勝負する。

足が遅いならスピードで。

そう、たかがそんな事である。

マークに付く相手の弱みを、見つけ出すようにすればいいのだ。

けれども、だ。

例えばドリブルで一人抜くとしよう。

そうしたら他の選手が来るだろう。

ということは、コイツにも対応するようにしなければならない。

下手をすれば、十一人分のデータを取るはめになるのか?

いやいやいや、それはあまりにも現実的じゃ無さすぎる。

とはいえ、何も対策しない訳にもいかない。

押し問答を繰り返すように、思考はループする。

こんな事を考えている場合ではないのに、一度囚われてしまった脳内は、なかなか沼から出てきてくれはしなかった。


「ピィー」


と審判の笛で意識が戻る。

どうやら、うちのチームがコーナーキックを貰ったようだ。

身長の高い部類である俺も、ゴール前に駆け寄っていく。

にしても、この学校の選手たちは背が高い。

龍を差し引いたとしても、平均身長が2~3センチは違うだろう。

となれば、空中戦をまともやっても勝ち目は薄い。

鋭いボールをスペースに蹴り込み、それに合わせるのが常とう手段だ。

ショートコーナーを使い、地上戦でも良いだろう。


「ん?」


待て、待て待て待て。

俺は今、何を考えた?

『空中戦をまともにやっても勝ち目が薄い』って事は、相手のストロングポイントって事だよな?

となれば、相手もその自信や誇りがあるわけだよな?

身長なんて、分かりやすいんだから。

相手が、強いと思っている、自信を持っている事。

それこそが癖じゃないか!

相手もきっと思っているだろう、俺達が空中戦では分が悪い、と。

そこを突く。

裏の裏をかく。

分の悪い勝負を挑む事と同義で、本来ならば避けねばならない。

しかし、これは『チーム戦』で『攻撃』なのだ。

個人の一対一の守備とは真逆。

失敗したとして、ただ『得点できない』だけの事。

一度、ゴール前から離れ、相手の選手たちを見つめた。

――――――ここだ。


「龍!」


ハンドサインを龍に送った。

バレバレになっても構わない。

いや、むしろバレてもらった方が良いかもしれない。

「ふーん」といった表情で、手を挙げて応えるキッカーの龍。

通じてほしいものだけれども。

ボールをセットし、助走を始める前に、俺は軽く動き出した。

きっと龍にも見えている事だろう。

俺が狙うのは、空中戦の人員の中でも一番低い選手のエリアだ。

強みの中の弱み。

自信の中の綻び。

誇りの中の緩み。

それを俺は突く。

相手も分かっているだろう。

空中戦なら、このポイントが弱い、と。

だから、注意をするのだろう。

そして、俺を注視するのだろう。

ボールが蹴り込まれ、俺以外の選手も動き始めた。

俺を止めるために、他の選手が弱点のフォローで近寄ってくる。

それでは遅いし、間に合わないだろう。

せいぜい、俺のヘディングのシュートコースに入るくらいしか出来ないはずだ。

ついにボールが蹴り出され、大きく打ち上がったボールに注視するもの、一度選手に目線を切るもの、様々な思惑が飛び交うゴール前。

いや、すまんね、皆が色々と考えている中、俺だけが違う事考えていて。

グッと踏み込んで、飛ぶ。

こちらの予想通り、比較的身長の低い敵は、必死に体を寄せるだけで終わった。

フォローの敵も、同じように俺の目の前を塞ぐに留まっている。


「ま、何もしないんだけどね」


落下し始めた俺の頭上をボールが通過する。

当然、俺と同じタイミングで飛んだ敵二人も落下していた。

その二人は鋭く曲がるボールを見送りながら、地面に着地する。

その時には、既にボールはゴールに突き刺さっていた。


「千紘ーーーー!」


ちびっ子が俺に飛びつく。

得点出来た事がとても嬉しかったようだ。


「痛てぇよクソ野郎」

「直接決めるなんて、久しぶりだ! ナイス囮!」

「へーへー、ありがとうごぜぇますだ」


俺が龍に示したハンドサインは、『直接狙え』というものだ。

チームのサインではなく、俺らがガキの頃に何となく意思疎通に使っていたものだけど、通じたようで何よりだ。

裏の裏―――それは俺が突く。

少しでも有利な裏の裏を。

しかし、本命はそのまた裏。

いや、素直に裏を狙った。狙わせた。


「龍さ、お前、攻める時、相手がどう来るとか考えるか?」

「……まぁ、な……」


いや、絶対嘘だろ、その歯切れの悪さは。


「ほほう?」

「んだよ、俺にフィジカルで勝負してくる奴ばっかなんだから、それを俺が考えてるかってのは微妙なんだよ。当たり前の事だから」


強みで勝負してくるのは当たり前の事。

それは、弱点を突く事とは、若干の違いがある。

攻撃とは、こちらに主導権がある、その事をすっかり忘れてしまっていた。

相手の強みを理解出来れば、そこを避ける事も、あえて受ける事も、そして、その狙いの裏をかく事も出来るのだ。

その気付きは、俺に大きな希望をもたらした。

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