表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛蹴球  作者: ひろほ
53/72

答え合わせ2

――――――自分の愚かさを自覚する。

泉も加地も龍も、俺にはまばゆいほどの存在だ。

それが少しでも太刀打ちできるようになったら、今度は越えたい。俺だけの武器が欲しい。だと?

少し前まで、松葉杖でボールも蹴れなかったんだぞ? いまだに左足は鈍いんだぞ? 

調子に乗るのもいい加減にしろよ。

俺が今やることは、天才共に必死に喰らいつくことだろうが。

足で、頭で、体で、心で、体―――俺の全てを使って。

その事を教えてくれたのは、同じくスペシャルな存在である松本である。

ヒントを与えてくれていたのに、焦りや勘違いを繰り返し、風太郎さんにすら強くあたってしまった。


「すみません、風太郎さん、俺、調子に乗ってました」

「いやいや、謝ることじゃない。君の発言を聞いたら、調子に乗っていると思った僕が間違っていたよ。謝るべきは僕の方だ。強い言い方もしてしまったしね」


俺の肩に手をかけて、今度は優しく話しかける。


「君のレポートを見ると、誰々より速いとか、平均よりとか、そういった言葉が見受けられる。この君の客観的な視点は間違いなく武器だ。いや、武器になりうるものだよ」

「―――えっ?」


松本には頭が上がらない。

彼と話していて、出来る事、やれる事の基準を色んなプレーヤーと比較したり、同年代と比べたりを徹底的にした。

試合中に思った味方にすら、何でこうしないんだ、こう出来ないんだという憤りすら思い返す。

その作業は、自分の醜さとも向き合う事で、精神的に未熟だと思い知らされもした。


「天才と呼ばれる選手も何かしら劣る部分はあるんだ。そこで勝負すれば良い。それに千紘君のことだから、勝てない相手に勝負は挑まないって、避けるなんてことも気付いているはずだよ」


確かにサッカーは一人でやる競技ではないから、俺一人が天才どもを相手にしなくていいのだ。


「で、だ。もう一度言うと、君のプレーヤーとしての才能は、サッカーの門外漢の僕でも有ると分かるくらいだ。それに見合う努力や思考もしている。その上で僕は、君の基礎能力向上が武器に繋がると思うんだ」

「えーと、結局基礎能力が低いってことですかね?」

「まぁ、基礎能力が高いなら、それだけで武器になるんだけどね。流石にそれは現実的ではないね。基礎能力を上げるというよりも、太刀打ちできるところを増やすって言い方がしっくりくるかな」

「けど、自分の強みや相手の弱点を突くのは、勝負事の基本で、誰でもやっていることだと思うんですけど」


率直な疑問をぶつけてみると、笑いながら答える。


「意外と自分と相手の技量を計るのは難しいんだよね。それに『あ、コイツ強いな』って思った時に、どこがどう強みなのか弱点なのか、分かる人はそうそう居ないよ。前もって研究をするのは、その為もあるんだろうね」

「そういうもんなんですか……」

「君の武器についてだけど、既にもう身についている、というか備わっているのは間違いない。的確に相手の弱点を突く、そうだね言うなれば『後出し』みたいなもんだよね」

「……『後出し』」

「じゃんけんみたいに単純じゃないから、それだけで勝てるってわけじゃないけどね。ゲームの属性みたいなやつだね。優位でもステータスが低いと負けちゃうみたいな。負けづらい後出し、そうだね、『属性優位の後出し』とでも名付けようか」

「なんかズルいしセコイ個性ですね」

「ズルかろうと、情けなかろうと個性は個性だよ、だからせめて、名前だけはカッコよくしよう。それが自信や誇り、自己肯定の幸福にも繋がるからね。それに、狡猾な君にはピッタリじゃないか」

「いや、勝手に狡猾認定しないでくださいよ」

「あとは、こないだ君も言っていたキック力も、依子に改めて聞いたらとんでもない威力と言っていい水準みたいだから、やはりそれも武器なんだろうね。やっぱり君は自分のことがよく分かっているみたいだね」


依子さんのお墨付きだと!? こんな嬉しいお墨付きがあるものか。


「あと、龍君も君の体へのコンプレックスは持ってるみたいだよ」


あぁ、そういえば、あのチビもそんなことを言っていた気がするな。


「というか、龍と連絡なんて取っていたんですか?」

「そりゃね。千紘君と連絡取れない時とかもあるから、君伝いにするよりはめんどくさくなくていいでしょ?」

「確かに」

「そういえば、龍君は遅いね」

「んー、珍しいっちゃ珍しいっすね」


加地との一戦以降、フィジカルトレーニングをともに行っているのだが、遅刻したことは無い。


「どうせアイツのことだから、補修かなんかじゃないですかね?」

「夏休みに補習が夜までかかるかよ」


と、ちっこいヤンキーの登場である。


「どうだ、自分の武器とやらは見つかったのか?」

「一応、な」

「と、いうわけで、今日は夏休み特別企画で、一対一をメニューに入れるよ」

「えっ、ボール蹴って良いんすか?」


目を輝かせる龍。ん? なんかこのリアクション、どっかで見たことあるな。


「千紘君の武器の確認も兼ねてね。ただ……」

「ただ?」

「今日は別メニューで追い込みます。覚悟しておくように。で、千紘君はいつもとどう違うのか、しっかりと対応するようにね」

「つまり、どっかしらが役に立たないくらい追い込まれるわけですね……」


意地悪な顔をしながら親指を立てることで答える風太郎さん。

龍を公園の外周を走らせて見送ると、凄く楽しそうにこちらを見ている。


「さぁ、始めようか!」


さぁて、今日はどこがぶっ壊れるのだろうか……。


ブクマ、評価、レビューなどありがとうございます。

とても嬉しい気持ちで筆が進みます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ