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恋愛蹴球  作者: ひろほ
47/72

ヴェガ仙台レディース対ジャパンテレビヴェールズ3

「すげー試合になってんなぁー」


ヤンキーの寝起きの第一声がそれだった。

それもそのはずだ。

ヴェガ仙台は前線に一人を残し、全員が守りに回っているのだ。

このような分かりやすい固め方はプロチームには珍しい。

観客を楽しませるようにする面もあるため、消極的な戦術は好まれない節がある。

正直、俺もサポーターならブーイングをしてしまうかもしれない。


「あ!」


龍がいきなり大きい声を上げる。

試合は結愛がパスカットしたシーンだった。

当然のように大きく蹴りだす。

FWの選手はすでにDFを置いてきぼりにしていた。

オフサイドも当然掛かっておらず、独走状態。

そうか、龍が声を上げたのはこのせいか。

結愛がパスカットする前に、ワントップが既に走り出していたのを見ていたためだろう。

しかもそれが、本当にとんでもないスピードだったのだから声を上げるのも分かる。

結愛の仕掛けだろうか? 巧妙に複雑に罠を貼り、ここぞという時に走り出しの合図を出す。

そのままキーパーとの一対一も制し、ヴェガ仙台の追加点。再び引き離した。


「すげースピードだったなぁ……千紘なら止められるか?」

「女子であれば、な。男子であの速度差なら、ラインは上げられなくなる」


さて、そんな感想を呟きつつも、またもビハインドとなったヴェールズはリスタートを素早く行い、攻めたてようとする。

が、さっき点を決めた途中交代の選手が積極的にチェックに入り、前からの執拗なプレスにパスも上手く回らない。

なるほど。うちの低身長とはえらい違いだ。

カウンター特化型の選手とでも言えばいいのだろうか。おそらく足元の技術はそこまでではないだろうし、スタミナも男子のハードワーカーと違って多くはないだろう。加えて、上手いこと手を抜く強かさやズルさもないように思える。

しかし、後半にこういった選手はとんでもなく厄介だ。

素早くチェックに来られると難しいパスは出来ない。ボールも落ち着かせられない。尚且つ味方も消耗しているため走らせることも出来ない。

まさに苦境に立たされたヴェールズではあるが、打開するのはやはり依子さんだった。

ワントップだったが、ディフェンスラインまで位置を下げてボールを受けた。


「そこまで下がってる!?」


自由なポジショニングにも驚いたが、何かの予感がした。

依子さんは、そのまま素早いパス回しに加わるのかと思ったがドリブルを開始する。

本当に散歩をするように軽く進みながらも、猛スピードでチェックに来た、件のFWを易々と躱す。

何度も追いすがるが、その度に依子さんは方向転換すらせずにステップと緩急、パスのそぶりを見せるフェイントであしらう。

突っかかってもボールのコントロールさえ乱せないと見るや、距離を取り、進撃を遅らせるように切り替えるが、脚の止まった相手に対しては、急加速で抜き去った。

そして、ついに前線まで押しあがり、待ち受けていた結愛と対峙する。

数々のフェイントを駆使しながら、やはり抜きにかかる。が、結愛も何とか体を寄せて、抜かせはしない。

激しい体の寄せ方に、遂に結愛を背中に背負うように後ろを向いてしまった。

しかし、このまま膠着状態かと思われたが、依子さんが左右にステップをすると事件が起こる。

肉と肉がぶつかる鈍い音が観客席まで聞こえそうなほど、激しくぶつかったのだ。

――――――依子さんと結愛ではない。

結愛と先ほどから必死に追いすがっているFWの選手が、だ。

まさか、これを狙ってやれるのか?

まず結愛を背負いながら小さく左にステップ。

これをフェイントだと見抜いた結愛は、重心を残しつつ体を軽く寄せ続ける。そして、味方にもこっちに追い込むぞ、とジェスチャーを送っていた。

結愛の予想通り反対方向に、先ほどとは違い大きくステップする依子さん。この動きに多少遅れながらも半身になって喰らいつく結愛にステップの予測を誤った選手が勢いよくぶつかる。

以上が事の顛末だった。

邪魔者二人を排除した依子さんはそのまま一人二人三人と敵を抜き去り続け、最後にはゴールキーパーでさえも抜くというとんでもないプレーをしてしまった。

5人抜きでも伝説となるというのに、依子さんは6人抜き去った。

そして、決めたボールを自分で抱え上げ、小走りで中央へ戻っていく。

その姿は勝利への姿勢と、私が何とかするという気迫を感じさせる。

しかし、リスタートの笛は一向に鳴らない。

先ほど衝突した二人がフィールドで一向に動かないのだ。

試合終盤の時間稼ぎではないかと、ヴェールズの選手が抗議もあり速やかに担架でコート脇に運ばれていった。

ここにきて二人、しかも一人はエース、もう一人は交代直後のジョーカーを欠くことになるとは、ヴェガ仙台の監督の心中はおだやかではないだろう。


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