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恋愛蹴球  作者: ひろほ
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ヴェガ仙台レディース対ジャパンテレビヴェールズ2

唐揚げやら肉まんやらを頬張りながら後半の開始を見届けた。

両チームともにメンバー交代は無い。

しかしヴェールスは依子さんをワントップにし、4―2―3―1という布陣に切り替えようだ。

依子さんにポストプレーの印象は少ないから、ゼロトップと呼ばれる戦術だろうか。

ならば結愛がボランチだから直接対決の機会は増えるだろう。

依子さんが中心を縦に良く動き、パスの楔となることでヴェールズのパスが回り始めた。

短く速く、タッチ数も少ないため結愛のゲームコントロールが間に合わない。

――――――そして、ついにこの時がやってきた。

ハーフウェイライン付近、下がってきた依子さんが振り向きながらパスを受け、結愛との一対一の様相となる。

緊張の一瞬だが、依子さんはボール遊びをするように前に蹴りだした。

これには見ていても度胆を抜かれた。

良い流れでパスを繋げているというのに、わざわざボールをキープして流れを止め、ご丁寧にも敵にさらけ出す。

結愛も面を食らったようで反応が遅れていた。

それでも何とか足を伸ばし、奪取しようとするも体制の整っている仕掛け人がかっさらうように持っていく。

一気に結愛を置き去りにし、近寄ってきたFWと細かくパスを交換すると、ゴールにパスをするように決めてしまった。

これで1―1の同点。

鮮やかなパスワークと依子さんの個の力、そして最後はパス交換での得点。個と組織の融合とも見えるだろう。

しかし俺にはあの短いパス回しはあえて結愛と一対一を作りだす為に思えた。

パスワークを駆使するチームにはどうするか。

初歩的な対策として空間を守るのではなく人をマークすれば良い。

ただそれだけでパスの出しどころは少なくなる。

結愛もそう指示しただろう。

そうなれば今度は個人の力が物を言ってくる。

相手よりも足が速い、カラダが強い、背が高い、ロングスプリントが効くなど個の力で勝っているものをチョイスしていく。

そして依子さんは結愛をドリブルで抜くことを選んだ。

もしチーム全体でそう差し向けているのなら、これから何度も依子さんと結愛のマッチアップは見られるだろう。

結愛も優れた選手ではあるが、個人での打開となると依子さんに分がある。

言い方は悪いが、依子さんというストロングポイントを持っているヴェールズにとっては、結愛は『穴』なのだ。

さて、俺が結愛ならどうするだろうか。

マークの数を増やす? ゾーンディフェンスに切り替える?

いや、それは監督が考えること。俺が今考えるべきなのは、個の力で圧倒的な実力を持つ相手に対応すること。

二人とも体格は同じく、フィジカルコーチも同じ。ならフィジカル面では互角といったところだろうか。

なら後は頭で勝負するしかなさそうだ。

俺が泉とマッチアップしたときは、風太郎さん直伝の裏技もあれば、泉の性格やスタイルを逆手に取った罠を考えた。

龍や泉、加地といった『特別』に勝てるようにならなければいけないんだ。考えろ、考えろ、考えろ――――――。

俺が真剣に考えていると、答えはすぐに結愛が示した。


「なるほどなぁ……」


つい感嘆の声が漏れるのと、審判が笛を吹くのは同時だった。

―――結愛はラフプレーに抵抗が無い。

ファウル覚悟で依子さんを潰さんばかりの勢いで激しく当たる。

それが結愛が出した答えだ。

しかし、それは選手として負けを認めるに等しい行為。

その上で割り切ることが直ぐ出来るとは恐れ入る。

潰されるならそこでの勝負を避けたいとも思うのは普通で、それすらも凌駕してやろうとするのは隣にいるヤンキーくらいなものだ。

それに一度プレーを止めて落ち着かせれば戦術の切り替える指示なども行いやすい。

これで守備の修正を行えるだろう。

パスを細かく速く繋いでいくチームに対する戦術としては、物凄く走り回るか、ドン引きして固めるかのどちらかに分かれる。

もちろんマークでパスコースをきっちり塞いだ上で、だ。

そして――――――ヴェガ仙台が取った策はドン引きの方だった。

スタミナの兼ね合いから当然と言えば当然だ。

さて、そのまま古来より絶対的な攻略法が見つからないドン引きサッカーを依子さんはどのように突破するだろうか。

そんな期待を胸にしながらも、膠着状態で試合は進む。

依子さんと結愛の一対一は、結愛が抜かれまいと絶妙な距離を保ちながらプレッシャーをかけている。依子さんはドリブルのみならず、ガチガチに引いている相手に効果的なパスが出せずに苦しそうだ。

ドン引きサッカーの攻略法は広く知られている。

まず一つはサイドでの打開。

これは中央を絞った状態で守っている相手には効果的ではある。

……というか、攻める事が出来ているように感じる。

実際はいくらセンタリングをしても中央には敵だらけでまず通すことが出来ない。ただノーチャンスというわけでもないので、とりあえずの希望は持てる。泉や加地のような長身の選手がいるならもう少しは効果的だ。

二つ目にロングシュート。

もちろん入れば御の字。しかしながら、効果はそれ以外にもある。

シュートを打たれれば止めようとする。すると自然と位置取りも相手との距離が近くなる。

そして空いたスペースで勝負出来るようになる。という仕組みだ。

最後にめちゃくちゃ走ること。

パスワークを駆使するポゼッションサッカーの攻略法もこれであったように、結局は攻めるにせよ、守るにせよ、走ることが出来るチームは強いのだ。

が、そのどれも決定打ではない。

故に昔からこのみっともないドン引き戦術は続いている。

さて、先に動いたのはヴェガ仙台。

同点にされたため追加点が欲しいのだろう、前線の選手を変えてきた。

えらく小さいがテクニックやスピードで勝負するタイプだろう。

残り時間は30分。まだまだ時間はある。

両チームともどのような手を打ってくるだろうか。

しかしながら、膠着した試合展開に隣のヤンキーが寝息を立て始めたのだがどうしてくれようか。


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