ハーフタイム
―――しまった。
そんな感情が私の中を駆け巡る。
プレーに集中しすぎて周りに気を配らなかった私に腹が立つ。
兄さんが観戦に来ると言ってたのだから、その可能性を考慮しなければならなかった。
それなのに、彼に無様で無骨でみっともないプレーをしてしまったなんて。このままでは幻滅されてしまう。
つい腹が立ち、ロッカーに蹴りをくれてやる。鈍い衝撃音とスパイクと金属がぶつかり合った音が私を幾分か落ち着かせた。
周りが少し引いているが、そんなものは知ったことじゃない。
「あ、あの、リードされてはいますが、何がそんなにお気に召さないのですか?」
私の『先輩』が聞いてくるが答える義理は無い。
一瞥くれてやると、すごすごと無言で消えていった。
終わったことをいつまでも悔いていてはダメ。
これからは華麗に優雅に、気品ある淑女のようなプレーをしなくては嫌われてしまうかもしれない。
紳士のスポーツなのだから、女性は淑女であるべき。
そうすれば、もっと好きになってくれる。うん。
ちゃんと見ててね。
そんな思いを胸に秘めながら、私――――――『川崎依子』は後半のピッチへ向かう。
「みんな、素敵なサッカーの時間だよ」
「はい!」
私の呼びかけにひときわ大きく声が響く。
この従順な声たちが私を戦闘モードに切り替えさせる。
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