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恋愛蹴球  作者: ひろほ
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お誘い

依子さんへの告白と、姉の叱咤を受けたあくる日、新しい制服に身を包み、桜の花が咲く通学路を歩いていた。

もともと勉強は苦手ではあったが、サッカーが出来なかった時期に、姉に強制的に仕込まれたため、なんとか中堅の学校には合格出来た。

都立馬場(うまば)高校。都立ながら、全国の並みいる強豪私立とまともに肩を並べる有名校である。

ここで活躍さえすれば、プロや日本代表への道が見えてくる。

もちろん、その名門と呼べるサッカー部に入る予定ではあったが、一世一代の告白をした日、Jrユース時代のコーチから連絡があった。

ユース選手が、急きょ大量に抜けたとのことで選手をもう少し確保したいということである。

まぁ、理由としては、トップチーム(プロ)昇格だったり、海外ユースへの移籍だったり、故障で引退だったり。

で、候補に挙がったのが俺である。

もともと怪我さえなければ、ユースへの昇格を果たしているはずではあった。

正直、気心知れる仲間ともう一度サッカーをしたい。

例え、いくら名門で三年間レギュラーをとれたのだとしても。


「まいったなぁ……」

「何よ、まいったって」

「あぁ、真理(まり)か。いや部活どうしようかってさ……」


話しかけてきた女の子は横浜(よこはま)真理。幼いころから、ずーっと一緒で、下手な男友達よりも俺のことを分かっている。


「千紘、サッカー部に入るんじゃないの?」


首をかしげながら、クリッとした大きな瞳をこちらに向けてくる。


「そのつもりだったんだが、ちょっと事情が変わってねぇ」

「事情? 千紘がボール蹴るのに、なんか事情とかあったんだ!?」


と真理は関心と驚きを含めた声をあげる。


「最初は、強いところで、自分のピークの頃を取り戻しつつ、レギュラーを取れればなぁ、なんて、楽観的に考えてた」

「じゃあ、今は違うの?」

「日本代表にならなくちゃいけなくなった」

「日本代表って、サッカーの?」

「おう」

「へぇ、大変だねぇ、頑張ってね!」


何故か納得したようにうなずきながら肩を叩く。

いつも思うんだが、真理は人とスタンスが違う。言葉を額面通り受け取るというか、変な方向に素直である。


「日本代表には、どこが一番近道か考えててさ」

「それなら、とにかく試合で活躍しないとね」

「ただ試合で活躍するだけじゃダメなんだよ。やっぱり大きい大会で結果を出さなきゃいけないんだ」

「あー、そうだよね。けど、うちの高校は強豪じゃない?」

ますます分からなくなったような顔をこちらに向けてくる真理。

「そーなんだけど、目につく回数がユースとは段違いだからなー。最低でも全国にでも行かなきゃ代表には選ばれない」

「じゃあユースの方が良いの?」

「まぁ、ユースの大会やリーグ戦なら協会とほぼ直結だしね。それに部活みたいな年功序列も少ない」

「なるほどね。ならユースを目指しちゃいなよ」

「つっても、俺は入れるって決まったわけじゃないからなぁ……それにセレクションもいつ行う事やら……」


通常、セレクションや昇格テストは夏から秋にかけて行われる。

急きょ選手の補強のために開かれるテストだから、そこまで待たされる事はないだろうが、遅くなるほど、部活へのシフトはしづらい。

具体的には人間関係が。

中学の時代にも、一部のJrユース崩れのサッカー部員に目の敵された。体育のサッカーの授業などは潰しに来るやつがいた。

これだけ強豪のサッカー部なら、さらにユース崩れは多いだろうし、顧問やコーチにもそんなコンプレックスを持っている人間もいたりする。


「ユースも部活もやっていることは変わらないし、ユースでも良いプレーができない奴もいるし、部活でも良い選手は沢山いるんだけどねぇ……はぁ……」

「ん? 何の溜息?」

「これからの俺の前途多難な人生への」

「新生活なのに大変だね」

「あー、まぁね。とにかく、クラブからの話が進むまで、仮入部期間だけでもやってみる」

「だね、私も仮入部期間ちゃんと使って、部活決めなきゃね。沢山あって決められないよぉ」

そう言って溜息をもらし、小さい体を更に小さくさせる。

「まぁ、その小さい体と運動神経じゃ、運動部はきつそうだよな」

「えー、ヒドイ!!」


怒った顔は正直、高校生には見えない。多分、昨今のマセたギャルっぽい小学生より子供っぽい。


「おっ、教室の振り分けの紙が張り出してあんぞ。真理とは別のクラスだな。」

プンスカと飛びかかりそうな真理をなだめながら、話を変える。

「あー、ホントだ、別々だねぇ。そういえば、(りゅう)が早くユースに来いって。千紘が居なくて、寂しがってた」

「あの龍が? 早く来いつったって、クラブ側に言って下さいって話なんですけどねぇ」


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