代表監督現る
「よくやったな」
試合後のミーティングで、監督からお褒めがミーティングルームに響く。
5―4とかいうバカみたいな試合をしておいて、よくやったもないもんだけども。失点にも絡んでいるし……。ただ、まぁ嬉しくないわけではない。
「いやー、多賀部は凄かったなー。束になってかからなきゃならなかった。そんな難しい試合をよくこなしたね。とりあえずはお疲れ」
チーム全体がペコッとお辞儀をする。
「さて、反省点は各自いろいろあると思う。個の力がまだまだプロはおろか、ユースのトップレベルにも達していないと思ったやつもいるだろう。その気持ちがあるうちは、まだまだサッカーが上手く、強くなるから、気持ちだけはしっかりしておいてくれよ」
パンパンと二回手を鳴らして、気持ちの切り替えを促す監督は、直ぐにニマッと意地の悪い顔をする。
「まあーそんな褒められた試合じゃないのは分かっているだろうから、そんなカンタンに切り替わらないだろうな。そんなお前らにプレゼントだ! じゃあお入りください!」
と、ミーティング室の扉が開かれると、白人の男性が入場する。
途端にどよめく室内。
それもそのはず、A代表の監督を務めるエリックソン監督だ!
「えー、本日の試合を見させてもらいました。大変エキサイティングな試合で、日本代表の可能性を感じさせてくれました」
横にいる通訳から、エリックソン監督の声が届く。
エリックソン監督は、代表監督の経験も多く、さらにイングランドのプレミアリーグでも指揮を執った経験もある歴戦の指導者だ。
そして、U23の監督も兼任すると言い、U23ユースの世代も幅広く見るとは聞いていたが、まさか俺たちU18ユース世代まで視察するとは思えなかった。
「皆さんご存知の通りー、えー、私は23歳以下の代表も率いています。えー、即戦力の選手も探しているのも勿論ですが、同時にダイヤの原石たちも探しています。今日はとても良いものを見せてもらいました」
「おぉ、良かったな、お前ら。あの、なんか質問とか有ったら大丈夫ですかね?」
「…………大丈夫みたいですね」
「おー、誰か質問あるやついるかー?」
「「はいっ!」」
勢いよく手を挙げるが、なんと人見知りの龍と被ってしまった。
こういう時には人見知りしておけよ。
「じゃあ、そこの君から」
龍の方が指さされ、少し控えめに答える。
「……代表で俺を使ってください」
……被った。
いや、ちょっとは違うけど、意味はそういう事だ。
「えー、君は非常にファンタスティックなプレーヤーだね。君のプレーにはワクワクした。私をもっと納得させるくらい活躍してくれれば、有り得ない話ではない」
パァっと明るい顔になった龍は満足そうにうなずく。
「はい、じゃあ、そこの君!」
しまった。被っていたなんて素直には言えない。
「……えーと、代表に欲しいのは、どんな選手が一番欲しいですか?」
眼を一度見開いて、うなずきを数度してからエリックソン監督は話し始める。
「君は、確かSBの選手だったね。君のプレーも印象的だったよ。とてもクレバーで執念深く、さらに器用だ。ボランチの位置にいってからも、君は何度もサイドから起点となり、罠を仕掛けた。今の質問で確信した。監督や戦術に自分のプレーをアジャストできる人間はとても素晴らしい。そして、君はその自信があるのだろう、と。私は君の様に勝利への情熱と冷静さ、そして何より狡猾さを併せ持つプレーヤーが欲しい」
……なんというか、べた褒めで物凄い恥ずかしい。
「ただ、まだまだ君もさっきの少年もプレーにムラが目立つね」
といってオチを付けて笑うエリックソン監督。
「なら、僕は……どう成長したら、代表になれるでしょうか?」
断りも得ずに、重ねて質問を飛ばす。
マナー違反だと思うが、止められなかった。
「どんな国、チームでも、選ばれるのはスペシャルな選手だ。足が速い、身長が高い、キックが上手い、フィジカルが強い、一対一が上手い、そういった特徴的な選手、破壊力を秘めた選手が必ず選ばれる。それは、ポリバレントな選手でも同じ事だ。君はとてもサッカーが上手い、ガッツのあるクレバーな選手だ。しかし、それでも私が選ぼうとはしない。何故なら、スペシャルではないからだ。今後、自分の武器が持つ事があるとするのなら、当然選出する事になるだろう。厳しい事を言ったが、期待している。どうか、私を驚かせてほしいんだ」
自分の武器を持っている選手。
確かに、俺は一体、何だったら負けないと言えるのだろう。
泉に負けを認め、逃げ出した。
そんな俺が、持っている武器とは、一体なんだろうか。
「すみません、本当に少ししか居れませんが、エリックソン監督はスケジュールが詰まってまして、これで……」
と通訳の人がペコペコと頭を下げながら、エリックソン監督の退室を促した。
まぁ、正直、ユースの試合も見る暇もないだろうしなぁ。
少しの時間ではあったが、実のあるミーティングであった。




