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恋愛蹴球  作者: ひろほ
36/72

仙台ユース15

「もし君がフィジカルでもテクニックでも敵わない相手のマークについたとする。その時はどうする?」


うっとしい梅雨空の下、風太郎さんが質問する。


「ずる賢くします。シャツ引っ張ったり、足踏んづけたり」

「はは、正直で良いね。そういうメンタルは大事だよ、実行するときに躊躇わないから」


イマイチ褒められている気がしないが、満足そうな顔をしている。


「けど、フィジカル―――フィジカルコンタクトが強いというだけで、使い方はこちらにぶがあるとしたら?」

「テクニックよりもフィジカルで勝負出来る気がします」

「だよね。例えば、人が体勢を崩すっていう出来事は、何パターンもあるよね」


例えば、シャツを引っ張られるのか、足をかけられるのかでも結果として体勢を崩すには変わらない。


「一番人が体勢を崩しやすいのは、予期しない衝撃を受けるときなんだ」


なるほど。


「てことは、相手を押すなら意外な角度から押せってことですか?」

「有体に言えばね。体をぶつけにきた相手をスカすことも予期しない行動だね。まぁ、千紘君の体格で負ける相手はそうそういないと思うけどね。知っていて損はないでしょ」




損どころか、めちゃくちゃ役に立っています、風太郎さん!

さぁ、どうする? どう来る泉?

考えた風の泉を見ながら、「来い来い」とジェスチャーする。

少し眉をしかめた泉が姿勢を低くし、切り込もうとした時……。


「お返しだ!」


と、ちびっこいヤンキーが飛び込んでくる。

先ほどのジェスチャーは泉にしたものではない。あのヤンキーにサインを出したのだ。

上手いこと乗っかってくれた泉はきっと俺以外は目に入っていなかっただろう。

餌をかっさらっていくトンビのように、ボールをスライディングで奪った龍はそのままあっけに取られる泉を置いてドリブルを開始していた。

当然、俺も走り出す。

狙うは右サイド。

いい具合にぽっかりとスペースが空いている。おそらく龍もDFをかわしつつ右に流れていくだろう。

ようやく龍に追いつくと、後ろから呼びかけた。

ノールックで、横にはたくと直ぐに龍へ返しワンツー。

俺の上りを待ちながらDFと駆け引きしながら再度俺へ預けると、龍は一気にペナルティエリアに侵入する。

それを見た俺は、ペナルティエリアの横から鋭いセンタリング。

龍の身長に合わせた低めのクロスだ。

電光石火のカウンターは龍がそれに飛びついて終わる―――はずであった。

俺と龍の間に、泉が体を投げ出し、ヘディングでカットされた。

ここまで戻ってきた上に、展開も読んでいたっていうのか、泉は。

攻める為に駆け引きをした隙に、追いつかれるとは……その隙と言ったって、ほんの僅かな時間なのに。


「バケモンかよ……」


同世代のプレーヤーとしての憧れ、友人としての親しみ、そんなものは一切感じなくなってしまった。

怖い。

そう、恐怖―――畏怖とも言える感情を抱いてしまう。

ダメだ……センスだけでもなく、身体能力でさえ、規格外。

考えてみろ、飛び級でトップに上がり、世代別代表に選出される逸材なんだ。

その人間と、俺が―――怪我をしてブランクのある俺が、勝てる訳が無い。

一時でも勝てると驕ってしまった自分の浅はかさが恥ずかしい。

だから……そう、だから…………。


「だからって、負けていい理由にはならねえ」


言葉にして、心を奮い立たせる。

そうだ、泉よりも俺はサッカーが下手なんだ。

何故そんな事を忘れていたんだろうか。

弱者の戦い方、凡人の戦い方を見せてやる。

だから、泉……試合の勝ちだけは譲らない。


「こぼれ球のケア忘れるな! 相手勝ちに来てんぞ! 後ろはしっかりマーク頼むな!」


声を張り上げる。

こちらのコーナーだが、泉の事だ、隙あらば一気に襲い掛かってくるだろう。

味方に、というよりも、自身に言い聞かせているのかもしれなかった。

とはいえ、こちらのチャンスでもある。

キッカーは龍。

ショートコーナーで、龍から攻めても良いし、定石通り誰かの頭に合わせても良い。

さて、どんな手段で来るだろうか?

龍が助走に入った時点で、俺達は決められた動き出しを開始した。

が、ふと、足が止まる。

何も確証は無い、が、奴の顔が「俺が決める」と言っている気がした。

こぼれ球に備える為に、走り込まずにペナルティエリアの外側に留まる事にする。

アウトサイドで思い切り蹴り込んだボールが鋭く曲がった。

あわや入ろうかという軌道だったが、奥のポストに弾かれる。

そのこぼれ球をワーワーと奪い合うと、最悪な事に、泉がボールをもってしまった。

散々走ってきて、ただでさえ慌ただしい心臓が更に早く強く鼓動する。


「―――――――――」


泉が何かを言っている。

きっと、周りに指示をしているんだ。

そのままドリブルで上がってくる泉、やはり、とんでもないスピードだな。

近くのチームメイトを、一人、また一人と抜いていく。

それも、単純なカットインだったり、上体のフェイントだったりと、難しい技術は使わずに。

これほどまでのスピードであれば、シンプルな技術ですら武器になるのだとまざまざと見せつけられた。

独走状態。

俺も、チームメイトも必死に追いすがる。

最終ラインの手前で、泉を捉えた。

さぁ、行くぞ泉!

真横から足を伸ばし、ボールに触れようとする。

が、すんでのところで泉のタッチの方が早かった。

これで良い。

少しでも遅らせられれば、第一関門は突破だ。

攻防は続く。

双方ともに走りながら、肩を、体をぶつけていく。

これでは流石に泉もトップスピードは維持できない。

良し、第二関門は及第点。

しかし、ボールが視界から消えた。

泉が俺の後ろにボールを通したのだ。

メイア・ルアか。

落ち着け、泉が消えた訳ではないんだ。

泉を追っていけばいい。

ボールはお構いなしに、必死に泉に体を寄せる。

と、同時に視界にボールが戻ってきた。

良かった、まだ抜かれていない。

ホッとするのも束の間、軸足の後ろにボールを通す。

またクライフターン。

この化け物は、こんなスピードとタイミングでも仕掛けられるのか。

あと少し、あと少しだけでいい。

そうすれば、俺と残っている味方で泉を挟み込める。

体を投げ出すようにスライディングを仕掛けようとすると、それをあざ笑うかのように、泉は再度のクライフターン。

そう、変速多段式があったんだ。

最後の抵抗とばかりに、無理やり体を捻り、そのままスライディングで体を投げ出す。

――――――くそ、やはり俺では泉は止められないのか。

もう、良いだろ。

十分だ。

なぁ……松本?

ああ、分かっていたさ、俺では止められない事は。

だが、それでもゴールはこれ以上割らせる訳にはいかねぇんだよ、泉!

DFの位置、そして俺の体で、シュートコースは限られている。

ロングスパートをした上で、何度も体をぶち当てられ、切り返しをやらされて、精度の高いシュートは難しいだろう?

俺じゃ勝てない。

しかし、チームなら負けはしない!

松本がしっかりとシュートを受け止めた。

これまでも得点を決められて、松本だってこのままではすまさないと、意気込んでいただろう。

その気合を乗せて、思いっきり前方にボールを投げた。

今度はこちらのカウンターだ!


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