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恋愛蹴球  作者: ひろほ
35/72

仙台ユース14

リスタートして、サイドから攻めるようにボールを横に散らす。

まぁ、正直打開できるとも思っていないが、時間稼ぎにはちょうどいい。

勝つためにはこういったプレーもしっかりとこなしてなんぼである。

俺が中央で受けても周りが動かないのだから仕方がないというのもあるが……。

たまにボールを奪われても、サイドでごちゃごちゃしている際に奪われているのだから、危険度は低い。

リードしているのにリスクをとる必要はあるまい。

このままサイドとDF、そしてゴールキーパーでボールを回していけばいい。

しかも龍は先ほどの一対一で溜飲を下げたらしく、イラついてはいなそうだし、泉もスタミナ切れの為か、攻撃にそれほど参加してこない。

と、真ん中のサイドでボールが奪われると、その泉にボールが渡った。

何を仕掛けてくるかと思えば、思いっきり踏み込んでシュートを放つ。


「マジか!?」


距離は五十メートル。

我がチームのキーパー松本はゴールを空けていた。

そう先ほどからのダラダラとしたパス回しのせいで、ポジショニングを前目に取っていたせいだ。

そこを見逃す泉ではなかった。

しかも、先ほど龍が放ったドライブシュートと同じく、いやそれ以上の勢いで隕石のように急降下。

そのままゴールに着弾すると、ネットは千切れんばかりに張りつめた。

もしかしたら、コースによってはゴールキーパーがいても入ってしまうのではなかろうか。

そして、再三再四、泉を自由にさせたマーカーはどうしてくれようか……。


「千紘ー」


はたまた暴君からのお呼びである。


「キックオフしたら、俺に寄越せ」

「は!?」


まーた、何を言っているんだ、このお子ちゃまは。

一応、チームの決まり事ではひとまずはボランチに預けるということにはなっているため、不可能ではないが。


「俺がハーフラインからのシュートでさらに突き放すんだよ」

「ふざけんな、お前のキック力は知っているぞ」

「けどよ、あんだけ続けざまに真似されたら、こっちだってやりかえさねぇと」

「やり返さないといけないってわけじゃないだろうが。あと一点しかないんだから、みすみすボールを相手に与えるわけにはいかないだろが」

「いや、決めるっつーの」

「だーかーらー、お前のキック力じゃ無理だって言ってんだろ」

「じゃあ、千紘、お前が撃て」

「はあ!?」


さっきも同じような声を上げた気がする。

コイツの発想には驚いてばかりだ。


「一番キック力があるのはお前で、精度もそこそこだろ。上手く弾いてくれれば、そこに俺が詰めて決めてくるわ」

「攻めたいのは分かるけど、あと少しで終了だろ。ボール渡さずにダラダラ回してりゃ勝てるんだ」

「あと少しで終わるからこそだろうが。下手にボール回してミスしてカウンター食らうより、相手にボール渡してガチガチにした方がいいだろ」


ふむ、確かに分からなくもない。

守備的なチームがよくやる時間稼ぎではある。

松本というストロングポイントがあるので、悪い提案ではなかった。


「おい、リスタート早くしようぜ」


先ほどからマークを振り切られているFWが俺たちの会話に入って来る。


「……あっ、そうか」


閃いた。

いぶかしむFWの顔を見ながら続ける。


「キックオフシュート撃つので、よろしくお願いします。で、そのまま泉……多賀部には俺が付きます。なのでボランチ……というか引いてガチガチに固めてください」

「えっ……?」

「……俺はサークルの外にいるんで……、先輩チョン出しおんしゃーす」


と強引に話を付ける龍。


「ええぇ……」


困惑するFWをよそに俺はサークルの中央に陣取る。

そして、龍はサークルから少し離れ、助走を取れるようにしている。

この作戦を受け入れた理由はただ一つ。

もう一度泉と一対一をしたい。

そんな自分勝手な理由だ。

龍のことをとやかく言えやしない。

しかし、同時に泉を抑えられるのは俺だけだという自負もある。

いや、使命感といった方が正確だ。

先ほどの変速多段クライフターンには面を食らったが、今度は抑えてみせる。

世代別代表を抑えられずに、日本代表になんざなれやしない。

集中する。

ボールが描く軌道、相手の位置取り、キーパーの位置、イメージを緻密に練り上げ、来るべき合図を待つ。

精神統一が済むと同時に笛が鳴らされ、俺の前にボールが転がった。

ドン! と鈍い音を上げながら、ボールは勢いよく飛んでいく。

インパクトもフォローも完璧な手ごたえを残した。

喰らえ、ヴェガ仙台。そして泉。

これが俺なりのお返しだ。


「いっけぇぇぇっ!」


アウトサイドで思いっきり回転をかけ、左から右への軌道を描く。

泉が無回転、龍がドライブ、ならば俺は横回転だ。

そして、鋭く斜めに落ちていくボールは激しくネットを揺らす。

―――――――――といってもゴールの天井部分を叩いただけだ。惜しい。

『ボールを外に出すんじゃねぇよ』と言いたげな龍を尻目に、泉のマークに付く。


「ありゃ、千紘がマーク?」

「そう、さっきのリベンジだ」

「困るなぁ。そういやキックオフシュート惜しかったねぇ」

「まぁなー、入らなきゃ仕方ないけどな」

「あれもロングシュートのお返し?」

「そ、龍の発案だけどね」

「龍らしいねー」

「あいつしか考え付かないわな」

「あはは。もうちょっとで終わるけど、もっと楽しめそうだね。もう一回抜かせてもらうよ」


と言い切ると走り始め、俺のマークを剥がしにかかる。

それをしっかりと追いながら、早速、ボールが渡った泉と相対する。

さぁ来い泉!

泉もそれを察しているようで、ドリブルを仕掛けてきた。

泉が俺の横を抜きにかかるも、半身になって先ほどと同じように体をぶつけて対応する。

そして伝家の宝刀クライフターン。

ここまでは一緒。


「はやっ!」


違うとしたら最初から全速力で来た点だ。

背後に来る泉を手で制そうとしつつ向きを立て直そうとする。

さらにここから再びのクライフターン。

今度も全速力だ。

こんなスピードで続けて行えるなんて、泉が如何に化け物じみているんだろうか。

しかし、こちらとて予測していなかったわけではない。

―――化け物を倒すのはいつだって人間の知恵と勇気だ。

体を無理やり反転させるが、すでに横に並び、俺を抜きつつある泉。

しかし、次の瞬間、泉は途端にバランスを崩し、ボールのコントロールを乱してしまった。

……まぁ、俺が仕掛けたわけだが。

ブレーキがかかった泉と向き合い、再度一対一のスタートだ。

キョトンとした顔の泉に、したり顔を向ける。

単純なフィジカルで言えば、泉の方が体が強いだろう。

しかし、一度ならず二度までも体のバランスを崩されるほど、当たり負けするとは思いもよらなかったのだろう。

仕掛けとしては単純。ただ押しただけである。

もちろん突き飛ばすほどではない。まぁ、反則かと言えば反則になるであろうが、『泉の行きたい方向にやさしく加速させてやった』だけで笛を吹く審判は少ないだろう。

クライフターンで背後を取られ抜き去られる瞬間に、後ろ手で体を反転しつつ押したのだ。


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