表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛蹴球  作者: ひろほ
34/72

仙台ユース13

試合が再開され、一対一の機会がすぐに訪れた。

こちらのボールになった瞬間、あのバカがボールを受けに下がったためである。

チームメイトは簡単に、直ぐ近くの龍にボールを預けると、泉へ向かってドリブルを開始する。

まずはエラシコ。

泉が上手く揺さぶられた体をコントロールし、間合いを保った。

そしたら龍は右足でボールを左足の後ろ側を通す。

クライフターンだ。

これも足を伸ばし、通せんぼして対応。

ならばとピタっと足の裏でボールを止め、泉の体の向きとは反対方向にターンしながら泉の背後を狙うマルセイユルーレット。

泉は無理に踏ん張ることなく、少し距離を空けつつ龍とは逆回転にターンして再度、龍と向き合った。

ハイレベルなテクニックを続けざまに行う龍もさることながら、抜かれない泉も驚嘆に値する。

しかし、ターンをする際に龍から目を離したのは失策であった。

まぁ、これも結果論ではあるが。

向き合った泉は驚いただろう。

何しろ龍の足元にはボールが無いのだから。

ヒールリフト。

ボールを両足で前後に挟み込み、背中越しに頭の上を通すテクニックだ。

泉の視界には自身の真上にあるボールは入っておらず、ひたすら龍だけを見ていた。

その龍はボールの落下点に走り込んでいる。

もちろん泉も追いかけるが、一瞬のとまどいとボールを見失っている分、龍にリードを奪われる。

そうなれば狙うタイミングは一つしかない。

先ほどの俺と同じようにトラップの瞬間だ。

ヒールリフトでふんわりと浮いたボールをキープするには、スピードが幾分落ちる。

泉もスライディングで龍のトラップの瞬間を狙った。

しかし、ほんの僅かに龍が先にタッチし、完璧にボールをコントロールする。

さらには泉のスライディングも飛び越えてかわした。

時間にして数秒にも満たなに次元の違う攻防を重ねたが、軍配は龍に上がったのである。

―――だが、龍が着地するやいなや敵のDFが横から滑り込んでボールを弾く。


「しまった!」


俺も龍も泉しか見ていなかったのが災いした。

カウンター。

そして、最悪なことに泉は既に立ち上がって走り始めている。

もしかしたら罠だったのか?

龍が個人プレーが好きなことを承知の上、あえて一対一で抜かれた時を狙わせる。

泉ならやりかねない。

今度は俺と泉の一対一になるが、あちらは既にトップスピード。

対して俺はヨーイドンからのスタートだ。

単純なスピードなら泉に分がある。

後ろ向きで走りながら、泉との交戦のタイミングを計る。

龍と違ってパスを考えなければいけないのだから厄介だ。

――――――しかし泉はパスの相手を探すことはせずに俺を一直線に見ている。

緊張感と興奮が、俺の鼓動を高鳴らせた。


「来やがれ泉!」


あえて言葉に出し、泉を誘う。

それに呼応するようにニヤッとした笑顔で答える泉。

―――お前らだけで楽しむなんてズルいんだよ。

アウトサイドで蹴ると見せかけるシザースから俺の横を抜きに行く泉。

横並びになりながら、肩を当てて体勢を崩しにかかる。

龍がテクニックなら俺はパワーで勝負だ。

手の甲を泉の胸板にあてて前に出させないようにする。

反対に泉は俺の体へ手を伸ばし、つっかえ棒のように後ろへ追いやろうとする。

ダメだ。

そんなんじゃ『俺』は抑え込めない。

公園で風太郎さんが俺のショルダーチャージでビクともしなかった理由。

もちろん風太郎さんの体の強さもあるがタネがある。

風太郎さんはあの時、肘から手首にかけての部分を俺の体に当て、脇を開くことで肩と肩がぶつかるまで瞬間的にクッションブレーキをかけた。

さらに脇を開くという行為は肩を軸に上向きの力が発生する。

俺が体勢を崩してしまったのは、力を上に反らされたのも関係している。

では、泉のように腕をピンと伸ばしていたらどうだろうか。

伸ばしているということは余裕がないという事だ。

このままお互いに力比べをした際、泉は肩と背中の筋肉だけ。

対する俺の腕の当て方では、それに加え、腕の力、また肩のインナーマッスルまでも使えるそうだ。

いかに泉が俺よりも大きかろうが負けはしない。

結果、徐々に泉の体を押し出すようにサイドに俺たちは流れる。

体の勝負では俺の勝ちだ。

しかし泉とてテクニシャン。

体のぶつけ合いで負けたところで、大した影響はないようだ。

その証拠にこの状態でクライフターンなんてやってのけた。

俺も面を食らったが、何とか泉の正面につく。

龍にやられたお返しとばかりに、マルセイユルーレット。

意趣返しにしては洒落が効きすぎてんじゃねぇか?

泉と同じようにターンして距離を取った。

今度はしっかりと足元にボールがあるようだが、シュートの体勢に入っている。

てっきりドリブルで抜いてくるのかと思いきや、まさかのシュートに慌ててコースを塞ぎにかかる。

が、それは罠だった。

再度クライフターンを仕掛けられ、体勢を崩される。

俺の背後を取った泉がまたもやシュートを仕掛ける。

転ぶようにスライディングで阻止を図るが、なんとこれも囮だった。

またもやキックフェイントからのクライフターンだ。

しかも先ほどの二回よりも段違いに速い。

変速(トランス)多段(ミッション)クライフターンとでも名付けようか。


「止めろ!」


すがるように叫ぶ俺を抜き去った泉は、チェックに来たDFをいとも簡単にかわして、ゴールの右隅に鋭くゴールを決めてしまった。

―――完敗である。

フィジカルで優位に立ったことで、おごってしまった自分に腹が立つ。

起き上がっていると、泉がボールを持ち、中央まで走って戻っている。

この残り少ない時間で二点差であってもまだ勝つつもりなのだ。

下を向いている暇はない。

相手が諦めていない以上、全力で応えるのが礼儀ってものだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ