仙台ユース13
試合が再開され、一対一の機会がすぐに訪れた。
こちらのボールになった瞬間、あのバカがボールを受けに下がったためである。
チームメイトは簡単に、直ぐ近くの龍にボールを預けると、泉へ向かってドリブルを開始する。
まずはエラシコ。
泉が上手く揺さぶられた体をコントロールし、間合いを保った。
そしたら龍は右足でボールを左足の後ろ側を通す。
クライフターンだ。
これも足を伸ばし、通せんぼして対応。
ならばとピタっと足の裏でボールを止め、泉の体の向きとは反対方向にターンしながら泉の背後を狙うマルセイユルーレット。
泉は無理に踏ん張ることなく、少し距離を空けつつ龍とは逆回転にターンして再度、龍と向き合った。
ハイレベルなテクニックを続けざまに行う龍もさることながら、抜かれない泉も驚嘆に値する。
しかし、ターンをする際に龍から目を離したのは失策であった。
まぁ、これも結果論ではあるが。
向き合った泉は驚いただろう。
何しろ龍の足元にはボールが無いのだから。
ヒールリフト。
ボールを両足で前後に挟み込み、背中越しに頭の上を通すテクニックだ。
泉の視界には自身の真上にあるボールは入っておらず、ひたすら龍だけを見ていた。
その龍はボールの落下点に走り込んでいる。
もちろん泉も追いかけるが、一瞬のとまどいとボールを見失っている分、龍にリードを奪われる。
そうなれば狙うタイミングは一つしかない。
先ほどの俺と同じようにトラップの瞬間だ。
ヒールリフトでふんわりと浮いたボールをキープするには、スピードが幾分落ちる。
泉もスライディングで龍のトラップの瞬間を狙った。
しかし、ほんの僅かに龍が先にタッチし、完璧にボールをコントロールする。
さらには泉のスライディングも飛び越えてかわした。
時間にして数秒にも満たなに次元の違う攻防を重ねたが、軍配は龍に上がったのである。
―――だが、龍が着地するやいなや敵のDFが横から滑り込んでボールを弾く。
「しまった!」
俺も龍も泉しか見ていなかったのが災いした。
カウンター。
そして、最悪なことに泉は既に立ち上がって走り始めている。
もしかしたら罠だったのか?
龍が個人プレーが好きなことを承知の上、あえて一対一で抜かれた時を狙わせる。
泉ならやりかねない。
今度は俺と泉の一対一になるが、あちらは既にトップスピード。
対して俺はヨーイドンからのスタートだ。
単純なスピードなら泉に分がある。
後ろ向きで走りながら、泉との交戦のタイミングを計る。
龍と違ってパスを考えなければいけないのだから厄介だ。
――――――しかし泉はパスの相手を探すことはせずに俺を一直線に見ている。
緊張感と興奮が、俺の鼓動を高鳴らせた。
「来やがれ泉!」
あえて言葉に出し、泉を誘う。
それに呼応するようにニヤッとした笑顔で答える泉。
―――お前らだけで楽しむなんてズルいんだよ。
アウトサイドで蹴ると見せかけるシザースから俺の横を抜きに行く泉。
横並びになりながら、肩を当てて体勢を崩しにかかる。
龍がテクニックなら俺はパワーで勝負だ。
手の甲を泉の胸板にあてて前に出させないようにする。
反対に泉は俺の体へ手を伸ばし、つっかえ棒のように後ろへ追いやろうとする。
ダメだ。
そんなんじゃ『俺』は抑え込めない。
公園で風太郎さんが俺のショルダーチャージでビクともしなかった理由。
もちろん風太郎さんの体の強さもあるがタネがある。
風太郎さんはあの時、肘から手首にかけての部分を俺の体に当て、脇を開くことで肩と肩がぶつかるまで瞬間的にクッションブレーキをかけた。
さらに脇を開くという行為は肩を軸に上向きの力が発生する。
俺が体勢を崩してしまったのは、力を上に反らされたのも関係している。
では、泉のように腕をピンと伸ばしていたらどうだろうか。
伸ばしているということは余裕がないという事だ。
このままお互いに力比べをした際、泉は肩と背中の筋肉だけ。
対する俺の腕の当て方では、それに加え、腕の力、また肩のインナーマッスルまでも使えるそうだ。
いかに泉が俺よりも大きかろうが負けはしない。
結果、徐々に泉の体を押し出すようにサイドに俺たちは流れる。
体の勝負では俺の勝ちだ。
しかし泉とてテクニシャン。
体のぶつけ合いで負けたところで、大した影響はないようだ。
その証拠にこの状態でクライフターンなんてやってのけた。
俺も面を食らったが、何とか泉の正面につく。
龍にやられたお返しとばかりに、マルセイユルーレット。
意趣返しにしては洒落が効きすぎてんじゃねぇか?
泉と同じようにターンして距離を取った。
今度はしっかりと足元にボールがあるようだが、シュートの体勢に入っている。
てっきりドリブルで抜いてくるのかと思いきや、まさかのシュートに慌ててコースを塞ぎにかかる。
が、それは罠だった。
再度クライフターンを仕掛けられ、体勢を崩される。
俺の背後を取った泉がまたもやシュートを仕掛ける。
転ぶようにスライディングで阻止を図るが、なんとこれも囮だった。
またもやキックフェイントからのクライフターンだ。
しかも先ほどの二回よりも段違いに速い。
変速多段クライフターンとでも名付けようか。
「止めろ!」
すがるように叫ぶ俺を抜き去った泉は、チェックに来たDFをいとも簡単にかわして、ゴールの右隅に鋭くゴールを決めてしまった。
―――完敗である。
フィジカルで優位に立ったことで、おごってしまった自分に腹が立つ。
起き上がっていると、泉がボールを持ち、中央まで走って戻っている。
この残り少ない時間で二点差であってもまだ勝つつもりなのだ。
下を向いている暇はない。
相手が諦めていない以上、全力で応えるのが礼儀ってものだろう。




