表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛蹴球  作者: ひろほ
32/72

仙台ユース11

ゴールまでは四十メートル弱のややサイドラインより、と距離があるが、なかなか良い位置でのフリーキックだ。

壁役としてキッカーの前に立つ。

蹴るのは当然、泉だ。

踵でトントンとピッチを叩いてから、靴の舌を調整する。

ボールの空気穴を自分に向けて、後ろに下がる。

これが泉のルーティンだ。

こういったところは変わっていないなぁ。と少し懐かしく感じた。

……直接狙ってくる。

自分の直感がそう伝えてくる。

嫌な予感と、速いボールが飛んでくる恐怖が入りまじった不安な気持ちで、頭上を通り過ぎるボールを見送る。

高々と上がったボールは、クロスバーを越えるであろうと思われたが、急にブレーキがかかったように落ち始める。しかも揺れながら。

無回転フリーキック。

緻密なサッカーを好む泉が唯一と言っていいほどの博打じみたプレーだ。

キーパーは反応するも届かず、そのまま入る―――かと思われたが、ポストに阻まれた。

急いでDFが蹴り出し、何とか失点は免れた。

こんな切り札があるならフリーキックを与えるのも控えなければならない。

自分でも何故忘れていたのか。その愚かさに腹が立った。

しかし、ファウルを与えずに泉を止めるなんて本当に可能か?

それでもやらねばならないのだが。

……考えてみれば、泉のマークは俺じゃないんだよな。

一抹の不安を覚えつつ、さらなる策を考える。

どうすれば泉を抑えることが出来るのか。

どうやって追加点を獲ることが出来るのか。

考えろ……直感と経験、そして泉に関する知識をフルに使って、泉が驚くような策を―――。





さて、ミスのないサッカーをすれば負けることが無い、と言ったのはどの名プレーヤーだっただろうか。

泉率いるヴェガ仙台はミスを本当にすることなく、有利に進めていった。

サッカーは不思議なもので、うまくいく時間帯というのがある。

その時間帯に入っているためなのか、そもそも力が及ばないのか、後半開始から十五分もの間、こちら側の半分のエリアに押し込まれている。

当然、守備に奔走しているものの、なかなかボールをキープするに至らない。

味方が何とかボールをクリアするが先ほどから拾われてばかりで、ヴェガ仙台はもう一度攻めなおすだけだ。

幸いにも泉は攻撃に積極的に参加はしてこない。

得点するのは時間の問題と判断してのことだろうか?

もちろん、ボール回しなどにも参加してはいるが、龍とFWの選手を軽くあしらうように、ある程度引きつけたらパスを出す。

おかげで龍が守備ストレスを爆発させそうで恐ろしい。

チームもそれを感じ取っているのか、ボールが出るたびに龍の方を見る。

そういったメンタルもだが、守備疲れも明らかに見えている。

対して、お手本にすべきポゼッションサッカーを繰り広げているヴェガ仙台。


「千紘ーっ!」


タッチラインを割った際に龍が大きい声をあげる。

あっ、ついにブチ切れたか、と思いつつ声の主を見やると、泉を指しながらこちらを強い眼差しで見ている。

主語と述語を述べてもらわんと困るのだが……―――――――あっ、そういうことか。

うん、博打よりもはるかに効果的だ。


「俺に寄越せ!」


気付いたと同時に声を張り上げ、自身の鼓動が大きくなり駆けていた。

スローインを受け、即座に大きく蹴りだす。


「上がれっ! 詰めろ!」


そう言いながら俺も前へ走る。

俺の蹴りだしたボールの狙いは泉の後ろ。とにかく大きく蹴りだせば良い。

我がチームのFWと追いかけっこをしながら泉が落下点に入った。

頼むぞ、せめて競ってくれさえすれば……。

こちらの目論見通り、泉とFWが競り合いながらヘディングをする。

さしもの泉も、この状態でうまいヘディングなど出来ない。

ルーズボールとなったボールに反応したのは、やはり龍だった。

着地で体制を崩した泉を置き去りに、そのまま加速する。

キッチリと戻ってきていたヴェガ仙台の選手を、事もなげに間をすり抜けるドリブル。

乗りに乗った際のアイツのドリブルは、何度見ても龍の道を思わせた。

必死に追いすがる泉をあざ笑うかのように、最後は飛び出してきたキーパーの頭上を抜ける美しいループシュート。

柔らかくネットに吸い込まれ、4―2と引き離した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ