仙台ユース10
仙台のボールから後半が開始すると、FWとMFでボールを回している間に、じわじわと泉が前に上がり、またもやプレーエリアを小さくする。
「まぁ、その方が上がりやすいし、守りやすいもんなぁ」
中央の空気を味わいながら、一人つぶやく。
うちのFWが常に張り付いているとはいえ、泉はボールを持たなくても一流選手である。
その動きを見逃すわけにはいかない。
ボールは右サイドを仙台がチマチマと回している状態だ。
さて、俺が右サイドに顔を出して、数的優位を作れ、ってことだろうと思うが、真ん中を空けても良いものなのか迷う。
久しぶりのこのポジションでの出場。
はっきり言って、ミスをしたくない、リスクを冒したくないという消極的な思考を振り払えない。
くそ、俺も結局、あの『なんちゃってボランチ』と同じじゃないか。
「いや、それは言い過ぎか」
気が付けば中央下がり目のMFのことを何でもかんでもボランチと呼ぶようになった。
この役割に誇りを持っている俺からしてみれば、面白くないことこの上ない。
ゲームをコントロールすること、攻めも守りも要となる選手。それがポルトガル語で舵取りを意味するボランチなのだ。
でなければ、名乗っても欲しくないほど、このポジションを愛している。
ただの真ん中にいるだけなら、センターハーフやらセントラルMFとでも名乗ればいいとさえ思う。
チラッとベンチを見ると、うなずく監督が見えた。
その隣には、ふてくされたような、塞ぎ込んだような顔のボランチ、いや元ボランチの二人がいる。
「……行くか」
今、このチームで舵取り(ボランチ)は―――俺一人だ。
視線を前線に移す。
何とも言えない表情の泉と、いらだった表情の龍が並んで見える。
分かった分かった、そんな顔でにらむんじゃねぇ。
リスクを冒す、刺激的なサッカーがお望みなんだろう?
―――お二人さん。
右サイドに意識を向け、駆け出す。
ジェスチャーで左のMFに中を塞げと指示をする。
サイドライン際でチマチマ、ダラダラとしている連中にプレッシャーをかける。
ぽっかりと空いた俺が居たスペースには、どうせ泉やほかの連中が入るだろう。
しかし、選手間が密集しているこの局面で、正確に中央へ出せるかな?
フォローに来たボールの受け手には俺がベッタリ張り付いている。
完璧に塞がれたパスコースだ。
ドリブルで抜けば大チャンスだが、その選択はないだろう。
――――――まだ泉を使ってないからな!
俺の背後を確認すれば、やはり空いたスペースを埋めるのは泉だった。
泉が穏やかだが通る声で、ボールを要求する。
既に俺は泉にボールが出るものと決めつけていた。
龍と泉の距離を引き離し、攻めるためには少し大きすぎるリスクかもしれない。
予想通り泉へ精度の低いパスが出る。
パスカットは出来ないが、狙いは泉がボールを持った瞬間だ。
ボールを受けるか受けないか、そのタイミングで滑り込む。
完璧なタイミングと思われたスライディングは、見事、泉が止めるやいなや、ボールに接触した。が、それと同時に泉が宙を舞う。
鳴り響く笛。
やられた!
決して足には触れていないが、審判の角度ではそう見えたろうな。
俺がボールを触った瞬間を泉も狙っていたのだろう。
体勢でボールキープしたように見せながら、足を引っ掛けられたように転がったのだ。
「ちっ、やられたわ。やるなぁ泉」
泉に手を貸して起こしてやる。
「千紘もワザとスペース空けたでしょー」
「どうだか?」
手の内がばれてる、か。さすがにわざとらしすぎた。
にしても、なんで泉がフリーでボールを受けられたんだ?
FWがマークマンとして常に付いているっていうのに。
ふと前を見てみるとそのFWが転げていた。
……あぁ、スクリーンプレイか。
バスケでよく見られる、味方の一人を壁役にしてマークを外すプレーだ。背後や横に立っているため、マークをしている側は気付かず、壁に見事にぶち当たることになる。
あいつ……二回目も引っかかるかなぁ?




