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恋愛蹴球  作者: ひろほ
31/72

仙台ユース10

仙台のボールから後半が開始すると、FWとMFでボールを回している間に、じわじわと泉が前に上がり、またもやプレーエリアを小さくする。


「まぁ、その方が上がりやすいし、守りやすいもんなぁ」


中央の空気を味わいながら、一人つぶやく。

うちのFWが常に張り付いているとはいえ、泉はボールを持たなくても一流選手である。

その動きを見逃すわけにはいかない。

ボールは右サイドを仙台がチマチマと回している状態だ。

さて、俺が右サイドに顔を出して、数的優位を作れ、ってことだろうと思うが、真ん中を空けても良いものなのか迷う。

久しぶりのこのポジションでの出場。

はっきり言って、ミスをしたくない、リスクを冒したくないという消極的な思考を振り払えない。

くそ、俺も結局、あの『なんちゃってボランチ』と同じじゃないか。


「いや、それは言い過ぎか」


気が付けば中央下がり目のMFのことを何でもかんでもボランチと呼ぶようになった。

この役割に誇りを持っている俺からしてみれば、面白くないことこの上ない。

ゲームをコントロールすること、攻めも守りも要となる選手。それがポルトガル語で舵取りを意味するボランチなのだ。

でなければ、名乗っても欲しくないほど、このポジションを愛している。

ただの真ん中にいるだけなら、センターハーフやらセントラルMFとでも名乗ればいいとさえ思う。

チラッとベンチを見ると、うなずく監督が見えた。

その隣には、ふてくされたような、塞ぎ込んだような顔のボランチ、いや元ボランチの二人がいる。


「……行くか」


今、このチームで舵取り(ボランチ)は―――俺一人だ。

視線を前線に移す。

何とも言えない表情の泉と、いらだった表情の龍が並んで見える。

分かった分かった、そんな顔でにらむんじゃねぇ。

リスクを冒す、刺激的なサッカーがお望みなんだろう?

―――お二人さん。

右サイドに意識を向け、駆け出す。

ジェスチャーで左のMFに中を塞げと指示をする。

サイドライン際でチマチマ、ダラダラとしている連中にプレッシャーをかける。

ぽっかりと空いた俺が居たスペースには、どうせ泉やほかの連中が入るだろう。

しかし、選手間が密集しているこの局面で、正確に中央へ出せるかな?

フォローに来たボールの受け手には俺がベッタリ張り付いている。

完璧に塞がれたパスコースだ。

ドリブルで抜けば大チャンスだが、その選択はないだろう。

――――――まだ泉を使ってないからな!

俺の背後を確認すれば、やはり空いたスペースを埋めるのは泉だった。

泉が穏やかだが通る声で、ボールを要求する。

既に俺は泉にボールが出るものと決めつけていた。

龍と泉の距離を引き離し、攻めるためには少し大きすぎるリスクかもしれない。

予想通り泉へ精度の低いパスが出る。

パスカットは出来ないが、狙いは泉がボールを持った瞬間だ。

ボールを受けるか受けないか、そのタイミングで滑り込む。

完璧なタイミングと思われたスライディングは、見事、泉が止めるやいなや、ボールに接触した。が、それと同時に泉が宙を舞う。

鳴り響く笛。

やられた!

決して足には触れていないが、審判の角度ではそう見えたろうな。

俺がボールを触った瞬間を泉も狙っていたのだろう。

体勢でボールキープしたように見せながら、足を引っ掛けられたように転がったのだ。


「ちっ、やられたわ。やるなぁ泉」


泉に手を貸して起こしてやる。


「千紘もワザとスペース空けたでしょー」

「どうだか?」


手の内がばれてる、か。さすがにわざとらしすぎた。

にしても、なんで泉がフリーでボールを受けられたんだ?

FWがマークマンとして常に付いているっていうのに。

ふと前を見てみるとそのFWが転げていた。

……あぁ、スクリーンプレイか。

バスケでよく見られる、味方の一人を壁役にしてマークを外すプレーだ。背後や横に立っているため、マークをしている側は気付かず、壁に見事にぶち当たることになる。

あいつ……二回目も引っかかるかなぁ?



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