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恋愛蹴球  作者: ひろほ
30/72

仙台ユース9

トータルフットボールの提言者、ヨハン・クライフを彷彿させるプレー、ゲームコントロール。

『運よく』うちの守護神松本のファインセーブや、守備陣のなりふり構わないタックルを連発し、何とか得点を許すことなく前半を終了した。


「くそ」


龍が憎々しげにグラウンドを蹴りつけ怒りを露わにする。


「見事に何もさせてもらえなかったなー」

「常に囲まれてるからな。ったく、ボランチの差がここまでとは思わなかったな」

「どうするか。もう縦ポンで良いか? ボランチ飛ばして出してやるから、お前が何とかしろよ」

「このままじゃジリ貧で負けるからな。最悪それだな」


縦ポンとはボールを前に大きく蹴り出し、中盤を省略し、一気に攻める戦法の通称だ。一般的には稚拙な戦法と言われる。


「龍はどう見る? リベロの泉は?」

「ヤバい」


頭の悪そうなコメントをありがとう。


「確かにな、あんだけ動き回られるとチェックが追いつかないな」

「んで、こっちはドン引きカウンターか縦ポンか。割りに合わねぇ」

「うわー、つまんないサッカーになりそう」

「監督がどうすんだか分からないけどな」


選手があーだこーだ言っても、監督の考え一つなのだから、今言っても仕方ない。


「さて、と。相手は後半も同じようにやってくるかね。横浜はどう思う?」


ハーフタイムのミーティング中、監督が龍に尋ねた。


「……このままやってくると思います」

「そうだろうな、どうしたもんかな。カウンターか縦ポンか……。ボランチはどうしたら良いか分かってるかー?」


二人のボランチはバツが悪そうに下を向いてしまう。

ぶっちゃけ、この状況を打破するには、龍を上手く使うしかない。

だが、暴君をコントロール出来る人間は稀だ。

俺だって、龍が居ないのなら、答えに困っていたと思う。


「磐田はどうだ?」

「えっ、お、俺ですか? そうっすね、まずは龍と……トップ下と上下運動でギャップを作り出して、前を向いてボール受けますかね。龍にボールが入るとすぐに三枚張り付かれているから、龍を囮にすればいけるかなと思います」

「ん、正解。そんでもって、たまーにサイドにも流れてくれ」

「はい?」

「はい? じゃなくてな。後半、お前がボランチだ。ボランチ二枚変えて、FWと右SBを入れるからな。4-4-2のダイアモンド型のワンボランチ。横浜は変わらずトップ下な。ボランチの磐田以外は試合も練習も何度もやってるから大丈夫だよね。やっぱ、ポゼッションはウチには合わないなー。トップの監督には、俺が怒られておくからお前らはお前らの強みを出してくれ」

「千紘! やったな!」


監督が話している途中に龍が飛び乗ってきた。


「ボランチだぞ、ボランチ!」


いきなりテンション上げやがって。あとペシペシ肩を叩くな。

確かにボランチをやれるのは嬉しい。が、それよりも不安が先にくる。

とはいえ監督の意図に沿うようにしなければ。


「守備はどうしたら?」

「FWの二枚で多賀部に着いてくれ。多賀部の位置にかかわらず、相手ボールの時はどこまでもマーク。磐田はとにかく数的優位が出来るように走り回ってくれ。後半だけなら持つよな? 穴埋めの指示も」

「が、頑張ります」


ボランチ復帰の人間に大分ハードルの高い要求をするな、この監督。それが簡単に出来るのなら苦労はない。


「横浜はすぐに攻めれるようにしておけなー。磐田の指示を聞け」


しかも龍の世話までしろと!?


「うす!」


と俺の耳元で元気よく返事する龍。

とっとと降りやがれ、この野郎。

俺は今から死ぬほど疲れなきゃならないんだ―――。


「磐田、ミドルは撃たせていいからな」


松本が俺に話しかける。


「つっても、泉―――多賀部、ミドルめちゃくちゃ上手いよ?」

「あー、選抜ン時に知ってるけど、コース切ってくれれば何とかなるよ。センターバックもそこら辺めちゃくちゃ上手いし。ま、とにかく、後ろを信じてくれって事」


そうか、サイドバックに慣れていたが、俺が抜かれても、後ろに居るんだ。

そんな当たり前の事が懐かしく、とても嬉しく感じた。




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