恋愛相談
―――女は椅子に座りながら正座する俺を見下し、眼鏡を直しながら言葉を発した。
「で、デートに誘うとかするでもなく、いきなり告ったわけだ」
「……はい」
「答えが『日本代表になれたら』ねぇ……ふむ……」
腕を組み、天井を見上げながら、考え込む風にする。ショートカットの髪がぱらりと広がった。
「駄目なんじゃねぇーの!?」
と嬉しそうに言った。
「うわぁぁー! 言うなー!」
真実とは時に残酷なもので、当人はそれを認めたくないだけで、よく分かっている。
あまりの衝撃に床に突っ伏す。
「いやー、弟があまりにもアホ過ぎて、つぶやきたいくらいですわ」
「やめろぉー!」
女、いや姉は努めて冷静にスマホをいじる。
「で、次はいつ会うの」
「いや、しばらく忙しいから会えないって」
「あー、こりゃ完全に振られたねー、ご愁傷さま」
俺の頭に足を乗せ、グリグリと踏む。
「違うー……と思う。告る前に言われたんだ、明日からちょっと忙しくって会えないって」
「ふーん。告る前に気付かれたんじゃないのー? 『あ、こいつなんかウザイから、ちょっと突き放すわ』みたいに」
「……」
「忙しいったってホントかどうか分からないし。そもそもサッカーしただけで、その娘の何を知ってんのよ? し・か・も年下なんて、若い子は範疇にないでしょ」
「忙しいのはホントだよー、きっと。あと山葉さん、足をどけては頂けないでしょうか?」
「へー? なんで分かる?」
「遠征だよ。明日から中国に。すみません、山葉お姉さん、足を……」
「中国?」
「うん、最初は気付かなかったけど、あの人、女子の代表だよ。代表ジャージ着てたし、今週号のサッカー雑誌にも出てた、初選出だって。でね、山葉さま……」
「あっ、なら尚更、駄目じゃん。相手は有名人。アンタは駄目サッカー選手。釣り合わない事うけあい。今なら良い男も悪い男も寄ってきてるだろうし、選び放題。アンタなんか歯牙にもかけられてないよ」
「だぁーっ、いい加減足をどけろー! あの人は悪い男に捕まるような人じゃないわー!」
ガバッと体を起こすと、姉に喰ってかかる。
「だーかーらー、サッカー以外は分かってないんでしょうが。好きなものは? 嫌いなものは? 趣味は? 特技は? 家族構成は? 誕生日は?」
「好きなものはトマト! 嫌いなものはシイタケ、趣味はUFOキャッチャーに特技は書道。あと、家族はお兄さんが一人、誕生日は十月一日だっ!」
「なんだ……結構コミュニケーションとってるじゃん」
「いや、サッカー雑誌に載ってた」
目に輝きを無くしたまま姉は答える。
「ストーカーみたい……」
うわっ、こいつ引くわーというようなジトッとした目線を俺に深々と突き刺す。
「うっ」
「『弟がストーカーな件』っと」
「やめてぇー! つぶやかないでー!」
「ま、頑張りなさい。ホントに日本代表でも何でもなってしまえ。才能とか体格とか言い訳する前に努力しな。恋の力は偉大だと証明してみろクソガキ。条件つけたにしても、叶えばOKなんだから、少しは望みがあるかもね」
言うだけ言うと、席を立ち、姉は俺の部屋を出て行った。