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恋愛蹴球  作者: ひろほ
28/72

仙台ユース8

「いやぁー、まいったねー。まさか千紘がトップ下の位置にいるとはねぇ。龍についていって高い位置にいるんじゃなかったよ」


泉が背後から肩を叩きながら話しかけてくる。


「おっ、泉。流石にこいつのこんな動きは予想外だったか?」

「まぁねぇ、龍が下がったのもそうだけど、サイドバックの千紘がいきなりトップ下の位置にいるんだもんなぁ。ありえないでしょー」

「龍さえ封じ込めればどうにかなると思って、前にポジションを上げすぎたな」

「ん~、ボランチの人も、アンカーみたいになってたし、上がる気配もなかったもん、うちのMFもちゃんと抑えていたもんね」


自身のチームメイトを見つめる泉の顔は、信頼感に溢れていた。

正直、羨ましいとも思う。


「泉が相手で、龍が味方じゃなきゃやってないって。いつもこんな風に攻めるわけじゃない」

「そっかー、けど、龍を抑えるのもやんなきゃだし、大変だなぁ。ちゃんと考えないと」

「ふん、小細工使わないでかかってこいよ泉、俺がぶち抜いてやるから」


と鼻息を荒く龍が会話に加わってくる。

小細工抜きなら、それ以上にお前は抜かれるけど。


「精一杯小細工使うよー、二人には勝ちたいからさ」


と言って、会話から離れていく泉、監督に向かって、大きくバツを作り、いまだに倒れているキーパーの交代を促しながら、大声を上げる。


「監督ー、3バックー!」


バツを作っていた両手の指を三本突きたて、真上に伸ばす。

それじゃ6を示しているような気がしないでもないが、相手の監督が丸を作る。どうやら声も届いていたようだ。

にしても、3バックにしてどうしようというのか……?

その疑問はすぐに驚きに変わった。


「守りに入んのかよ?」


仙台からのリスタートとなるわけだが、泉の位置が、変更した3バックの真ん中になっていた。

すぐにでも追いつきたいと考えるはずなのに、攻撃の要である泉を後ろに配置するとはどういうことだろう。

この馬鹿試合を落ち着けるために、守備に専念するのか?

なんて考えている間にボールは動き出している。

急なシステムの変更に戸惑っているのか、仙台の攻めは落ち着いている。

それはこちらも同じことで何故か相手に合わせてまったりとしてしまっている。

なんとなくボールが動き、なんとなくラインを割る。

そんなプレーを互いに繰り返していく。

一転してつまらない試合だが敵も味方もやけにショートパスが繋がる。

俺が苦手な左足でも十分なほど、味方に近いのだから当然ではあるが……。

……近い?

気付けば敵のCBと、こちらのCBまでの距離が短い。

おそらく、泉の狙いの一つはこれであろう。

DF陣をスムーズに前へ押し上げ、ピッチをあたかも小さくしたかのような人口密集地を作り出した。

そうすれば味方の距離は自然と短くなり、連携力を売りにしている仙台のパスは繋がりやすくなる。

それに、龍を囲みやすいというのも大きいだろう。

時折、大きくボールを蹴りだし、一気に前線に送るがタッチラインをそのまま割るような大雑把な攻めを見せた。

こちらのボールになるが、仙台の激しいプレスに主導権は握れずに同じように線を越え、ボールを失ってしまう。

ラグビーやアメフトのように全体が少しずつ攻められ、真綿で首を絞めるかのように俺たちDF陣の負担が多くなっていく。

泉め……龍を抑える事と攻撃の確実性を上げる事を同時に成す為にCBへポジションを変えたのか。

俺にボールが入ったとしてもパスの出し所がない。

ドリブルを仕掛けようにも最終ラインの俺がボールを失ってしまうリスクは冒せない。

無難にCBやボランチに預け、時折サイドチェンジや前線に大きく蹴り出すといったプレーに終始する。

何度か龍にボールが入っても泉が常にピッタリくっついており、あっという間に囲まれてしまう。

果敢にも突破やスルーパスを試みるも失敗に終わった。

流石の暴君も、泉を含めた数的不利では分が悪いようだ。


「つーか、チームプレーしてほしいんだがなぁ……」


などと呑気に感想を吐いている場合ではなかった。

防戦一方のまま、前半の終了間際、泉の真の目的を知ることになる。

―――神出鬼没。

そんな言葉が自然と頭に浮かんだ。

ユース離れした攻撃力を持つ泉が、いつの間にかサイドに居たり、トップ下の位置に居たりする。

センタリングもスルーパスもミドルシュートもドリブルもする。

もちろん守備の時にはCBの位置に戻っている。

まるで泉が何人もいるかのような錯覚を起こした。

両チームのCBの距離が近いというのは、ここでも威力を発揮したのだ。


「むしろ、これが狙い?」

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