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恋愛蹴球  作者: ひろほ
26/72

仙台ユース6

龍の豆鉄砲を喰らったような顔が、どういう心情で俺のヘディングを見ていたのかを表している。

周りを見るとチームメイトも驚いているので、少しだけ悲しくなった。

勝ち越し弾なんだから、もう少し祝福してくれてもいいじゃないか……。

ふと泉を見ると、複雑な顔をしながら俺を見ている。

あっ、お前も俺のヘディングの下手さを知っていたな……。

そんな俺の悲しみを知ってか、いつもよりも柔らかい祝福が遅れてやってくる。

皆、気を遣わなくていいんだよ……、不用意な優しさは人をむしろ傷つけるんだよ……。


「千紘。この試合、俺がボランチやるわ」


このヤンキーは何を言い出すんだ?


「いや、無理だろ」

「泉が俺に引っ付いてくるなら、その方がやりやすいんじゃねぇか?」


その通りだが、こいつにボランチの献身的な攻守にわたってのプレーやバランスをとる役割が出来るわけがない。


「攻めのスピードが圧倒的に遅れるだろ、それなら泉を引き連れたままボールから離れた方がやりやすいかもしれんぞ。あと、お前が守備に入ったら、守備連携が乱れる」

「守りの時はむしろ高い位置に行くわ。低い位置で攻めて、攻撃が止まる頃には俺が高い位置に居れば良いんだろ?」


こいつにしてはよく考えているな。それで行ってみるか……。


「……アリだな」

「だろ? 泉は中盤の底に居るんだから、抜いちまえばやりたい放題だ。まぁ、周りの連中がどんだけ居るかによるけど」

「だな。あとやっぱり守備の時もお前、低い位置に居ろ。時間稼いでくれれば、それでいいからよ」

「なんでだ?」


龍が低めの位置でプレーするなら、必然的にボランチも近くにいることになる。

なら、龍が遅らせる守備をした場合、うちのボランチが泉への睨みを利かすことができるだろう。

もちろん、連携で崩されてしまってはどうしようもないが、それは龍がトップ下の位置に居たとしても同じことだ。無駄に龍とボランチの距離をあける必要もない。

この試合、チームとしての完成度は相手に軍配が上がる。

このまま戦っていたとしても、じりじりと点を奪われ続けるだろう。

チームとして劣っているのなら、弱者なりの戦いをするだけだ。

それが如何に博打めいた戦い方であろうと。

さて、どうする泉? 俺は―――俺たちは、お前が知っているときの二人ではない。

仙台はキックオフ直後、サイドを使ってゲームを組み立ててきた。泉はボールに触るものの、すぐにボールを左右に散らしていく。

勝ち越されて慎重になっているのか、そもそも意気消沈して消極的になっているのか……。

だらだらとパスを回しながら、仙台のDFがじりじりと前に上がってくる。

いわゆるビルドアップ。

オフサイドの取りやすさ、攻撃参加、フォローの容易さ、いいところばかりである。

俺がいるサイドにボールが入り、当然俺は敵のFWをガッチリとマークする。それはMFも同じように敵のSBをマーク。

仙台はパスの出しどころに困ったように泉へ。

ボールを持つ泉に対し、距離を保ちながら行く手を阻む龍。

いいぞ、そのまま突っかかっていくな。

その間に上がってくるSBを逃がさないようにしっかりと追うMF。

俺を追い越すように走っていくが、アイコンタクトでそのまま俺が引き継ぎ、代わりに走っていないFWを任せる。

振り切れないと分かったのか、SBが走るのを止め、戻っていった。

とりあえずの攻撃を防げた事で、再度マークの受け渡しをする。

その結果、一瞬だが俺とMF、敵のFWが並んだ。

――――――しまった……これが狙いか―――。


「龍! 行け!!」


少しでもパスの精度が乱れれば良い。

ほんの、ほんの少しで良いんだ。頼む!

俺は自分の体重と勢いを全て跳ね返して反転する。

―――マークの受け渡しの隙、そして俺がFWへ注意を逸らした瞬間を初めから狙っていたのか!

こっちは反転しながら。

相手のFWは前を向いた状態で既にスタートしている状態で追いかけっこだ。

当然、みるみる俺を引き離していった。

そして、絶妙なタイミングで泉からふんわりとしたパスが、俺の頭の上を通りながら敵のFWへ渡る。

こうなったら、ファウル覚悟で止めるしかない!

タイミングは相手が次にボールを触った時に、低空のドロップキックのようにスライディングタックルを斜め後ろから叩き込む。

良くてイエロー、普通はレッドの一発退場みたいな危ないタックルだが、とにかくボールを触るように心がければ、審判によってはノーファウルだ。

が、そんな俺の覚悟を無視するかのように、真横にパスを出す。

俺の目の前を横切るボールを目線で追った。

その方向にはCBがしっかりと蓋をしているはず。

が、その光景はあまりにも壮観であった。

まさに波。

黄色のユニフォームが何重にも幾重にも飛び出してきていた。

これは、CBが蓋をするどころではない。

泉もFWもCMFも、一斉に走りこんできたのだ。

もはや誰が打つのかも分からないまま打ち込まれたシュートを、キーパーが一度は防ぐものの、さらに群がる敵に押し込まれる。

……成す術がなかった…………なんて、思うか馬鹿野郎。

2-2の同点に追いつかれただけで、まだ負けたわけじゃねぇ。

次にあのプレーをやるときは覚悟しろ。

既に策は思いついた、こっから再び勝ち越して、攻めて来た時にハメてやる。

チャンスを無駄に潰すがいい。

なんて考えていると、龍が俺の方をじっと見ている。

うっ……偉そうに言っておきながら、俺のミスから失点につながってしまった。そのことを言いたいのだろう。

軽く手をあげ、スマンと合図する。あいつにはこんなもんで十分だ。

ミスが怖くて、サッカーやってられるかってんだ。


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