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恋愛蹴球  作者: ひろほ
23/72

仙台ユース3

「とは言うものの……」


やはり俺は右のSBでの出場で、泉は真ん中だ。絡む機会なんてそうそう無い。

そのことは頭の中からすっかり抜け落ちていた。

黄色と青のユニフォームのヴェガ仙台ユースのフォーメーションは4-3-3。

お椀型にFWとMFを配置。泉が中盤のやや下がり目、DFの前に陣取り、その泉を軸に3トップのFWと脇を固める左右のMF、さらにSBが前後左右に動きまわる。

俺はその動き回るFWの対応に追われるため、さらに泉との絡みは少ないだろう。

そして、小平FCはというと、4-5-1は変わらずに龍もそのままトップ下だ。

戦術的にはポゼッションサッカーはすっぱりと諦め、1トップを囮に色んな選手が攻撃参加する形だ。

―――と見せかけて、龍がほとんど単独で突破するというパターンもリーグ戦では幾度もあった。

さて、開始から五分が過ぎ、予想通り動き回る3トップのFWを俺たちDF陣はマークの受け渡しに苦労しながらも、サイドや自由に動く龍を起点に攻撃のチャンスを作り出し、がっぷり四つの互角の戦いを繰り広げていた。


「そろそろ気付くかなー、あいつら……」


あいつらとは、我がチームのボランチ二人の事である。

それぞれにプレースタイルの多少の違いはあれど、いかにも守備的MFといった選手である。

もちろんボールを持てば攻撃の起点となるべく、前線へボールを運ぶこともあるのだが……。

ボランチの一人にボールが入る。が、ドリブルをするでもなく、前線へパスをするでもなく、動きを止めてしまう。

結局、バックパスを選択し、DF陣でボールを回す。

これが、開始五分で何度行われたか。

そのうちずるずると攻撃のスタート位置が下がり、単調なサイドからの攻めになってしまっていた。

これは、泉の指示とポジショニングが影響している。

仙台はボールを奪われると、即座に3トップの選手がプレッシャーをかけ、攻撃を遅らせる。プレッシャーをかけに行かない余ったFWは、我がチームのボランチ二人に付く。そうして余った泉がボールを持った選手のパスコースを塞ぎ、後ろの選手に身ぶり手ぶりを交え指示を出し、そうこうしている内に防御網をしいている。といった具合だ。

この泉らしいゲームコントロールに、打開策は多くはない。

パスの出し手を探してしまう内に、ボランチ二人はとにかく攻めあぐねているのだ。

DF陣でボールを回していると、当然俺にもボールが来る。

しかし、その来るボールと言うのは、相手もくっついている状態のため、押し付けられたようなものだ。

このままキーパーまで戻して……という選択肢もあるが、そろそろペースを変えたい。

どうしたものか、俺に出されたパスが届くまでのわずかな時間に、頭をフル回転させ考える。

その時、ふと視線を上げるとピッチの全体が良く見えた。

これが―――SBの景色か?

ボランチの時とは確かに違う。前後左右の360度を見るため、首を必死に動かしていた。

しかし、SBは90度で済む。

ただ、その90度は限りなく遠くまで見通せる奥行きのある90度。ピッチはこんなに深く広かったのか。

奥にスペースが見える―――。

決めた。

狙いは俺と対角線の左のMF。

相手が迫っているため、ダイレクトで右足を振り抜く。

大きく蹴りだされたボールはピッチを斜めに切り裂き、左のMFの奥に着弾。相手のDFと追いかけっこの始まりだ。

一瞬、戻りながらも泉がボールから目線を切る。

おそらく守備の修正のために周りの陣形を確認したのだろう。

次に目線をボールに戻した瞬間に俺は走り出した。

泉のゲームコントロールには弱点がある。

泉の絶大な支配力に頼り切りになった味方が指示待ちになってしまう事がある。泉に限らず、リーダーが虚を突かれれば脆いのは当たり前だが、泉のチームはそれが顕著だ。

つまり、虚を突いた動きには対応がしづらい。とくに泉が把握していないことは。


「後ろ、頼みます!」


右MFに声をかけ、斜めに猛ダッシュ。

そして、追いかけっこはボールを相手と蹴り合いながらも何とかキープが出来たようだ。

これは好都合。

上がりの遅いボランチを追い抜き、中央に出る。

龍は俺の姿を見るや、左のMFへ近寄ってパスを要求する。


「28番チェック!」


龍に着いて行きながら、泉が大きい声を出して俺を指さす。

げっ、もうばれたのか。

しかし、俺のチェックするにも人数は足りていないだろう。

左のMFから受けたパスを、龍は簡単にヒールで俺がいる中央に流した。

そのボールを追いかけるように泉はすぐに俺につく。

予想もつかない動きをした俺に、誰もマーク出来ていない事を予想していたから、これだけ早く対応されたのだろう。

さらに、背後にも気配。

遅れた選手が追いつき始めている。

流石に対応が早い。

二人に挟まれつつある状態だ。

しかし、俺がちんたらボールを持つ訳がない、龍じゃあるまいし。

なので、簡単に前に居るFWへ出す。おまけにパスを出す際に左手を横に伸ばし、龍に出せというジェスチャー付きで。

泉ほどではないが、俺もゲームメイクは得意なボランチだったのだ。この程度はやってのける。

相手のDFを背負ったFWは素直に左へ流し、龍を走らせる。

ドフリーの龍はダイレクトで素早く足を振り抜き、難なく左隅のゴールへズバッと決める。

開始七分、なんとあっさり我がチームの先制点だ。


「千紘、やばいな、このチーム……」


得点を決めたというのに浮かない顔をしている、その原因は俺も思い当る。


「あぁ、こんなん一回こっきりだな」

「泉もそうだけど、周りの連中の反応がすげー早い」


背後に感じた気配は相手の真ん中のFWだった。

泉の指示があるまでに遅れたはずなのに。

全員がポジションに関係なく攻守にわたって走り回っているのだ。

ここまで戻ってきて守備をするFWもそうだが、泉が龍から離れた瞬間、CMF(セントラルミッドフィルダー)の一人が即座に龍に着いた。

やはり泉のコントロール能力は凄い。

奇襲は一応の成功ではあったが、結果として泉は龍のマークを外してしまったのだが、そうでなければ俺がフリーになっていた。

そう、常に邪魔な位置に居続けている。

また、身体能力も優れているため、いつの間にか別のポジショニングを取っていることが多い。


「攻めにも守りにも、泉の周りの五人がチャンスを潰してきやがるからな。俺がボール持ったら、直接お前に出すか?」

「バカ言え、一対一ならともかく、泉含めた三人に囲まれてみやがれ」

「だよな。となると、お前が左右に動いて、サイドからチャンスメイクするしかないな」

「言われねぇでもやってるわ。お前が上がれ、ドリブル突破だ。一人抜きゃ崩れるだろ。あとはさっきみたいにサイドチェンジな」

「オーケー、サイドを起点にするなら、俺もやりやすいしな。ただ抜くときはお前も手伝えよ」


とはいうものの、泉の周りをまるで衛星のように動き回るあいつらは厄介だ。

もし、あいつらが居ないとしても、泉単体でもこちらの守備陣を良いとこまで相手にできるはず。

しかし、それをしない理由は、泉の性格以上に効率の面で悪いからだろう。

サッカーは一人で出来ないのを誰よりも分かっているから。

強烈な存在感を放ちながら五つの衛星を従えるなんてプレーに、いつぞやテレビで見た冥王星の事を思い浮かべた。

王と名前が付いているからピッタリだとも思う。


「おい、切り替えろ! 攻めてくるぞ、チェックしっかりな!」


味方に注意を促す龍。

泉が星なら、こちらには強力な暴君がいる、負けるものか。


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