仙台ユース
被災や震災などの話が出てきます。苦手な方はお引き取りを。
架空の震災です。
最後になりますが、全ての被災された方々には心からお見舞い申し上げます。
また、復興に尽力されている皆様には安全に留意されご活躍されることをお祈りと感謝いたします。
―――七月。
夏の到来に浮かれる男女が乗る車に追い越されながら、我が小平FCのバスは高速道路を北へ進路を取っていた。
目指すは宮城。
以前に起こった震災も乗り越え復興を遂げつつある都市。
そこに構えるJリーグ傘下の施設、Jヴィレッジを目指している。
目的は合宿と被災地だったクラブユースと合同の練習。
プロの卵である俺たちは、サッカーで活躍するだけでなく、世間一般にも夢と希望を与える存在であるとともにホスピタリティ溢れる紳士でなくてはならない。
というユースの理念の元、
「Jヴィレッジを使い復興と、未来の溢れる若人が頑張っている姿と交流を描く」
というプロパガンダを行うのだと監督は言っていた。
そんな大人の事情なんてほっておいて、俺のテンションは高い。
仙台には友人がいるのだ。
多賀部 泉。
現在は、Jリーグのヴェガ仙台のユースに所属し、そろそろトップチームデビューが囁かれる。
学年は一つ上の高二でポジションはMF。やはり世代別の代表選手として選ばれており、仙台どころか、次代を担う逸材とまで呼ばれている。
災害から逃れ、避難した際に俺たちの学校に来た縁で、同じくサッカーをやっていることから、すぐに意気投合した。
抜群に上手い新戦力と、好き勝手攻める龍は思いのほか相性が良く、泉と龍が同じチームに居た時は手が付けられなかった。
もちろん、俺もその当時はMFとしてプレーしていた為、泉の存在は勉強になった。
技術的に上手いだけではなく、『サッカーが上手い』と感じられる選手だった。
攻めにも守りにもあいつの存在が常にあった。ボールに絡んでいるわけではないのに。
パスコースをさえぎったり、横から近寄って追い込んだり、そういった心憎い献身的な守備。
囮になるために走ったり、後ろからパスの指示をしたり、競り合いをしている時に顔を上げたらいたり、そういったホッとする攻撃。
さらにはチーム全体を指示して、即席チームでもまとめてしまうリーダーシップ。
『サッカーが上手い』という言葉を初めて実感した相手である。
「泉は元気かなー」
隣に居る龍へ問いかけるとスマホをいじりながらつまらなそうに答えた。
「知らん。サッカーやっているくらいだから、怪我はしてねーだろ」
「まぁそうだけどよ、やっぱり被災地って少し気になるじゃん」
「なんだそりゃ?」
「災害なんてあったことないから、どういう生活してるとか気になるし、環境だってどんなもんか分からないだろ? 俺はただサッカーをやっているのは楽しいし、上手くなりたいし、代表にだってなりたい。そんなん全部、自分本位の考えだからよ。復興がどうとか、被災地に元気を! だとか考えた事ないし」
「泉だって、そんなもんだろ。ホントにサッカーをやることが復興だのなんだのになるわけねぇ。スター選手くらいだろ、そんな影響力持ってるのはよ。んで、そんな影響力を持ってるスター選手様はあんまり国内にゃいねぇしな」
「お前もドライだなー」
「ドライっていうか、事実だろ。そもそも俺たちみたいな、ユースでプロにすらなれるか分からんような選手が被災地の為にサッカーしますって考えたり、被災地の事を考えます。とか言う方が気持ち悪いわ。それなら募金するって」
実際、こいつが後先考えず貯金を全部募金しようとした事を俺は知っている。親にストップを掛けられたため半額の募金となったが、それでも大したもんだと思う。
「泉もたまらないと思うんだよな、常に被災地の星だの言われてさ」
あいつの境遇を想像すると、自然と溜息が漏れる。
「ああ、そういうことか。周りがそう思ってるならしんどいよな。もしかしたら、泉は好き勝手やりたいかもしれないのにな」
好き勝手やっている奴が何を言うか。
「し・か・も! 優等生を演じなきゃいけないかも?」
「想像しただけで息苦しいな」
心底嫌そうな顔をしながら感想を述べた龍。
「つっても、俺たちだって今回の遠征に関しちゃ、優等生をしなきゃならんぞ」
そう、今回の遠征はあくまでも復興をテーマに東京のチームである俺たちと、仙台のチームとの交流を描いて、あわよくばお涙を頂戴しようという事なのである。
それが何故お涙頂戴になるのかはイマイチ分からないが、そういう人もいるらしいと監督が言っていた。
故に、龍のような中身ヤンキーの人見知りは、テンパって何を言い出すか分からないので、先に釘を刺しておく必要がある。
「知るか、サッカー選手がサッカー以外の事で叩かれてたまるか。お前のプレーの方が汚い事をやってるじゃねぇか」
「けっ、プレーの汚さなんて、審判がまともなら、笛吹かれない限り綺麗なもんだろうが。笛吹かれるようなマリーシア(ずるがしこいプレー)なんてマリーシアじゃない。ただの反則だ」
「おっ、期待してるぜ。チンピラみたいなプレーを」
このヤンキーにチンピラなどと言われてしまっては、試合中の行動を改めなければならないかもしれない……。
およそ優等生らしからぬ会話をしながら、バスはついに目的地へ着いた。
降車すると途端に一面鮮やかな緑が目に飛び込んできた。




