風太郎、語る
時は少しさかのぼり、試合終了後。
ミーティングと反省会を軽くして試合会場から出ると、なんと依子さんが出口に立っていた!
「お疲れー、千紘君。出待ちなんてしてみたよ。へっへっへ」
なんて意地悪な表情を浮かべるが、それもカワイイ。
「な、なんで依子さんがここに!」
もしかして、わざわざ来てくれたのか!
「なでしこの練習でこっちに来てて、お兄ちゃんが教えてくれたの。千紘君の試合会場が近いよって」
と、いうことは……。
「お疲れさま、千紘君。次はフルで出場いけそうな出来だったね」
やっぱり居たー! くそう……。
「ありがとうございます!」
しかし、無駄な失点はしてはならないと、即座に風太郎さんに頭を下げる。
「千紘ー、その人達、誰?」
腹を空かせてご機嫌ナナメな暴君が、眉をひそめて俺たちを見る。
「あー、小平の14番の子だー!」
「あぁ、あのドリブラーの」
龍を見て、依子さんと風太郎さんのテンションが上がる。
「……横浜龍」
ぶっきらぼうに答える龍。
「私は川崎依子。私もサッカーやってるんだよ、すごかったねー」
「僕は川崎風太郎、依子の兄で、千紘君のトレーナーをやらせてもらっているよ、よろしく」
しげしげと二人の顔を見て、口を開く。
「千紘、飯行くぞ、腹減った」
と、二人をまるで居ないかのように話し始めた。
「私もお腹減った! お兄ちゃん!」
「はいはい、すぐそこのファミレスでいいかな?」
というわけで、この四人で食事となったのであった。
で、話はファミレスに戻り、風太郎さんが今日の試合を振り返っていた。
「あの柏の大きい子はすごいね。ちゃんと動けるし、逆転されても動じないって、ちょっとユース離れしてる選手だよ」
「はい、手を焼かされっぱなしでした。最後も加地にやられましたし。フィジカル……コンタクトもちょっと歯が立たないかと」
「千紘でも駄目だと思うのか、あいつと競り合いは二度とやりたかねぇな。今度はブチ抜いてやるけど」
「怪我明けの人間にあんま期待すんなよ」
「じゃあさっきの話に戻そうか」
風太郎さんが俺たちをニコニコしながら見て話す。
「体が色んな動きを覚えるって話だったかな?」
俺と龍がそろって頷く。
「サッカーに限らず、スポーツには色んな動きが詰まっているんだよ。横浜君は、サッカー以外に何かスポーツをやったことはない?」
「えと、水泳」
「水泳か、これは良い例を挙げてもらったね。サッカーのキックと水泳のキック、同じキックと言うけど、全く別物だよね?」
「そうですね、俺は龍ほど泳げないですけど、それは分かります」
「けれども、実は共通する動きなんていうのは少なくない。例えば、クロールなんかは足の振りや姿勢制御を養ってくれる。この足の振りや姿勢制御なんて言葉はサッカーにおいても良く聞かれる言葉だと思う。それに筋肉でいえば、ダンベルだろうと腕立てだろうと、何かスポーツで鍛えようと、使われた筋肉が鍛えられるのは間違いない」
「はい、姿勢制御って言葉はボディバランスって言いかえられますよね」
「そうだね、色んな足の振り、体の捻り、その時に合った姿勢制御の形があって、水泳やサッカーにそれぞれ合った筋肉や神経を刺激していく。結果、体はその時に応じた使い方を、引き出しから取り出して対応していくものなんだ」
「せんせーい、よく分かりませーん」
依子さんが手を挙げ、あっけらかんとした表情をしながら質問をする。
こんな天使の教師を一度やってみたい。
っといかん、また話が聞けなくなってしまう。
「つまり、一見関係がなさそうな運動でも、実は関係があるってことですか?」




