Re:デビュー3
今後の方針が決まり、龍からのエールを貰ったところで、コーナーキックが蹴り込まれポジションを競り合う。
相手は奇しくも加地だ。
「軽いな」
加地が低い声とともに片腕で俺を抑える。
「――――――っ!」
跳ぶ前に体を制され、とりあえずの形で跳ぶものの俺にボールが届く気配は無い。
そして加地が俺の頭二つ上を行く。
しかもぶつかった時の衝撃ではなく、乗っかられた感触。
俺と同じタイミングで跳び、上手いポジショニングを取り、尚且つジャンプ力も半端じゃないという証明だ。
普通、空中での競り合いとは体がぶつかりあい、結構な衝撃が来るものだが、全てが相手に上手いことやられると、今みたいに全く衝撃がない。
加地がクリアしたボールは、ペナルティエリアの外、中央に転がる。
そのボールに素早く反応したのは、他でもない龍。
セレクションの時もそうだったが、龍はこぼれ球に反応するのがとてつもなく上手い。
当然、得意のミドルシュートを打ちこんで…………違うな。
龍が俺を見てる。
分かった! ドリブルだ。
―――いやいやいや、待て、確かに抜かしてやるなんて言ったが、こんな状態からではないし、こんな直ぐではない!
「まじか、あの野郎っ!」
愚痴りながら龍のフォローのために位置に着く。
あいつはやっぱりドリブルを開始した。
敵味方、ほとんどがシュートだと思っていたため初動が遅れる。
ようやく動き出したゴール前、人間の間をすり抜けるように進む龍。
やはり、というか当然というか、加地の反応が早い。
世代別代表は伊達ではないようだ。
――――――ただ、こちらは少し邪魔をさせてもらうけどな。
「はーいちょっと失礼しますよー」
龍に向って走り出した加地の進行方向を塞ぎ、軽く肩を当てて遅らせる。
と同時に俺は走り出す。
「龍!」
龍を呼ぶ。と言っても呼ぶだけで、注意を引くための囮である。
どうせあいつはパスを出さない。オフサイド気味のポジションでもあるし。
細工は流々。
やっちまえ!
ただでさえバランスとスピードを狂わされ、更には俺に注意も逸らされた加地は、驚く程あっさりと抜かれた。
龍はそのまま、俺に若干釣られていたGKも抜き、ゴールまでドリブルしてしまった。
これが―――横浜龍である。
独りよがりで、攻撃的で、俺様で、自信家で、人が嫌がることを率先して行う性格が悪いチビ。
その癖、サッカーの実力は確かだから始末に負えない。
敵も味方も溜息をついている時、龍と俺はボールを持ち、すぐさま自陣に戻り始めた。
「「もう二点だ!」」
叫ぶ。
何をこのチームは緩んでいるのか?
一点決めたにしても、まだ負けているのだ。
年上だろうとキャプテンだろうとチームの意識を引き締めるためには関係ない。
「今度は俺が囮になりゃいいんだろ?」
「そーゆーこと。お前以外の誰かが決めても、一点は一点だ」
「その囮も、こいつらに決められると思えねぇな。俺が全部行った方が良いんじゃね?」
「大丈夫だろ。何しろ同じユニフォームを着ているんだぜ?」
一度は道が閉ざされた、憧れのチーム。
そのチームメイトがポンコツであるはずがない。
「ふん。お前は気軽に言えるだろうけどな、攻めをもたつかれると、その分あのデカブツに潰されるのは俺だからな。山葉に心配されて泣かれる」
「―――うげぇ」
心配する様子の実姉を想像してしまい、嗚咽を上げながらボールをセンターサークルの中央にセットし、所定の位置についたところで、リスタートの笛。
スコアは1―2のビハインド。
柏はボールをサイドと後方で回し始める。
龍の攻撃力を見たため、なるべく中央でのボールカットを避ける作戦のようだ。




