Re:デビュー
―――四月の中旬、我が小平FCはユースチームのリーグ戦、プリンツリーグの開幕戦を迎えた。
ユースチームのみならず、強豪高校サッカー部を加え、年末まで繰り広げる長期戦だ。
俺にお声はかからないと思ったが、どうにかしてメンバーに選ばれた。
「さて、スタメン言うぞ」
ロッカールームで監督の声が響く。
さて、今回は出番があるんだろうかね。メンバーが読み上げられ、返事が木霊する。
「トップ下は横浜ー」
「へーい」
周りは上級生が選ばれている中で唯一、龍だけが一年で選ばれる。しかも、トップ下。
まぁ、コイツの攻撃力だけは認めざるを得ない。周りの上級生が驚きもしないとこを見ると妥当な人選なのだろう。
ちなみに俺はベンチスタート。くそっ。
「悪いな千紘、お先に~」
「とっととベンチに帰ってきちまえ」
「ふん、ベンチあっためておけよ」
と互いにエールを送り合い、ロッカールームを後にする。
さて、小平FCの戦術と言うと、DF4、MF5、FW1という4-5-1のフォーメーションに、ボールを回すポゼッションサッカーを身上とする。まぁ、正直、ポゼッションサッカーと言っても、戦術理解が足りないので、どうにも上手くいかない時が多い。
はっきり言って、大人の戦術で俺たちにはまだ早いと思う。
そんなチームにおいて異端なのは龍だ。
一般的にポゼッションサッカーというと、早いタイミングでボールを回し、スペースに走りこみ、相手のDFを混乱させ、ゴールに近づく。そんなイメージだと思うが、龍はお構いなしでボールを持つし、ドリブルも積極的にする。隙あればシュートを打つし、いきなりのスルーパスもバシバシ通す。
当然、チャレンジする分ボールを失いやすいが、それ以上に相手がいきなりのペースチェンジに対応しきれないケースが多い。
―――味方もだが。
さて、今回の相手は千葉県は柏ユース。
オーソドックスなスタイルで、FWはFW、DFはDFの仕事をキッチリするチームだ。
一応の流動性なるものを売りにしている小平FCとどちらが強いのか。
そして結果はすぐ出た。
前半の立ち上がりからハードにチェックしてくる柏勢に、バタバタとパスミスを繰り返し開始五分に失点。そして、失点を取り返そうと前掛かりになったところをカウンターで一点。
二失点で前半を終え、暗い顔でロッカールームに引き返してきた。
「まだちょっとポゼッションサッカーは早いな。すまん、俺の采配ミスだ」
と監督が謝る。
今年からトップチームの監督が変わった。
この監督がポゼッションサッカーの信仰者で、育成の段階のユースも方針転換を余儀なくされた。
監督の肩を持つ訳ではないが、采配ミスではないだろう。
「戦術変えるよー、選手もね。サイドから崩して行こうか。幸い、相手が中に絞ってサイドはゆるゆるだったしね。あと、出来る限り縦パス最優先。ドリブルも相手がチェックに来なければ持ってっていいよ。で、選手交代で右バックに磐田ねー」
「はい!?」
「なんだ、出たくないのか?」
「いやいやいや、出ます!」
まさかこの苦境でお呼びがかかるとは思えなかった。
「ガリガリ前に出て、横浜を助けろ。ホントならボランチで前後に関係を作らせたいとこだけど、流石に相手の攻撃陣抑えながらってのも辛いだろうからな。まぁ、期待してる」
「はっ、はい」
早速のチャンスに一気に心拍数が高まる。




