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恋愛蹴球  作者: ひろほ
10/72

監督面談

「失礼しましたー、ありあとあしたー」


――――――翌日、今までなったことが無い部分の筋肉痛を抱えながら、学校帰りに小平FCの事務所に来た。

オフの日だがユース用のユニフォーム、ジャージを受け取るためだ。

クラブハウスの廊下を歩きながら、まだビニールに包まれたユニフォームを見る。

自分の背番号は28番。まぁ、控えっぽいナンバーだが仕方がない。

背中に名前がIWATAと文字が入っているのを見たとき、やっとユースに帰ってきたと実感した。

また、小平FCのユニフォームは、Jrユースまではトップチームとデザインや配色が違う。

ユースまで上がって、ようやくトップと同じ、青と赤のユニフォームでピッチにたてるのだ。憧れの気持ちから、ついニヤニヤしてしまう。

けど、その憧れの目から見ても赤と青の色使いと、デザインは酷いものだと思う。


「あっ、磐田くーん、監督が話したいってー。コーチ室に来てだってー」


事務所を出ると、事務員の人が呼びとめてきた。


「分かりましたー。コーチ室ッスねー!」


一体、監督が何の用だろうか?

とくに思い当る節も無いため、首を捻りながらコーチ室へ向かう。

コーチ室と言っても、ぶっちゃけ学校の職員室と変わらないもので、以前行った時には、机の上に山積みになった書類やら本、床や棚にはサッカー用品やらが雑多に転がっていた。

またトップチームのコーチ室はまた別になっており、監督室と呼ばれている。

ユース・Jrユース・ジュニア、それに女子やバレーチームまで持っているが、まとめて同じ部屋にブチ込まれているため、下手な学校の職員室よりも広かったりもする。

ちなみに呼ばれる場合、進路相談の話―――つまりは退団や昇格出来ない旨の話をされたりすることが多いので正直訪れたくはない。

そんな重たい扉に手をかけ、少し控え目に開ける。


「失礼しやーす」

「おっ、来たねぇ、こっちこっち」


入るとすぐに、色黒で小太りの監督が手を振る。歳はたしか四十とかそこらだ。


「はーい」

「どう? ユースは慣れたかい?」


言いながら、隣の席のイスを勧めてくれるたので、会釈しながらかける。


「はい、懐かしい顔ぶれも多いですし、高校よりはやり易いです」


高校でも一応仮入部で一日だけ出さしてもらったが、人数が多く練習の密度は低いように感じた。その分、筋トレやランニングなんかは多かった。


「高校より? えーと、馬場だったかな」

「そうです! てか、よく覚えてますね」

「あてずっぽうだよ、その制服も何となく見覚えあるしね。なんとなく馬場かな、と」


テキトーですか。と突っ込みたくなるが、にこにこしている顔を見るとどうも毒気が抜ける。


「さて、と話ってのはさ、君の今後についてなんだよね」

「はぁ、今後ですか」


冷静ぶってはいても、つい唾を飲み込んでしまう。


「故障明けでしょ? だからやっぱり気になっちゃうんだよね。で、別メニューとかも考えなきゃいけなくなるかもしれない。怪我や痛みを隠して練習や試合をしたって、誰も得しないからさ」

「全然、大丈夫ッス! 問題ないッス!」

「ホントに? まぁ信じるけどさ、若い人間っていうのは、痛みや不調に対してたかをくくってる部分があるからね」

「今、俺、ボール蹴れるようになって、ホントに嬉しいんですよ。事故に遇って、サッカー出来なくなるなんて考えもしなかったです。今まで、当たり前のようにサッカーしてましたけど、それって恵まれてることなんすよね。だから、無理してサッカーをして出来なくなるなんてこと、絶対やらないんで安心してください」


監督が目を大きく見開きながらうなずく。


「いやいや、その歳でそんなに考えてるなんて驚きだな。俺なんか、引退間際になって、で、怪我して気付いたもんなぁ。最近の子は早いね」

「監督もそんな風に考えたことあるんですか?」

「いやさ、十年前にくらいにさ、俺、日本代表だったんだよね。こんなナリだけど」


と言って自分の腹をさする。


「あっ、知ってます。代表の右SBだったんですよね?」

「そうそう、よく知ってるね、嬉しいよ。で、当時SBって今みたいに人気無かったんだ。だから選手の層も薄かったから、自分がやんなきゃなって勝手に張り切ったんだよね。怪我をおしてまで出場してね」

「正直、自分は小さかったから、よくは覚えていないんすけど……そんなに怪我はひどかったんですか?」

「最初はそんなに酷くなかったんだよね、けど無理を重ねて右膝の靱帯切っちゃって。そしたら、治ってもサッカー出来ませんってさ」


苦笑いをする監督。

無理して明るく振舞っているのだろうけど、それがむしろ痛々しかった。


「サッカー選手はいつまでも続けていけるものじゃないからね。サッカーを辞めた後の方が人生は長い。そこのところをよく考えてほしいと思ったんだけど、君には必要なかったかな?」

「いえ、監督の昔の話とか聞けるのはありがたいです」


ちなみに、わたくし磐田千紘は『品行方正』で中学、高校とキャラ作りしております。


「そうかい。で、次はポジションの話なんだけど、どう? SBは」

「やはり少し慣れない部分はありますね。求められるプレーがボランチと全く違いますし」

「で、ボランチとして試合に出ろって言われたらどうする?」

「え?」


そりゃ今までやってきたポジションなわけだから、愛着もあるし自信もある。

しかし、こんな状態の左足でやれるのだろうか?


「……自分は……監督が使ってくれるのなら何処だって構いません。使うという事は、必要だと、タスクを出来ると思って使うのでしょうし」

「ふーん、そんなにポジションにこだわりがないのは何でかな?」

「どうしても……どうしても試合に出て、代表にならなきゃならないんです。左足は感覚が未だ鈍い状態で、ポジションにより好みしているわけにはいられないんです」


自分で言ってて、依子さんに物凄く入れ込んでいる事に気付いた。

もちろん暇さえあれば依子さんの顔を思い浮かべるし、悶々とした気持ちで夜を過ごすことがある。

そんなことはきっと普通の恋愛と変わらない。

けれども自分が大好きなサッカーで、大好きなポジションでのプレーと依子さんを天秤にかけた時、真っ先に依子さんとの約束が頭に浮かんだ。それだけ俺は依子さんに狂っている。と強く確信した。


「代表? 大きく出たね、そりゃあ。まぁ、誰だって代表を目指してサッカー選手をやっているんだけどね。ただ、凄い野心的な顔をしてるね。さっきの優等生の顔よりずっと良いよ、サッカー選手って感じで」


先ほどまでとは違う顔をしていただろうか。しかも野心的だなんて。

ついつい自分の頬を撫でながら、監督に聞き返す。


「そんな顔してますか?」

「あぁ、してるとも。さて、そんな未来の代表を目指す君に、おっさんからアドバイスだ。SBの景色って、サッカーの中で一番良い景色だよ。それが分かったら、きっと何処のチームでも通用するSBになれるよ」


SBの景色?


「まぁ、SBにこだわらず、使えそうなトコがあったら使うよ。景色の話については頭の片隅にでも置いておいてよ。君の気持は分かったし、今日はもう帰りな。呼び出して悪かったね」

「いえ、ありがとうございました」


そうして家路に着く。

家に帰っても監督が言った『SBの景色』がどういったものなのか、ずっと頭に残ってしまっていた。

視野の広さに関しては、ボランチの方が断然求められる。

監督もその程度の事は分かっているはず、となれば視野の広さとは違うもののはずだ。

SBをやっていれば分かるようになるのだろうか……?


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