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届かない気持ち

作者: 浩伊永助


「アイツ、結婚するらしいぞ」


一瞬、時間が止まる。

その、一瞬固まったことが理解不能で、また固まる。


「何固まってんだよ、元カノの話で」


みんながニヤニヤしながらこちらを見てくる。

だが、そんなことに頭のキャパを使えない。言葉では言い表せないような感情が心を渦巻く。


「てか、お前今彼女いんだし別にいいじゃん」


そうだ。自分には彼女がいる。仕事ももプライベートも充実している。なのに何故、こんな感情になっているのだろうか。全くわからないが、何故か酒が飲みたいと、普段なら絶対に思わないことをふと思った。


気付いたら家に着いていた。


酒が呑めない奴がいるために、飯だけ食べて馬鹿話に花を咲かせる会は、普段なら考え付かないほど上の空で乗り切り、いつも以上に取り留めのない話ばかり話していた気がする。


シャワーを浴び、ベッドに倒れ込み、普段あまり開かないツイッターを開く。特にタイムラインを注視するのではなく、検索画面とホーム画面を行ったり来たり。

検索画面に一文字打ち込むたびに消し、また一文字打ち込み消し、こんなことにどれだけ時間をかけているんだろうと一人自嘲する。もう二十代も折り返しに入った年齢で、昔の彼女の私生活を覗こうなど、気持ち悪くて仕方ない。だが、一眼でいいから見たい。俺の今の気持ち、その気持ちの整理が『彼女』を見ればつくのではないか。その二つの気持ちの狭間に俺はいた。


友人が口走った、『彼女』の名前を打つのにどれほどの時間がかかっただろうか。


検索をかけると、そこには高校時代、好きでたまらなかった顔があった。

特別美人なわけではないかもしれない。でも、いつも自信に溢れていて、自分の前を走っていた姿が、画面の中にあった。


涙は溢れなかった。そして、思った以上に何も感じなかった。

名前を打つまでにあった熱い想いのようなものが、穴の開いた風船のようにスーッと消えていった。


馬鹿な話である。自分は、ずっと『彼女』のことが好きだと、たとえ今の彼女と結婚して、時が経とうと、心の片隅では、『彼女』のことを想ってしまうだろうと、密かに考えていた。


だが、違った。


確かに、『彼女』のことは想っていただろう。結婚の話を聞くまで、ずっとそうだったかもしれない。

だが、俺の想いは、好きと言う感情ではなく、今までの人生で、自分の責任で別れた、後悔しかない『彼女』へのやり直したいという気持ちだった。


今まで、何人かの女性と付き合い、そして、別れてきた。別れのたびに悲しんだが、今は良い恋だったと微笑ましく思い出せる。だが、『彼女』との恋だけは、後悔があった。

何故、もっとそばにいれなかったのか、どうして、気付いてやれなかったのか。その想いがあるために、俺は今でもあの笑顔を引きずっていたのだ。


過去に戻ってやり直せるならいつに戻る、という質問をされた時、自分は戻りたくないといつも答えていた。それは後悔を残すことをよしとしない俺の性格からの発言であった。

でも、今度聞かれたら、迷わず、高校時代と答えるだろう。


『彼女』と二人、もう一度、しっかり向き合い、例え別れることになったとしても、後悔に苛まれることがないように。


そんな自分勝手な想いを胸に秘め、俺は彼女に電話をかける。


後悔先に立たず。


なんて思ったところで、気持ちを切り替えられるわけではないが、それでも、その反省を踏まえて、今の彼女とは、真正面から向き合っていきたいと思う。


そして叶うなら、『彼女』に会って、笑顔でお祝いの言葉を述べよう。


今すぐは、まだちょっと無理だけど。

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