ステータスがオールAの万能な女の子に転生しましたが、胸のサイズまでAの必要ってありますか?
わたしがこの世界に生まれてから、十五年が経った。時が経つのは早いというけれど……本当にその通りだと思う。
今年、ようやく《冒険者》として登録できるようになったわたし――セピア・ルーシェは、冒険者としての活動を始めてまだ三ヶ月の新米。
けれど、冒険者の活動は実に順調だった。
――何せ、わたしには《女神》から与えられた才能がある。
《転生》……現実にそんなことがあるのかと思ったけれど、現実にわたしが体験したことだ。
一度は死んでしまっている以上、それが現実だったのか――それを証明することはできない。
けれど、確かにわたしには前世の記憶と、女神と話した時の記憶がある。
前世はこことは違う世界で、事故に巻き込まれて死んでしまったわたしだけれど……わたしの魂は本来、その世界では存在しなかった《高い魔力》を持っていたらしい。
たまにそういうことがあるとかで、わたしはそんな稀有な魂を持つ者として、特別に記憶と……魔力に合った能力を与えられて異世界に転生することができた。
そんなわたしのステータスはこれだ。
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名前:セピア・ルーシェ
年齢:十五歳
性別:女
体力:A
攻撃力:A
防御力:A
魔法力:A
敏捷:A
バスト:A
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初めは、このステータスは才能のようなものだと思っていた。
オールAなのだから、優れた将来性がわたしにあるものだと。……だが、現実は違う。
その年齢におけるステータスの高さらしく、すなわちわたしは生まれた頃からハイスペックな赤ん坊だったわけだ。問題となるのは、ステータスの最後の項目。
――バスト:A。
十五歳になったわたしは、改めて実感した。
転生するときに、女神から「何か希望はありますか?」と聞かれて、とにかく危険がないような感じに過ごせればいいかな……そんな風には考えていた。
でも、心の片隅では、どうせ転生するならナイスバディな美少女がいい――そんなことを欠片も考えなかったというと、嘘になる。
自画自賛になるかもしれないけれど、わたしは正直結構可愛いとは思う。
そういう風に生まれ変われたのは嬉しいんだけど……、
「胸、なさすぎじゃない……?」
擬音で表現するならば、ストン。
狭い洞窟でも難なく進めてしまうほどに、わたしの胸はない。
『バスト:A』が成長性ではなく、純粋な胸のサイズを表していることに気付いたのは、わたしが五歳くらいの時だった。
それでもまあ……成長したらBとかになるかな? って希望的観測を持っていた時期がわたしにもある。
でも、わたしのステータスはオールA――そこから変わることはなかった。
万能で、天才で、けれども約束された貧乳。それが、わたしの運命であった。
そんなの、認められるわけがない……!
結果、わたしのこの世界での目標は、バストのサイズを上げることになった。
ひどい目標? そんなの関係あるか。わたしだって胸が大きい人の気持ちを理解したいんだ。
王都にある《魔導図書館》で、わたしは『胸を大きくする方法』を調べた。
どうやらこの世界でも血の滲むような努力をした人がいるらしく、そういうことが可能とされる魔物が何体か存在することが分かっている。
いわゆる、身体の大きさを変化させるような『魔法薬』の素材として、それを適用することだ。
「むむむ……」
「お早いですね、セピアさん」
「あ、リネ」
冒険者ギルドで掲示板を吟味しているわたしに声をかけてきたのは、一人の少女。
リネ・ペルトア――《賢者》と呼ばれた魔導師の弟子らしく、魔法の才能だけならわたしを軽く凌駕する才能を持つ女の子。
まだ駆け出しの冒険者であるわたしに声をかけてくれて、最近はよく一緒に仕事をしている。
たわわなお胸が特徴的――というか、同い年なのにどうしてそんなに大きいの? というくらいに胸がある。わたしのセルフ鑑定によると、彼女の胸のサイズはFくらいあるかもしれない。
正直、すごく羨ましい。
「今日も強い魔物を狙っているのですか?」
「! ま、まあそんなところ……」
あはは、と笑って誤魔化すように答える。
わたしは冒険者を始めてから、短い期間で凶悪な魔物を倒す『期待の新星』――ということになっている。実際には、『胸を大きくする素材』となる魔物が、まるで当てつけのように強いだけなのだけれど。
この前倒したミノタウロスも、当てつけのように胸が大きかった。ミノタウロスので作った魔法薬ならきっと胸も大きくなるはず……そう思ったのに、わたしの胸は依然『ストン』のまま。
身体に合ったものでなければ効果がないのかもしれないし、そもそも伝承に過ぎないものばかりだ。こればかりは、挑戦し続けるしかない。
「今日もご一緒させてください」
「え、でもいいの? 割に合わない仕事かもしれないし……」
「構いませんよ。セピアさんは強い魔物を倒して、色んな方のためになることをしているのですから。私も、貴方を見習わないと」
「うっ……」
リネの言葉に、わたしは思わず押し黙る。そんな高尚な理由で魔物は倒していない。
けれど、『胸を大きくしたい』から魔物を倒している、なんて言えるわけがない。
――だからわたしは、リネに嘘を吐く。
「そ、そんな大層なことは考えてないよ。でも、困っている人は放っておけないよね!」
「はい、その通りだと思います!」
微笑みを浮かべるリネに、わたしも笑顔で答える。
――不純な理由で冒険者を続けるわたしと、そんなわたしに笑顔を向けてくれる彼女との、冒険の記録だ。
……というか。ステータスがオールAなのはともかくとして、胸のサイズまでAの必要ってある?
***
私――リネ・ペルトアは幼い頃から、女の子好きでした。
いえ、今も好きというのが正しい言い方になるでしょうか。
《賢者》と呼ばれた師匠のことも、『お姉様』と呼んで慕わせていただいております。
それでも……お姉様は私と同じで大きな胸をお持ちのお方。
――十五歳になった私の趣味が、『小さいお胸』であると気付いたのは、ごく最近のことです。
別にロリコンだとかそういうわけではなくて、もちろん小さい女の子も好きなんですけれど。
何というか、明らかに『胸にコンプレックスを持っているのに、それをひた隠して努力するタイプの貧乳の美少女』が大好きなんです。
こんなこと言うと絶対に引かれると思うので、表立って言うことはありません。
墓の下までもっていかなければならない私の秘密です。
そんな私が出会ったのは、『私の性癖』に刺さる貧乳美少女――セピアさんでした。
褐色の肌に長い黒髪。とても活発的な容姿をしていて、その上で全く主張しない大きさの胸。
控えめに言って、彼女の小さなお胸を優しく撫でたいと思いました。こんなことを言えば間違いなく引かれるので、もちろんしません。自重できるタイプの人間なのです、私は。
とても可愛らしい容姿をしていた彼女が、冒険者ギルドの受付のお姉さんの胸を見てから、後で小さくため息をついているのに気付いた。
――彼女は間違いなく、胸のサイズにコンプレックスを抱いている。
その上で、胸を大きくしようとしていることにも、私は気付いている。
何せ、彼女が倒している魔物の多くは、私の師匠――お姉様が、『胸が大きくなる可能性のある魔物』として公表しているものなのだから。
健気にもそんな魔物を倒して胸を大きくしようとしている彼女はとても可愛らしくて……けれど、何としてでも彼女の胸の大きさは維持しなくてはならない。
私はそう考えるようになったのです。
だから、私は彼女とパーティを組みました。
ああ……賢者の弟子でありながら、好きな女の子の胸のサイズを維持するためだけにパーティを組んだなんて――誰にも知られるわけにはいきませんよね。
ふふっ、今日もセピアさんの胸が大きくならないように、素材に細工しないと……。