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ぐへぇ~ ⊂⌒~⊃。Д。)⊃
集落のど真ん中から吹き上がる荒々しい風柱。
犬人族と猫人族が風に巻き上げられている。
百合子さんが暴れているようだ。
意識のある者達は空中で体勢を整え、気絶している者を保護しようとしているのが見えた。
あの様子なら多少の怪我は負えど死にはしないな。
視線を下に戻し、蜘蛛族の姿を探す。
しかし、何処を見ても見当たらない。
何処に隠れて糸を引いているんだ?
脳裏によぎるのはアラーニャとティスの戦い。
アラーニャは土の下に隠れていた。
そして蜘蛛族は土魔法が得意。
導き出される答えは…。
「少し熱いが…まぁいいか」
火と水の混合魔法で火傷はしない程度の熱湯を大量に生成。
豪雨の様に下にいるカマキリ族達とその近くの土の中にいるであろう蜘蛛族に向けて落とす。
「うわっちゃぁぁぁぁ!!!!」
「熱い熱い!!」
「誰かどうにかしろ!!」
元気なティスの声が一段と良く聞こえる。
熱湯にのたうち回るカマキリ族達。
蜘蛛族が出てこない。
おまけでもう一発熱湯の雨を降らせてから地上に降りる。
熱気で暑苦しくなっている。
「アルバ!上から攻撃とは卑怯だわい!!」
頭を振り髪の水滴を振り飛ばすティス。
その発言に僕は頭が痛くなる。
他のカマキリ族達から細々とした風魔法が飛んでくるのを避けながら答える。
「これは人間の国が集落を襲撃してきたという想定だ。人間はあらゆる手段を使ってくるだろう。
そこには卑怯も何もないんだ。負ければ終わり。人間の都合の良い様に事実は捻じ曲げられ、全ては人間の歴史の闇に葬り去られる」
ルナの森での出来事を思い出す。
結局負けてしまったから全て奪われてしまったのだ。
こいつ等にはそんな苦い絶望の味を知ってほしくはない。
「もう一度言う。負けたら終わりなんだ。僕達は人間からがむしゃらに貪欲に時には浅ましくも勝ちを掴み取らなければならないんだ」
攻撃を避けながら、足元に微細な魔力をソナーの様に送り込み蜘蛛族がいる場所を特定作業を行なう。
やはり蜘蛛族は近くに潜んでいるようだ。
熱さに耐えているのか蜘蛛族の動きは鈍い。
ティスは僕の言葉に顔をくしゃりと歪めた。
「あのババァも似たようなことを言っていたが、オレには分からん。オレは…オレ達はただ目の前の敵を捻じ伏せるしか知らんのだわい!」
特攻をかけるティス。
それに続くカマキリ族の者達。
この真っ直ぐな性格は嫌いではない。
が、それでは人間に足元を掬われてしまうだろう。
迎撃の構えを取る。
一瞬右足に違和感を感じる。
「だったらわし等蜘蛛族が足りない分を補ってやるのじゃ!」
違和感の正体が判明。
僕の右足に蜘蛛の糸が絡みついていた。
いつの間に…と考える間もなく引っ張られ体勢を崩される。
一瞬の隙を逃すまいとティスの鎌が振り下ろされる。
僕は腰から短剣を抜き、鎌を受け止める。
すぐさま右足がまた引っ張られ、踏ん張れない。
「ワシ等でも足りないなら犬人族も猫人族もおるわ!誓いの盃を交わしたわし等は一つなのじゃ!!」
ティスの背を飛び越える影。
僕の喉元を狙う影は犬人族。
屈んで避ける。
屈んだ目の前には猫人族が四つん這い状態で、ティスの股越しに対面。
苦笑が洩れる。
なんだ、ちゃんと連携出来るじゃないか。
「あとワシの事をババァと呼ぶでないわ!」
最後の言葉が一番感情が籠っているのは気のせいではないだろうな。
猫人族の鋭く伸びた10の爪が僕を狙う。
やりたくはなかったけどこの際仕方がない。
口元に魔力を集中させる。
僕の口から放たれた熱水球は猫人族の顔面に当たり怯ませることに成功。
手に持っていた短剣を手放し、ティスの鎌を掌底で打つ。
衝撃でティスは半歩下がり、僕と少しだけ距離が開いた、
その間に右足の蜘蛛の糸を焼き切り自由を取り戻す。
後方から隙を伺っていた犬人族が慌てて再度攻撃を仕掛けてくるが回避。
すれ違いざまにカマキリ族達の方向に蹴り飛ばす。
アラーニャの姿を探すと僕とティス達の間の土から姿を現した。
「防ぎきるとは流石じゃな」
顔についている土を拭うアラーニャの表情は明るい。
四部族が一つになって何かを成すというだけで楽しいのだろう。
「土の中に隠れているのは分かっていた。が、アラーニャ、お前だけは見落としてしまっていた。どうやって俺の魔力探知を逃れたのか後で教えてもらいたいものだ」
ニヤリと笑うとアラーニャも同様の笑みを浮かべる。
「そう易々と教える訳がなかろう」
仕切り直しと言わんばかりにアラーニャが土魔法を発動。
鋭い円錐が僕の足元に出現。
串刺しにしようと伸びる先端を避ける為に横に跳ぶ。
既にアラーニャは僕の逃げる方向が分かっていたのかニヤリと笑みを深める。
「放て!」
号令と共に土の下から無数の蜘蛛の糸が飛んでくる。
次はどんな連携技を見せてくれるのだろうかと僕は自然と心が躍った。
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