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ギルさんは宣言通り魔法の使い方を教えに来てくれた。
神樹のそばにある切り株に向かい合うように腰をかける。
ルゥナさんは散歩に出かけていない。
「へその下ら辺に魔力の源である塊のようなモノがある。まずはそれを感じ取ることから始めろ。」
そう言われ、目を閉じて意識をへその当たりに集中する。
魔力の塊…かたまり…。
暫く集中してるとグネグネと勢いよく動いている変なものがあるのに気付いた。
「うわ!気持悪い!!」
思わず声を上げる。
自分の中に何か得体のしれないものが蠢いていると思うと鳥肌がたつ。
「馬鹿者!自分の魔力を気持ち悪いとは何事だ!!」
容赦なく拳骨が落とされた。
あまりの痛みに両手で頭を抱える。
「だって…グネグネ蠢いてて…」
涙交じりの言い訳にギルさんはため息を一つつき
「それはお前の中の魔力が活発に動いている証拠だ。魔力が扱えない者はその動きがなくただの塊なのだ。動きが良ければ良いほど魔力が豊富に生み出され魔法の威力も精度も上げやすくなる。喜ぶことがあっても気持ち悪いということはない。」
なるほど。
つまり魔力の源のこのグネグネは車でいうエンジンなのだ。
動きが活発であればあるほどエネルギー(魔力)が生み出されると。
逆にエンジンがあってもそれが稼働してなければエネルギーは生み出されずに走る(魔法)ことが出来ないと。
「魔力の源が分かったらそこから全身に巡っているのを感じ取れ」
再び目を閉じてグネグネを感じる。そこから血管のように全身に流れているのが分かる。
こうして意識して感じると全身隈なく魔力が巡っていることに気づく。
「もう分かったのか?人の子なのに呑み込みが早いな。」
感心したように呟くギルさん。
あれ…そういえば…
「ギユ、ギユはギユだよね?」
「むっ?私の名はギルバード・ルナ・シルワだ。ギルはルゥナ様が短く言っているだけだ。それがどうしたというのだ」
「ぼくのなまえはなに?」
「……」
片手で顔を覆い天を仰ぐギルさん。というかギルさんの名前カッコいいな。
この世界で生きてきて早2~3年。
今更気づいたよ。
僕は僕の名前を知らないことに。
ルゥナさんには「君」って呼ばれるし、ギルさんは「おい」とか「人の子」だし。
「…ルゥナ様から伺っていないのか?」
顔を元に戻しこちらを見るギルさん。
眉間に寄った皺がいつもより深い。
む?実は名前はあるけど僕だけが知らないだけ?
「きいたことない」
「ふむ、私も伺ったことはなかった。故にお前の名前は知らん」
テルミーマイネーム!
ギブミーマイネーム!
僕は両手で頭を抱えてうなだれる。
「そうだった。名前つけ忘れていたよ」
上から声が聞こえた。
ギルさんは素早く跪いて頭を垂れる。
「お帰りなさいませルゥナ様」
上を向くと空からルゥナさんが降ってきた。
ふわりと着地してギルさんの頭を撫でてる。
あ、ギルさん喜びすぎて顔面がやばいことになってる。
「おかえりなさいルゥナさま!」
ルゥナさんの太ももに抱き着く。
僕の頭も撫でてくれて嬉しくなる。
「二人共ただいま。魔法の練習は一旦休憩して三人で名前を考えようじゃないか」
その日魔法の練習は再開されることはなかった。
何故なら僕の名前が中々決まらなかったからだ。
「小さいのでチビでいいのではないでしょうか?」
「これから大きくなるんだからチビは変じゃないかい?」
「ならばビッグでどうでしょう?」
「やーだー!」