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翌日の昼、スパダの集落から北西に歩いて一時間程の距離にある名もない平野に集まっていた。

そこそこ強い日差しが降り注ぐ中、各部族は元気に盛り上がっている。

蜘蛛族とカマキリ族は何と族長1人だけで参加。

犬人族と猫人族は上限の4人で参加するようだ。

既に睨み合いをしている各部族。

僕と百合子さんは審判役をし、最後に成績の良い部族と戦うということになっている。


「時間の短縮の為同時進行で行う。初戦は因縁の相手と戦いたいだろうから蜘蛛族対カマキリ族、猫人族対犬人族で良いだろう。んじゃ、別れろ」


蜘蛛族とカマキリ族は僕、猫人族と犬人族は百合子さんが審判役を務める。

この平野はだだっ広いので距離を取れば同時進行も出来るはずだし、いざとなったら僕か百合子さんが互いの試合の邪魔にならないようにどうにかすればいい。

猫と犬を引き連れて歩いていく百合子さんを見送り、僕も審判としての役目を果たすとしよう。

お互いにギチギチと威嚇音を立て睨み合う蜘蛛族とカマキリ族の族長達の間に立つ。


「念の為に言っておくが殺すのは無し。それと重傷を負うような怪我をさせるのも無し。危うい場面があれば割って入らせてもらう」


僕がそう言うと両者同時に頷く。

早く戦わせろと目で訴えてくる。

お望みどおりにさせる為に5歩後ろに下がり、2人から距離を取る。

ぱっと見少女vsアマゾネスという感じの両者から、どんな試合内容になるのか想像がつかない。


「両者ベストを尽くして戦うように。では、始め」


僕の掛け声と共に両者正反対の行動に出た。

蜘蛛族長は距離を取ろうと下がり、カマキリ族長は距離を詰めようと前に。

蜘蛛は糸を口と両手から放ち、足を止めようとする。

カマキリは軽く跳びそれを回避。


「デカい癖にちょこまか動くでない!」


10本の指先からそれぞれ糸を通じて紡ぎ、バラバラな軌道を描き獲物を狙う。

避ける動作を見せずに、カマキリは肩の大鎌で糸を薙ぎ払う。


「そっちこそ相変わらずネチネチと陰険な攻撃ばかりしてくるわい!どれだけ性格がねじ曲がればそうなるんだ!…わいっと!」


薙ぎ払った糸は大鎌に絡みつき、力比べとなった。

見た目だけなら圧倒的にアマゾネスっぽいカマキリ族長が勝ちそうだが、一瞬だけ拮抗。

次の刹那糸は呆気なく切れ、カマキリ族長が一瞬体勢を崩す。

蜘蛛がわざと糸を切ったのだ。

すかさず粘着性の糸を地面に張り巡らせる蜘蛛。


「ちぃぃぃ!」


カマキリは前に出るのは危ういと大きく後ろに跳躍しながら、風魔法で鎌鼬を放つ。

それを危なげなく回避し、互いに睨み合いの体勢に入る。


「こんの若作りババァ!正々堂々戦え!」


地団太を踏みながら怒りを露わにするカマキリ。

涼し気に仁王立ちし、無い胸を張る蜘蛛。


「正々堂々力勝負ではわしが負けるではないか。如何に優位に立ち回れるか知恵を凝らさんから、カマキリ族は馬鹿なんじゃ」


馬鹿にするように頭をトントンと叩いて見せる蜘蛛。

見る見るうちにカマキリ族の顔が赤くなっていく。

蜘蛛の挑発行動は効果抜群のようだ。


「うるぅぅあぁあぁあぁぁぁ!!!!」


人の姿を脱ぎ捨てるカマキリ。

現れたのは2階建ての建物ぐらいの大きさの巨大なカマキリ。

もう少し距離を取った方がいいと判断し、2人から距離をとる。

蜘蛛は楽しそうに巨大になったカマキリを見上げている。


「おーおー。あの程度で頭に血が上ったか。本当に…」


最後の言葉は音にならず、口だけが動く。

僕の見間違えではなければ「可愛い奴よ」と動いていた。


「シィネェェェェ!!!!!」


巨体からは想像できない速さで振られる鎌。

人の姿の時は肩から一対の鎌だったが、今は更に増えて二対の大鎌。

寸分たがわぬ軌道を描き、四本の大鎌が蜘蛛に襲い掛かる。


「殺すのは無しと説明を忘れたか、筋肉馬鹿」


小さな体を存分に使い回避行動をとる蜘蛛。

時には伏せ、時には軽く跳躍。

空振りに終わった鎌は地面に突き刺さり、抉る。

衝撃の強さで巻き上がる土煙。

僕は土煙を吸わないように服の袖で顔を覆う。

金属が擦れる音が土煙の中から聞こえてくる。

これでは何も見えないので土煙を風魔法で散らす。

見えてきたのはカマキリだけ。

嬉しそうに鎌を空に向けている。

金属が擦れる音はカマキリの笑い声なのだと気付いた。


「カッタ!」


勝利の声と共にカマキリの巨体が消えた。

その代わりに土の下から現れた蜘蛛。


「すぐに油断するから馬鹿なのじゃ」


土で全身汚れている蜘蛛だが、ドヤ顔をしている。

近づいて見に行くと僅かに土から顔が出ているカマキリが見えた。

土の中に身を隠していた蜘蛛は、カマキリが油断した瞬間に土魔法で作った落とし穴に埋め立てたようだ。

もがいて力任せに土の束縛から逃れようとするカマキリ。

だが、上手くいかないようだ。

しゃがみ込み、カマキリの顔をツンツンと指先で突く蜘蛛。

凄い良い笑顔を浮かべている。


「無駄じゃ無駄。わしの糸も紛れさせ、土の下では全身グルグル巻きになっているんじゃから逃げれん。頭に血が上って図体をデカくしたのが敗因じゃな」


これは蜘蛛の勝利で良いだろう。

ましてや、カマキリの方は殺そうとしていたようだし。


「勝者、蜘蛛族」


僕の言葉にカマキリはもがくのをやめ意気消沈する。

さて、百合子さんの方はどうなっただろうか。

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