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夕暮れ時にゲゲが僕達を呼びに来た。

宴の準備が出来たとのこと。

僕が立ち上がると何故かズズは僕の方に腕を伸ばしたまま動かない。

意図が分からず首を傾げると更に手を伸ばしてくる。


「抱っコ」


どうやら抱っこがお気に召したようだ。

仕方がないのでズズを抱き上げてやると満足の表情を浮かべる。

ゲゲは肩を竦めるだけで特に諫める様子はない。

苦笑しながらズズを抱きかかえ、ゲゲの後をついていく。

宴の場所は馬鹿長がいた木の建物の横。

女子供全員合わせても50人に満たない人数。

これで人間が軍を率いてきたらひとたまりもないのでは?と他人事ながら心配してしまう。


「わっはっはぁ!これより宴を始める!始まりの舞を舞う者達よ、準備が出来次第舞うがよい」


建物の屋根の上、夕日を背に仁王立ちしながら宣言をする馬鹿長。

その声に即座に反応した数人の女達。

不思議な歌声だった。

そもそも歌声と評していいものなのかもわからない。

1人1人が様々な楽器の様な音を喉を震わせ発声している。

歌っていない者達は地を力強くリズミカルに踏み始める。

全ての音が重なり重厚な音楽を作り出す。

急に始まった音の祭りに僕と百合子さんは呆然と飲み込まれる。

建物のドアが開き薄い布を纏った女達が出てきた。

糸を染め上げた物をカツラとして被り、それぞれが何かの役をしているのが分かる。

中には猫や犬、兎の耳を着けていたり、カマキリの鎌を腕に着けている者もいる。

始まりの舞が始まった。


様々な亜人達と白い人が旅をしている。

皆仲良く楽しそうに笑い合っている。

しかし楽しい旅も終わりを告げた。

共に行こうと白い人が手を差し伸べるが亜人達は一様に首を振る。

悲しげに頷き、白い人は立ち去る。

亜人達は力を合わせ生きていた。

人間に扮した者が現れては、亜人達が戦い追い返す。

時が経つにつれ、亜人達の中で争いが増えた。

話し合いそれぞれが離れた場所で暮らし始める。

それでも人が襲ってきたら亜人達は力を合わせて戦っていく。

最後は白い人と黒い四足獣が亜人達の前に現れ、亜人達は頭を垂れる。


舞の内容はそんな感じだったと思う。

というのも雰囲気に呑まれ夢心地だったからだ。

夕日も既に沈みかけ当たりは薄暗い。

篝火に火が灯され、橙色の光が周囲を照らす。

気が付くと舞は終わり、御座が地面に敷かれる。

ズズに手を引かれ一緒に座る。

大きな葉を器代わりに料理が続々と目の前に置かれる。

料理と言っても肉や魚を焼いただけ、木の実はそのままというものだ。

酒だと出されたのは真っ黒な液体。


「舞を踊った者達よ、ご苦労であった!あとは好きに食べて飲んでよし!」


元気いっぱいの馬鹿長はご機嫌な様子で労い歩いている。

女も子供も食事に手を伸ばし、楽しそうにしている。

僕と百合子さんも素材そのままの味を味わう。

暫くすると馬鹿長がズズを退かし、僕の隣に腰をかけた。

真っ黒な謎の酒を飲みながらこちらに笑いかけてくる。


「伝承が何なのか分かっただろう?」


口内に残る肉を押し込む為に謎の酒に口をつける。

珈琲のような風味に若干のアルコール。

微妙な味わいの酒だが、吐き出すほどでもない。

ゆっくりと酒を飲み干してから答える。


「なんとなくではあるが、な。出来ればもっと詳しく教えて欲しい所だ」


ほろ酔いなのか馬鹿長の上半身は左右に揺れている。

目を閉じ何かを思い出す様な口ぶりで話し出す。


「遥か昔わし等の祖は月の光と旅をした。人間に迫害を受けていたわし等の祖を月の光が助けてくれたのがきっかけだったと聞いている。月の光は人が少ない土地を探し自分の住処を探していた。わし等の祖は恩返しの為についていったんだ。旅の果てに見つけたのがこの大陸。月の光は豊かな森を作り上げ様々な者達を受け入れ住み始めた。勿論我等の祖も共に住もうと言われたが、人間がこの大地に容易に入って来れぬようにこの場所で見張りをすると言って断った。その時に月の光があることを言い残して立ち去ったと言われている」


そこで言葉は一旦区切られた。


「自分と同じ髪色をした青年と黒い四足獣が再び現れれば彼等に力を貸すように。とな」


謎酒を一口飲み、更に言葉を紡ぐ。


「まさか伝承通りに現れるとは思わなんだ」


ニヤリと口元を歪め笑う馬鹿長。

僕と百合子さんは絶句した。

月の光とは十中八九ルゥナさんのことだろう。

だが、何故ルゥナさんは僕と百合子さんがここを訪れることを遥か昔から予期していたのだろうか?

思い返せばルゥナさんはこれから起こることを知っているような発言を幾つもしていた。

ルゥナさんは未来予知の能力を持っていた?

分からない。

僕は頭を振る。

僕と百合子さんの動揺をしり目に馬鹿長は楽しそうに謎酒を飲み続ける。


「わし等蜘蛛族は伝承通りお前らに力を貸そう。手足として使うがよい。はっはっはっはっは!!」


結局僕と百合子さんは上の空の状態で宴に参加する羽目になった。

頭の中にあるのはルゥナさんのことばかり。

宴が終わった後も眠れぬ夜を過ごした。

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