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寝返りもうてずただウゴウゴと手足を動かしてた僕が今では歩いたり走ったり出来るようになった。
多分2歳か3歳ぐらいだろう。
ルゥナさんの謎の液体のおかげなのか風邪をひいたりと体調を崩すことはなくすくすく成長している。そして木の実なども食べれるようになった。
そういえば女装騒動があったあの日からギルさんが優しくなった気がする。
「お前が小汚いとルゥナ様まで汚れる」と新しい服を持ってきて着せてくれたり、「お前が馬鹿だと育てたルゥナ様に迷惑が掛かる」と本を持ってきて読み聞かせをしてくれたりと色々と世話をしてくれる。
「ギユ、だっこ」
まだ少し舌っ足らずな話し方だが意思の疎通がとれるようになったのは有難い。
少し離れた木に腕を組んで凭れ掛かっていたギルさんの所まで歩いていくと、ため息をつきながらも抱き上げてくれる。
「もう疲れたのか?そんな軟弱者ではルゥナ様のお役には立てんぞ。お前はルゥナ様に育てられたのだから何もかも全てをルゥナ様の為だけに捧げ恩返しをしていくのだ。」
そんな事を言いながらもギルさんの僕の頭を撫でる手は止まらない。
拾われた時は気づかなかったけど、元々僕の髪は黒だったらしい。
成長と共に少しずつ髪の毛は黒から暗い灰色に変わっていた。
「私の魔力を飲んでるせいかな?」とルゥナさんがボソッと言っていたけど、あの謎の液体は魔力だったのかな?
「ギユ、お魚とりに行きたい。おなかすいた」
腹からはギュゴォとあまり可愛くない音が出る。
撫でる手を止め、思案顔をするギルさん。やだイケエルがここにいるわ。
「今日はルゥナ様が不在だからあまり神樹から離れるのもな。魚捕りは明日にして、今日は手元にあるものですませよう。」
神樹とはこの森で一番大きな木でルゥナさんと僕が住んでる家でもある。
見上げても太い幹しか見えず、根元には扉がありその中は居住空間になっている。
中は広々としており数十人入っても余裕がありそうだ。
木で出来た家具は全てルナエルフさん達の手作りだとか。
細部まで装飾にこだわった家具は相当な値打ちになりそうだ。
「手を洗っておとなしくしていろ」
台所にある水瓶から柄杓で水を掬い桶に入れる。
その桶で手を洗うと土で汚れた手が綺麗になっていく。
水が冷たくて気持ちいい。
ギルさんは棚から食材を出して料理を始める。
手が綺麗になったら邪魔にならないように部屋の隅に置いてある絵本を読み始める。
~始まりの龍~
昔々、まだこの世界が真っ白だった時のお話です。
神様と始まりの龍がおりました。
「龍よ、私と一緒に世界を創ろう。どんな形にしようかな?」
神様と始まりの龍は世界を捏ねて形を作り上げました。
「龍よ、私と一緒に世界に色をつけ、命の種を蒔こう」
そう言って神様は始まりの龍と共に世界に色をつけて様々な命の種を蒔いていきました。
「龍よ、命の種はいつ芽吹くかな?楽しみだね」
神様は始まりの龍と共に芽吹くのを楽しみ待っていました。
しかし待てど暮らせど種が芽吹くことはありません。
何故なら芽吹くためには命の栄養が必要だったからです。
「龍よ、私は種の為の栄養となろう。私の代わりにこの世界を見守り慈しんでおくれ」
神様は龍に七色の力と一冊の本を授けた後に風にとけて消えていきました。
世界の隅々まで風は吹き神様は世界と一つになった時、種は一斉に芽吹きました。
あまりに美しい光景に始まりの龍は一滴の涙を流しました。
涙は七色の光を放ち、世界に落ちました。
始まりの龍が流した涙は世界に魔法の力をもたらしました。
こうして今の世界があるのでした。
始まりの龍は今日もどこかで私達を見守っているでしょう。
可愛らしい絵で描かれた絵本だ。
しかし最後に流した涙は感動の涙だったのだろうか。
神様がいなくなって一人になった悲しみの涙だったんじゃないのだろうか。
何となく納得いかない。
そんな事を考えていたらギルさんに呼ばれた。
昼食が出来たようだ。
美味しそうな匂いに誘われ絵本をその場に置きギルさんのもとに走っていくのだった。