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取り残された僕と百合子さんはギルド長と睨み合っている。
さっさと冒険者登録と従魔登録して立ち去りたかったのに本当に面倒だ。
次は何を聞いてくるのだろうか。
百合子さんはツンとソッポを向き完全に僕にギルド長との会話を委ねている。
「残ってもらって申し訳ないですね。正直君達は信頼出来ないのでもう少し話を聞かせてもらいます。
その結果によっては街から出て行ってもらうかもしれませんし、警備隊に引き渡すことになるかもしれません。
質問は3つ。何の為にこの街に来たのか、君達はどこから来たのか、そして君達は何者なのか」
一つずつ指を立てこちらを窺ってくる。
僕は目をそらすことなく口を開く。
「この街に来たのは冒険者登録とユーリの従魔登録をする為。俺達は森でずっと一緒に暮らしていたただの田舎者だ」
そう言うとギルド長は真偽を確かめるためか僕を見つめ続ける。
暫しの間そうしていると先にギルド長が目を逸らした。
「嘘はついていないようですね。分かりました。冒険者登録と従魔登録を許可します。
詳しいことはへレーナにでも聞いてくれればいいです。もう出て行ってくれて構いませんよ」
疲れたように眼鏡を外し目頭を押さえるギルド長。
退出許可が出たならここにいる意味はない。
さっさと僕と百合子さんはギルド長室から出て一階に向かう。
部屋から出る際に溜息と共に「不気味な者達だ…」という呟きを僕は聞き逃さなかった。
彼は僕の瞳に何を見たというのだろうか?
一応要注意人物として頭の片隅に留めておくことにした。
僕と百合子さんに不利となることがあれば真っ先に潰すことにしよう。
受付カウンターまで戻るとまだあの鬱陶しい女がいた。
休憩用の椅子に座って待っていたようだ。
「待ってましたよアンバーさん!」
てっきり先に出て行ったと思ったのにまだいるとはまるで纏わりつく蜘蛛の巣のような女だ。
軽く女に手を上げ返事をし、ケバイ女に声を掛ける。
「ギルド長から冒険者登録と従魔登録の許可が下りた。すぐに登録させてくれ。その際説明も頼む」
ケバイ女は張り付けた笑顔を浮かべ「畏まりました。少々お待ちください」と言い席を立った。
明るい茶髪を綺麗に結い上げ、赤い口紅にバサバサのまつげ。
既視感があると思ったがあれだ。
前世ではテレビでしか見たことがないがキャバ嬢に似ているんだ。
納得し一人すっきりした気持ちでケバイ女を待っていると百合子さんから念話が来た。
≪アンタあの女に惚れたの?じっと見てたかと思ったらスッキリした顔して≫
思いもよらない発言に僕は固まる。
≪あらぁ?図星だったのかしら?≫
意地の悪いことを言う。
僕は人間が憎くて仕方ないのに惚れるわけがない。
百合子さんの両耳を掴んで引っ張り無言の抗議を行う。
百合子さんも負けじと尻尾で僕の頭を叩いてくる。
2人で無言のじゃれ合いをしていたらケバイ女が書類と水晶のような透明の球を持って戻ってきた。
僕達のじゃれ合いを見てほんの少しだけさっきの張り付けた笑みではない本当の笑みを浮かべカウンターの席に座る。
「お待たせいたしました。こちらの紙が冒険者登録及び従魔登録です。まずはそちらを記入して下さい」
差し出された紙には出身地、名前、年齢、特技を書く欄があり、もう一枚は従魔登録用らしく種族、名前、人の言葉の理解の有無等の
書く欄があった。
出身地にルナの森と書けるわけがないので空欄にし、本来の年齢の15歳ではなく20歳にした。
特技はあえてギルさんが教えてくれた弓と短剣ということにした。
百合子さんの方も僕が書いて欄を埋めていく。
書き終わってケバイ女に渡すと女は感心したように書類に目を通した。
「文字を読めて書けるなんて珍しいですね。冒険者をする人の多くは代筆を頼んでくるんですよ?」
出身地の空欄には特に何も言われず手続きが行われていく。
「文字すら読めない書けない馬鹿がルゥナ様の隣に立つ資格はない」とある日突然開催されたスパルタギル塾を思い出す。
1つ間違えれば拳骨が、2つ間違えれば片腕をへし折られ、3つ間違えればろっ骨をバラバラに砕かれた。
今は遠いスパルタ教育が懐かしい。
「では次にこの水晶に両手を置いて下さい。これにより魔力の量や適性属性等が分かります。強さによっては人からパーティーやクランの
勧誘も受けやすくなりますよ」
勧誘なんて鬱陶しいから要らないが、僕自身の魔力量とか適性属性が知れるのは有難い。
深く考えず言われた通りに水晶球に手を置いた。
次の瞬間水晶球は触れている部分から塵と化していく。
慌てて手を放すが既に水晶のほんの一欠けらしか残っていなかった。
ギルド内が沈黙に包まれる。
百合子さんの顔を見ると前脚で顔をおさえていた。
ケバイ女を見ると張り付けた笑みのまま固まっている。
振り返り休憩所の方を見るとたむろしていた数組の冒険者達はこちらをガン見し動かない。
鬱陶しい女は口に手を当て目を見開いている。
周囲の反応から察するにこれはあり得ないことのようだ。
さてどうするか。
まさか弁償ってことはないよな?
「…これはどういう結果だと判断すればいい?」
ケバイ女に声を掛けると意識が戻ったのか慌てて動き出す。
「今ギルド長を呼んでくるので少々そのままでお待ちください」
またあの眼鏡野郎に会うのかと思うと溜息をつきたくなる。
百合子さんが爪で僕の足の甲を遠慮なく突き刺す。
≪このお馬鹿!変に目立ったら人間に目を付けられやすくなるでしょうが!≫
お怒りモードの百合子さん。
怒っていてもちゃんと僕にしか念話を飛ばしてないのは流石だ。
小さく百合子さんに謝罪をして怒りを宥める。
「水晶球が塵になるって聞いたことがありませんよ!王宮筆頭魔法使いの方でヒビが入ったという話しか聞いたことがありません!
それを遥かに超えた偉業ですよ!アンバーさん!」
女が飛び跳ね興奮を露わにする。
キンキンと高い声が耳に響き頭が痛くなる。
足の甲は爪が刺さっていて痛いし、女の声で頭は痛いしこれは何の拷問なんだろう。
確かに何も考えずにやってしまったのは僕の落ち度だがまさかこんなことになるとは誰も予想が出来ないはずだ。
つまり僕は悪くない、と自己完結していると奥の部屋からギルド長とケバイ女が出てきた。




