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「おかえり。少し顔が赤いよ?お酒で酔ったのか雰囲気に酔ったのか。はたまた綺麗なお姉さんに酔わされたか。さあ、時間はまだまだたっぷりあるから聞かせてもらおうか」
すごく楽しそうなルゥナさん。
ギルさんは興味ないのかお酒を飲みながらひたすらルゥナさんにくぎ付けだ。
今日も今日とて残念なイケエルだ。アーメン。
「確かにお酒は少し飲みましたけど、あれぐらいじゃ酔いませんよ。
しかも綺麗なお姉さんに酔わされるならまだしも最高のお酒を造れる素敵な奥様持ちのおじ様に無理やり飲まされただけですしね」
肩を竦めて答えると想定していた答えではなかったからか少々口を尖らせ
「君って子は男を惑わす魔性の持ち主なのかい?私はそんな子にも性癖にも育てた覚えはないよ」
と爆弾発言を投下してくれた。
その発言にいち早く反応したのはまさかのギルさん。
「ぬっ!?だからお前は先程私に愛の告白をしてきたのか!悪いが私の全ては髪の毛一本すらルゥナ様に捧げている身だ。残念ながらお前の気持ちに答えることは出来ない」
まさかの一方的かつ勝手に振られたよ。
今日は僕の成人の宴で本来なら主役扱いしてくれてもいいのに途中忘れられてオジエルに絡まれた挙句一方的に振られた現状。
もう帰る時間になるまで食べて過ごそう、そうしよう。
さっき取ってきた料理を次々に胃袋に収めていく。
育ち盛りのこの体は二皿分の料理では足りなかったようだ。
また取りに行ってよっぱっふに絡まれても面倒なので今回は魔法を使用する。
手っ取り早く大皿ごと風魔法で浮かせて手元に持ってくる。
「こら!魔法を堕落の為の道具に使うなと教えていただろう!」
ギルさんが怒っているがやけ食いモードの僕には響かない。
そんなやり取りですらルゥナさんは楽しそうに笑って見ているだけだ。
元々の原因はルゥナさんの爆弾発言なのにその笑顔を見るとあっさり許したくなってしまうからズルい。
料理を頬張り頬を膨らませている僕が子供みたいじゃないか。
もやもやした気持ちが心を揺蕩う。
「さぁて!飲んでるだけではつまらぬので我等がルナエルフの最高峰!ギルバードに剣舞を舞ってもらおうじゃないか!!」
「うおおぉぉぉぉ!!」「ギルバード様ぁぁぁぁぁ!!!!」
長老カムバックアゲイン。
打合せとかはなかったようでギルさんが珍しく慌てている。
というかギルさんルナエルフ最高峰だったんだー。流石イケエルですねー。
女性の黄色い声援の方が強かった気がするけどこれもイケエルのなせる業ですね、分かってます。
ルゥナさんがギルさんに何かを耳打ちしていた。
何やら頷きやる気満々の表情でギルさんは長老の方へ向かっていく。
僕は名も知らない料理を貪りつつギルさんを見送る。
剣舞ってどこでやるんだろうと思っていたらギルさんは空いていたスペースに土魔法でステージを作り始めていた。
何その対応力。それがイケエルの秘訣?
僻み根性丸出しでギルさんを見ているとあっという間に剣舞を舞うステージが出来た。
長老から二振りの剣を渡されステージにギルさんが立つと先程まで騒がしかった広場に静寂が広まった。
全員の視線を一身に集めたギルさんは剣舞を舞い始める。
そこから始まったのは祈りに限りなく近い剣舞。
音楽を奏でる楽器すらなく、紡がれる歌声と体全身を使ったリズム、合間に剣が合わさる金属音。
声と体と剣のたった3つだけで彼は今この時この場所を支配していた。
瞬きをすることすら惜しく思ってしまう程にその剣舞を目に焼き付けたい。
荒々しさはなくかといって弱弱しいわけでもない。
ただその剣舞は見ている全ての者の心を静かに締め付けるのだ。
知っているはずのない悲しみと痛みを掻き立てるような。
「その世界で君は色々知ることとなるだろう。知りたくなかったと嘆いても無駄なんだ。結局僕も君も地球に住む人々も何もかもが≪キャスト≫なんだから」
何故かあの時の謎の少年の言葉が頭をよぎった。
僕はこの世界で何を知るのだろう。
何を知って嘆くのだろう。
あの少年は何を知って泣きそうな笑顔を浮かべていたのだろう。