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ギルさんと共に村の広場に行くと既に盛り上がっていた。
広場の中央では火が焚かれ普通自動車ぐらいの大きさの大きな豚?が丸焼きになっている。
その周りには毛皮が敷いてあり皆思い思いの場所に座って飲み食いをしている。
色んな料理が大皿に盛られ、傍に小皿とフォークのようなものが置いてあるテーブルがあちこちに設置してある。
更にそのテーブルの横には酒樽と器が置いてあり、酒は器で直接掬ってとるようになっている。
僕が思い描いてたエルフはもっと几帳面で神経質な取っ付きにくいタイプだったけど、実際は大雑把でワイルドなのかもしれない。
広場を見回しているとある一角だけステージのように一段高くなっており、そこには白い布が敷かれルゥナさんが座っていた。
楽しそうに騒ぐルナエルフの人々を慈しむように眺めていた。
「お待たせいたしましたルゥナ様。アルバを連れてきました」
ギルさんが跪いてルゥナさんに報告をする。
「ありがとうギル。アルバもお疲れ様だね」
ギルさんと僕に同じ所に座るように勧めてくるが流石にそこに座る勇気はない。
一段下の所に毛皮を敷いて座ることで何とか妥協してもらおう。
「朝から何も食べてないんだから料理とかお酒でも取っておいでよ」
ルゥナさんにそう言われると思い出したかのようにお腹が豪快な音を奏でる。
幸い賑やかな広場では周りには聞こえなかったが、当然近くにいるルゥナさんとギルさんには聞こえたようだ。
「ほらほら。今の内に食べておかないとまた手合わせだーって言われちゃうよ?」
いたずらっ子のように笑うと僕の背を押すルゥナさん。
ギルさんはルゥナさんから離れたくないのかその場に留まるようだ。
お言葉に甘えて料理を取りに行くと色んな人から声を掛けられる。
先程の手合わせを見ていたようで主に最後に使った魔法について聞かれた。
僕だって正直うろ覚えの知識で使ったものだから詳しく説明出来るわけもなく言葉を濁して料理を目指す。
あともう少しで料理が置いてあるテーブルだと思っていると
「皆の者!成人の宴は楽しんでいるだろうか!本日約百年振りの成人の宴だ!存分に食べて、飲んで、歌って、踊って、語り合おうじゃないか!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
長老カムバック。
やっぱり声でかい。それでもって皆さんノリノリだ。
あ、ちゃっかりルゥナさんも手を突き上げてノってる。
「日付が変わるまで飲み続けるぞ!」「おう!!」
「すべての酒は!?」「我等が飲み干す!!」
皆さん一斉にお酒をあおった。
全ての酒は我等が飲み干すというのは乾杯の掛け声のようなものなのか。
なるほどと納得していると酔っ払いエルフ(よっぱっふ)に絡まれる。
「兄ちゃん飲んでるかー?めでたい日に飲まなきゃ酒への冒涜だぞー」
肩に手を組まれると強烈な酒臭い吐息がこんにちわ。
よっぱっふのオジエル(おじ様エルフ)ですら整った顔立ちしてるってルナエルフ一族凄いや。
思考をどんどん遠くに飛ばしていると、熟練の手つきでオジエルは自分が飲んでた酒の器を僕の口に押し当て注ぎ込んだ。
反射で飲んでしまった。
葡萄っぽい香りとベリー系の甘酸っぱさが口に広がる。
飲み下すと胃の部分がほのかに熱くなる。
「美味いだろー?うちの嫁が作ったブドベリー酒なんだよー」
自慢するように胸を張るオジエルに毒気が抜かれ無理やり飲まされた怒りは萎んで消えた。
確かに飲みやすく美味しいお酒だ。
「初めてお酒を飲んだのですが、美味しいですね。甘すぎず酸っぱ過ぎず、実に絶妙なバランスで成り立っている至高のお酒だと思います」
オジエルのお嫁さん作のお酒を褒めると更に顔をくしゃりと歪め誇らしげに笑った。
ここの村の人は表情がコロコロ変わって感情豊かなようだ。
オジエルと少し話した後にその拘束から逃れ、ようやく目的の料理テーブルへと到着した。
豆料理っぽいものや、何かの肉と草の炒め物、川魚の塩焼きなど色んな料理が目に入る。
とりあえず適当に皿に盛っていく。
二皿分盛り付け、帰り道はよっぱっふに絡まれないように素早く慎重な足取りでルゥナさんの元に戻るのであった。