13
10歳になった。というのもギルさんが昨日教えてくれた。
僕を拾ってから10年経ったから10歳だろうと。
この世界にも暦はあるらしいが詳しい話を聞く前に帰ってしまった。
相変わらず森で魔獣達と遊んで死んだように寝る日々を繰り返していた。
野生児まっしぐらな生活のおかげで僕の体は野生動物のようにしなやかな筋肉がついて、嗅覚などの感覚が鋭くなった。
身長も順調に伸びている。
ギルさんは多分180㎝ちょっとで、ルゥナさんは170㎝位。
今の僕は140㎝ぐらいかな?
前世の感覚だから正確な数値は分からないけど目安としてはそんな感じだ。
今日も今日とて百合子さんと遊ぼうと思っているとルゥナさんに呼び止められた。
向かい合うようにテーブルの席に着く。
テーブルも椅子もメイドインルナエルフだ。
「アルバも大きくなったねぇ。これなら魔法の訓練を再開してもいいかもしれないね。」
手ずからにお茶を入れてくれるルゥナさん。
紅茶のような香りだが色は抹茶という中々美味しいお茶である。
「…でも僕はあの頃と比べてまだまだ成長出来てると思ってません。確かに身長は伸びたけどただそれだけです」
カップを握りしめ俯く。
脳裏に浮かぶあの光景とギルさんを殺してしまったと思った恐怖と戦慄。
「大丈夫。君はちゃんと成長しているよ。私が言うんだから間違いないさ」
何故だろう。ルゥナさんの声を聞くと心が軽くなる。
「僕に…出来るでしょうか…?」
顔を上げると優しい瞳で僕を見ていた。
なんでこんなに優しいのだろう。
なんでこんなに温かいのだろう。
「がん…ば…ます…」
涙が自然と溢れ声が詰まってしまった。
いつも僕はルゥナさんに助けられて与えられている。
あの頃は焦って恩返しをしようとして失敗してしまったけど、今の僕ならちゃんと出来るだろうか?
「焦らず着実に進みなさい。私の可愛い子よ。君なら出来る」
立ち上がりテーブル越しに僕の頭を撫でてくれた。
温度のないその手は何よりも僕の心を温かく包んでくれる。
もう一度魔法を頑張ろうと決意を新たに涙を拭って僕は立ち上がった。
「はい!」
僕の返事を聞いたルゥナさんは一際綺麗な笑顔を浮かべて頷いてくれた。
ギルさんは昼にはこちらに来てくれるとのことでそれまではいつも通り百合子さん達と遊んで過ごした。
焦らず着実に。その言葉を胸に今日からまた頑張っていこう。
そう思っていたのはもう数時間前で。
今の僕はぼろ雑巾にされ地面を転がっていた。
昼食をギルさんが作ってくれて久しぶりに三人でご飯を食べた。
その後昔僕が破壊した場所へとギルさんと共に移動。何故か百合子さん達魔獣もついてきた。
そこにはあったはずの穴がなくなりただ草だけが生い茂っているだけの状態だった。
「あの後ルゥナ様が穴を戻し草を生やしてくださったのだ。訓練するには丁度いい広さが得られたと木は生やさずにな。」
背の低い草は歩く邪魔にはならず確かに訓練するには丁度いい広場となっていた。
「さて、今日から魔法の訓練再開だ。今日の訓練は魔法の相殺。風魔法には土魔法を、火魔法には水魔法でという具合にな。相手の魔法を瞬時に判断し魔法を的確に行使すること。では始め」
ギルさんの説明が終わるや否や百合子さんを筆頭に魔獣達が次々に魔法を放ってきた。
え?ちょ!初日からこれ!?
一発も相殺できずに僕は髪が焦げたり風で切り傷を負ったり水で濡れたり土が口の中に入ったりと一瞬でボロボロになった。
「だらしない。しっかり見極めろ。第二射発射」
再び放たれる魔法。
威力は抑えられているが当たれば当然痛い。
歯を食いしばりながら耐える。
何度も容赦なく続く魔法の連打。
ギルさんは眉一つ動かさずこちらを見ている。
がむしゃらに魔法を放つが、火魔法に風魔法を当ててしまい火力アップさせてしまい服が丸焦げになった。
土魔法に水をかけてしまい泥団子のようになり目に入って悶絶した。
そんな調子で数時間後。
僕はぼろ雑巾になっていたのだ。
「明日も同じことをする。何が駄目だったのか自分で反省するように。」
そう言いながらギルさんは僕を肩に担いで神樹に戻り始めた。
ギルさんに体を預けつつ目を閉じて先程の訓練を思い返す。
周りの魔獣達はどう動いていたか、僕はどう考え行動していたか。
その結果どうなったか。
頭の中で訓練の内容をしっかり復習していく。
神樹に着くと容赦なく放り投げられ地面と熱いキスをすることになった。
「明日からは午前は剣術や弓などの訓練、午後から魔法の訓練となる。そのつもりで覚悟しておけ」
無慈悲な宣告をしてギルさんはさっさと立ち去った。
僕は痛む体を引きずりながらゆっくりと神樹の扉を開けて帰宅を果たすのだった。